67.シールの失策
※以前執筆していた作品の84話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「わざわざ死にに戻ってくるとは愚かな・・・。」
「ただで死ぬつもりはないよ・・・若輩者でも、竜神だからね!」
話し合いの余地はない。目の前の二人組はわざわざ明確な殺意をこちらに向けてきてくれている。普通の人間ならその威圧感で身動きが取れなくなるほどの殺意を・・・。
そして、これほどの殺意をわざわざ向けてくるなんて、もう一人隠れていると言っているようなものだ。人の事は言えないけど、竜神は力がありすぎるがためにこういった小細工を交えた戦いは経験不足な部分が目立つ。
とはいえ現状は絶望的だ・・・。ただでさえ竜神二人相手など手に負えないというのに、目の前にガイムさんと立っているこの死神のような男は見覚えがある。
「こいつはまだ殺すな。こいつの裏にいる娘二人がお前の探している本命だからな。人質に使えるだろう。」
ガイムさんがそう呟いた瞬間に背中に衝撃が走り少しばかり前に飛ばされた。隠れていたミスフィが攻撃を仕掛けてきたのだろう。
その姿を捉えることは出来なかったけど、攻撃力が低いのは先日の模擬戦で把握している。少なくとも彼女が隠れた状態から僕の防御を突破することは出来ないはずだ。
「でも、本命はこの束縛の魔法だからね!すまんね風の子!」
この場をどう切り抜けようか考えていたのに、気が付いたら両手両足に別々の枷が付けられており体を動かそうにも全く動けなくなっていた。
「やば・・・全然気が付かなかった・・・。ちなみにこれって竜化したら無理やり壊せたり・・・する?」
「はっはっは!そんなやわな物を私が使うと思うかい?」
ケラケラと笑うミスフィに背中を叩かれ項垂れる。ただでさえ純粋な戦闘力で劣るというのに、こんな枷を付けられていては勝ち目どころか逃げることすら出来ない。
「ま、君やグラ少年に危害を加えるつもりはそんなにないから安心したまえ。」
「一つ聞かせてもらってもいい?何で、あんなやつと手を組んでるの?」
ガイムさんの隣にいる男、あいつは"氷滅"と呼ばれている蛮人。かつては氷を冠する竜神だったが、暴虐の限りを尽くしてその名を奪われ断罪されたはずだ。
そしてその断罪の場には、僕を含め被害者遺族が何人もいて全員が奴の死を目撃したはずだった。
だが、目の前にこうして生きている状態でいるということは、氷の秘術で時を止めることで死すら免れ、体が癒えるまで待っていたということだろう。
それも、普通の場所でそんなことをすればまた殺されるだけだが、幻想世界で体を癒していればその危険もない。
「本当は君たちも五年くらい凍っててもらうつもりだったんだけど、思った以上に君たち三人が強くてねぇ・・・グラ少年だけ凍ったままだとバレそうだから解除してもらったんだけど、こんなに早く気づかれるのは想定外も想定外だよ。さすがは天才だねぇ。」
ミスフィに褒められても馬鹿にされているような気しかしないが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
この男のことをルル姉たちに何としてでも伝えなければならない。何も知らずに戦いを挑めば、さすがの姉妹といえど負けてしまうかもしれない。
「諦めが良いのか悪いのかわからんな。この状況を脱する術など無いだろうに・・・ん?」
ガイムさんがぼやくと同時に地面が揺れ出し、僕の足元から何かが飛び出しかと思えば視界が暗転した。地面から飛び出してきた何かに丸ごと飲み込まれたのだろう。ミスフィはとっさに躱したが、枷を付けられた状態では逃げようもなく、暗闇の中に沈むしかなかった。
「シール君がいなくなってる・・・?」
フェロンに案内された民家で一泊し、目が覚めてみるとシールのベッドがもぬけの殻になっていた・・・というより最初から部屋を使っていなかったようで、そうなると日付が変わる前からどこかへと行っていることになる。
シールがそうそう遅れを取るとは思えないが、それでも一晩何の音沙汰もないのは不安になる。何を感じて何をするのか、今後はしっかりと伝えあって共有してほしいものだ。
「現状を考えるのであればあまり捜索に時間を使う訳にもいきませんね。フェロンに協力を要請しつつ私が探してきます。お二人は万が一に備えて船の手配をお願いします。」
リリムの言葉に頷き部屋を出るとそこには疲れ切った表情をしているフェロンと、申し訳なさそうに視線を逸らしているシールがいた。
話を聞けば、一年半ほど飛ばされた絡繰りにシールが気づき原因やら証拠やらを探りにいったが、そこで竜神二人に加えかなり危険な男に襲われたという。
そして、シールが持っていた使い魔のおかげでフェロンが異変に気が付き救出に成功したまではいいが、両手足に付けられた枷を外すことができず気が付けば朝になっていたそうだ。
「と、いうわけで・・・これ外せる?」
とりあえずルルが挑戦してみる。が、三分もしないうちにお手上げとばかりに諦めて、収納魔法の中から剣を取り出してきた。
「とりあえず、切り落として外してからまたくっつければいいんじゃないかしら?」
「僕は粘土じゃないんですけど!?」
「私たちは大抵この手の枷はそうやって外してきたので・・・大丈夫です。姉様の回復魔法は切れた腕をくっつけるくらいのことは出来ます。」
そういう問題ではない気もするが・・・とりあえずこのままでは猟奇的な方法による解決になってしまいそうなので僕も挑戦してみる。
開錠の魔法自体は隠密系統ではあるため当然使えるし、それが通用しないような物でもある程度知識はあるので何とかなるかもしれない。
この手の枷を外すには、正しい道順で適切な量の魔力を流しいれて魔法の核となる部分に届かせなければいけない。
その上で核を破壊してようやく魔法的な拘束を解くことができるのだが、その道順を辿るというのが、巨大で緻密な迷路に目隠しで挑むようなもので、簡単にできるようなものではない。
「んー・・・?あ、取れた。」
「そ、そんな簡単に・・・私の苦労は一体・・・。」
「魔法制御能力はエレナの子だし納得だとしても・・・隠密系の魔法に関しては私たちですら引くくらいね・・・。」
フェロンが疲れ果ててぐったりと椅子に倒れ込むように座ってぼやくが、こればかりはしょうがない。とりあえず四つの枷を全て外して詳しい事情を聞いてみることにした。
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