70.事情説明
※以前執筆していた作品の87話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「いや、だって・・・こんな状況で竜が来たなんて言われたら敵だと思うじゃない・・・。」
エリアスが放った渾身の一撃は、着弾直前でルルの防御障壁が間に合ったため何とか僕たちは無傷ですんだ。
それでも、障壁が小さかったためシールは体の一部が被弾したようで、スフラの町に着く寸前で海に撃ち落とされてしまった。
ずぶ濡れになりながら、地味にルルが泳げないという事実が発覚したため支えながらどうにかスフラの町へたどり着くことができ、現在はコロンとエリアスが住んでいる家で治療を受けている。
魔法で飛べばよかったのでは?とも思ったが、エリアスの息吹は被弾した相手の魔法制御能力を奪ったり、魔力回路を傷つける効果もあったようで、全員自力で泳ぐしかなかった。
「兄上!帰還が遅くなってしまい申し訳ございません。」
「おぉ!我が愛しの弟よ!何、気にするな。母上からお前は新婚旅行に出たと聞いていたからな。むしろアガレス王国が滅ぶ前に戻ってきてくれたことに感謝するぞ。」
ノエル様が一体何をどう伝えたのか、確認するのも怖いのでこの話は適当に流しておいて、アガレス王国の現状を教えてもらった。
アガレス王国を攻めてきているのは召喚獣の軍隊が大半だが、一部に人型の兵士も混ざっているのが確認されているらしい。
そして、その鎧を身に着けている兵士はシトリ教国の紋章を掲げており、魔物を操っている召喚術者ではないかとのことだ。
「召喚獣の軍隊ねぇ・・・止めるには召喚術者か魔法陣を潰さないといけないから・・・シトリ教国に行く必要があるわね。」
「シトリ教国へ行くには防衛地点の先に行く必要があるな。現状はリュフカの町の手前で何とか留まっている状態だ。そこから先は敵陣の中を進み続けなくてはならなくなるぞ。」
シトリ教国側は現在母上が指揮を取っているらしく、そちらはシトリ教国の兵とウァレフォルの獣人兵に加え大量の召喚獣が未だ攻めてきているらしい。
母上が土魔法で巨大な防壁を作り上げなんとか追い返しているようだが、それも少しずつ破られて現在位置まで下がらざるを得なかったらしい。
「それならすぐに向かいましょう。リリムはシール君を背負ってあげて。グラは私が背負っていくわ。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?あなたたちは戦争とか参加しないんじゃないの!?」
シールに回復魔法を使っていたエリアスが驚愕の声を上げる。事情を知らない者からすればこの反応は当然だろう。
「アガレス王国は私の義理の兄の故郷ですから。窮地の際に助力をするのはある意味当然でしょう。私の、義理の兄の、故郷ですから。」
リリムが随分と含みのある言い方をした途端、エリアスの目がキラキラと輝きだし、ルルの襟袖を引っ張って別室へと連れ込んだ。
そして、それに続くようにリリムとコロンまで部屋に入っていったところで"詳しく話しなさい!"と声が聞こえた。
「グラセナよ、一ついいことを教えてやろう。エリアス殿はお喋り好きなようでな・・・一度話始めると長いぞ。」
「まったくいいことには聞こえませんが?まあ、シールの回復もありますし一日休んだほうがいいと思いますので・・・。」
シールは見た目はすっかり回復しているのだが、竜化をするのに一日休みが必要な上、エリアスの息吹で体内の魔力回路にかなり傷が付いたらしく、暫くは魔法制御が安定しないかもしれないとのことなので、一先ずは宿を用意してもらいそこで休むことにした。
「そういえばグラセナ、今回の戦争が起きた理由については知っているか?」
宿で休む準備をしていた所に兄上からの質問が飛んできた。ふと考えてみれば、この戦争を利用しようとしている者がいることは知っていても、戦争が起きた理由そのものは詳しくは聞いていない。
元々バエル王国とは、国境の位置だったり国宝の件だったりで険悪な雰囲気になっていたし、この戦争もその延長だろうと考えていたのだが、どうやら少しばかり事情が違うようだった。
「向こうの言い分としては、簡潔に言えばこの大陸の国々を一つに纏め上げようとしているようでな。バエル王国・シトリ教国・ウァレフォルの民は賛成し我々だけが反対した結果、アガレス王国を滅ぼして無理やり纏め上げようとしているようだ。」
何故今更そのようなことをしようとしているのかは不明なようだが、狙いは凡そ検討がつく。アガレス王国の王都は東西北が山に囲われた場所にあり、その山を流れる魔力が集まる中心地になっている。
魔力濃度は高くなっており普通なら人間が生活できるような場所ではないが、王宮内にある巨大な魔法石に魔力が集められており、それらの魔力制御を行っている魔法具のおかげで安定した生活が送れている。
アガレス王国の兵士の質がいいのも、その魔法石から魔力を分け与えられているためだろう。他国の兵士と比べても魔法の資質が高いため、少数ながらもここまで持ちこたえていることが出来ている。
「こんなことをする連中のことだ。あの魔法石を奪われてしまえば何をしでかすか分かったもんじゃない。残っている王宮騎士全員で山の見回りも行っているのだが、やはり山中に現れる召喚獣はこの辺りの物より強いらしくてな。負傷者が後を絶たない。」
それでも死者が出ることなく戦い続けていられるのは、陛下の回復魔法のおかげだろう。あの見た目からはおよそ想像も出来ないが陛下は非常に優秀な神官でもあり、回復魔法だけでみればエリアスと同等かそれ以上かもしれないとのことだ。
「エレナさんとかノエルさんを敵陣に突っ込ませたりはできないの?」
シールの疑問はこれから僕らが、というかルルとリリムがやろうとしていることを、あの二人が出来ないのかというものだが、単純な実力だけで言えば不可能ではないだろう。姉妹に劣るとはいえ一騎当千の二人なら戦況をひっくり返すことも出来るかもしれない。
「だが、奴らの狙いが王都である以上、こちらから攻め入ることは出来ない。二人が王都から遠く離れてしまえば王都を、魔法石を奪われてしまう可能性がある。」
エリアスが張った結界は戦争が始まってから破られこそしていないものの、強度が少しずつ削がれてしまっているようで、万が一の事を考えると今防衛に使っている戦力を攻めに回すことは出来ない。
「認証型結界という奴らしくてな。術者に登録された者は出入り自由に出来る結界らしいのだが、その分、結界の維持なんかは術者本人の魔力からしか出来ないらしい。エリアス殿は海から魔力を吸い上げて維持しているらしいから、この土地を離れるわけにもいかず手を焼いている。」
だからこそ、僕らがここで戻ってこれた事が大きい。結局はルルたちの力に頼りっぱなしになってしまうが、召喚士を探し出して暗殺するくらいの事は僕でも出来る。
とにかく、一日でも早くこの戦いを終わらせようと決意し休息に入った。
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