63.ミスフィの施し
※以前執筆していた作品の80話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて、それじゃ魔法の勉強と行きますか!」
ミスフィとシール君の模擬戦後、依頼していた隠密魔法に関して教えてもらう。肝心のグラさんが体調不良でいないのが悔やまれるが、そこは仕方がないと諦めている。
「隠密の魔法は大きく分けて隠蔽・看破・暗殺の三つに分かれるのよ。暗殺は・・・必要ないだろうから、隠蔽から勉強していこうかね。」
暗殺の魔法は基本的に攻撃力を上げたり、防御障壁を貫いたりするような技なので、私たちには必要ない。看破の魔法は覚えておいて損はないが、姉様とグラさんが結ばれた以上、遺跡内ではグラさんを頼ればいい話なのでこちらも後回しにしてもらった。
「あの少年はかなり隠密の魔法に長けている上に経験豊富だからね。あそこまで使いこなすのは難しくても、気配や姿を隠したりする程度なら誰でも覚えられるよ!」
私も多少は隠蔽の、気配隠しの魔法は使える。だがせいぜい一般人相手程度にしか効果がなく、ちょっと鍛えた者には見抜かれてしまうので、今までは戦場での不意打ちに使えなかった。
それでも増力をもってして相手の防御ごと貫いてきたのだが、不意打ちで防御される隙を与えずに攻撃できるようになれば、魔力消費もかなり低くなるので是非とも覚えたい。
「魔法陣を組み立てる基礎は・・・今更教えなくても平気だよね?それじゃ、これが隠密の魔法陣だから頑張って覚えてね。」
そういって見せられた魔法陣は、細部までとても細かくそして何より小さすぎてパっと見ただけではまったく理解出来なかった。
魔法を発動する方法は二つある。一つは魔力に直接情報を与えていき顕現させる方法。もう一つが魔法陣を使用して顕現させる方法。
どちらも基本的にやることは変わらず、魔法の種類や性質、込める魔力量などの情報を与えていき発動させる。
魔力に直接情報を与える場合は緻密な魔力制御が必要ではあるが、途中で書き換えが出来たり、後付けで追加付与が可能であったりと柔軟性があるのと、発動までの時間が早く済むという利点がある。
魔法陣の場合は予め描いておく必要がある点で利便性に欠けるが、発動させること自体には魔力制御能力はそこまで必要とせず、術式が安定するという利点がある。
魔道具のように安定して同じ効果を出す際は魔法陣を、戦闘などで瞬間的に必要とされる魔法を使う場合は直接魔力操作をするといった感じで使い分けするのが一般的だ。
他には今回のように、まず術式を理解し覚えるために魔法陣を使用することもある。
魔法陣を組み立てる時は、発動したい魔法に加えて自身の魔力を流す回路と、制御を奪われないようにするための回路なども加えなければならないのだが、これほど小さく精密な物だと、そんな物を加える余裕など少しもないように思える。
「大きく作っちゃうと自分以外も一緒に巻き込んじゃうからね。どんだけ気配を隠せてもそんなことになったら違和感だらけですぐバレるからね。」
改めて、適正というものの恐ろしさを思い知った。こんなもの私たちに使いこなせる訳がない。ただ魔法を使うだけならまだしも、制御回路を組み込めなければ簡単に看破されてしまうから意味がなく、魔力を流せなければそもそも発動が出来ない。
「グラっちがいっつも簡単そうにやってるから、そんなに難しくないと思ってたよ・・・。」
風の竜神ですら扱うことが出来ないようだったので、霧の竜神の講義はわずか10分足らずで終了してしまった。さすがに申し訳なく思ったので謝罪をしたところ、隠密の魔法をそんな簡単に使われたら困ると笑っていたので、最初から使いこなせないことは分かっていたのだろう。
「私が研究している幻術の魔法も、基本的に似たようなものだからね。闇魔法なんかと同じで、適正がなきゃ到底使いこなせるものじゃないよ。」
それでも、世の中には理外の天才というものがいるらしく、適正無しでも習熟してしまうような人がいるらしい。
一人だけ心当たりがあるので、いつかアガレス王国に行った時に試してもらおう。
「まあ、母上なら出来ると思うけど・・・頼むから教えるのは辞めてくれ。面倒なことになる気しかしない。」
昼時になり、リリムが昼食の注文を聞きにくるついでに霧の竜神の話をしてくれた。確かに隠密系の魔法を覚えるのはかなり苦労したが、そこはあの母上の血を引いているからだろうか、大体は子供の頃に使えるようになっていた。
「というわけで、残念ながらお二人の情事をこっそり覗くことができないので、する時は事前に教えてください。見学に来ますので。」
リリムが口元を抑えてにやにやしながら言っているのを聞いて、ルルが怒って追い出してしまった。昼食の注文がまだ出来ていないが、食欲もないので特に問題はないが・・・ルルはそうはいかないだろう。
「僕は大丈夫だから、ルルはご飯食べてきたら?朝も食べてないんだろ?」
「そう?それじゃ私はお昼を頂いてくるわ。あなたはゆっくり休んで、元気になったら・・・昨日の続き・・・ね。」
そういって外に出ていったルルを見送って、体がまた熱くなるのを感じる。朝起きたときよりかは幾分かマシにはなっているが、未だ万全とは言い難い。こんな状態でしてしまったら、快楽と共にまた気を失ってしまうかもしれない。それは少しもったいない。
「それで、あなたは何の御用でしょうか?」
「およ?、色々教えて欲しいって言ったのは少年の方ではないか。」
そう言って姿隠しの魔法を解除したミスフィは、手に持っていた物を僕の体の上に置いてきた。
「袋の中に特殊な氷を詰めてあるよん。少年の体調不良は体温が高くなりすぎているのが原因だから、それで冷やせばすぐに良くなるっさね。」
そういわれ袋の中を確認してみるが、特に変わった所もなく普通の小さな氷が詰められていた。まあ、体温が下がらないのが原因だろうとは思っていたから、素直に受け取り脇の下に置いておく。
「それと、少年にこっそりこの薬を渡しておくよ。それをどうするかは君の自由にしたまえ。」
赤い液体の入った小瓶を渡され、他の三人にはその薬のことはバレないようにしろと念を押されたので、隠蔽魔法を掛けて見つからないようにしてから収納魔法の中へ仕舞う。
渡された物は毒の竜神の遺産だという。それが何を意味しているかは何となく察する。だが、確証がある訳ではないし、飲んで死なない保証はないという。
それでも、現状抱える問題の一つを解決する手がかりくらいにはなるだろうと、それだけ伝えるとミスフィは部屋から出ていった。
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