58.七百年前の竜神
※以前執筆していた作品の76話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて、君たちの目的は風の子からも聞いている。700年前に倒れた竜神に関してだったな。」
一通り食事も終わり、リリムが出してくれた紅茶を飲みながらガイムさんが切り出した。欲しい情報は700年前にルルたちの手によって倒された竜神が何者で、その財宝はどうなったのかということだ。
「財宝に関しては各国の英雄が殆ど持ち帰り国宝として各国に継がれていると聞く。こればっかりは内容を詳しく知らないから何がどの国にあるかまでは判らないが、倒された場所・・・つまりはその竜神の住処に俺達が向かった時にはすでにもぬけの殻だった。」
これはなんとなくではあるが予測はついていたことだ。世間的には竜神を倒したのは各国の名にもなっている英雄たちとなっている。
どの国にどれだけの物があるかまでは判らないものの、凡そどの国も同じくらいの財宝が継がれているだろう。
「なるほど。各国に継がれているというのなら回収は諦めたほうがいいですかね?特に悪用されている様子もないようですし。」
二人の目的はどうしても欲しいものがあるというわけではなく、強力な力を持つ品々が悪用されないように管理することなので、現状特に問題ないらしい。
強いてあげるならば、竜神との戦闘に備えて用意した武器や防具も一緒に回収されてしまっているらしく、それを回収できればいいな程度だという。
「悪用される可能性で言うのなら、奴の研究内容の方が危険だろうな。倒された竜神が冠していたのは"毒"。万が一にもその知識を得た者がいれば、国の一つや二つくらい簡単に滅ぼすことができるかもしれないな。」
「本人は毒を名乗っていたけど、私からすれば薬の竜神ってほうがしっくりくるかな。まあ薬も毒も似たような物だし。」
食べ過ぎたと言って寝転がっていたミスフィが起き上がり話を続ける。研究していた内容は、一般的な毒というより、人体を改造したりするための毒薬を研究していたらしい。
超人的な力を手にしたり、不老不死を手に入れたりといった内容だったらしく、つまりはルルたちみたいな者を生み出す研究ってことだろうとシールが結論付けた。
「まあ危険は危険だな。だが、研究のまとめなんかは古代の、しかも竜種しか使っていない言語で記されているからな。あれを読めるのはもはや俺達二人くらいだろう。」
そういう二人も現在はその言語を使っているわけではないので、紙1枚分読み解くのにもかなりの時間が必要だと笑っている。だがそれでも不安材料に若干心当たりがある。
シトリ教国の宗派の一つに、知の神を崇める宗派がある。そこに属している者が天啓を受けると常人ならざる知力と知識を得ると聞く。馬鹿げたおとぎ話にも聞こえるが、万が一の可能性がないか調べておく必要があるだろう。
「奴の研究していた内容の一つが不老不死でな。実はその薬は完成していて何人か口にしている。もちろん奴自身も口にしていた。細かな理屈なんかは教えられなかったが、今現在こうして俺達が生きているのはその薬の影響だ。」
これにはさすがのルルたちも揃って目を丸くしている。人類の叡智の到達点とまで言われている不老不死の薬が、実はそんなはるか昔から存在していたというのだから、驚くなというほうが無理がある。
「まあその薬は純血の竜種くらいの力がないと、飲んだときの細胞破壊の衝撃に耐えれなくて死んじゃうんだけどね。何人か普通の人間も飲んでいたらしいけど、全員即死しちゃって薬は失敗作なんじゃないかって疑ったくらいだもの。」
よくそんな薬を飲む気になれたもんだと呆れてしまう。何故死んでしまうのか、その理屈を聞いていたから大丈夫だろうと思って飲んだらしいのだが、かなりの激痛が走ったらしく、人の耐久力や精神力じゃまず持たないということに納得したらしい。
「不老不死の効力に関しては・・・恐らくだが君たちと同じだろう。体を傷つけられてもすぐに癒え、大病にかかることもない。だが、存在を丸ごと消失させるような攻撃を受けたらさすがに死ぬようだ。それは君たちが証明している。」
毒の竜神がルルたちの手によって倒されたのは、ルルたちの火力が高かったのはもちろんだが、自分自身でも攻撃に合わせて自爆を計ったからではないかという。
「さっきも私両腕と頭を吹っ飛ばされたけどこうして無事だからね。というか思い出したよ!アレは滅茶苦茶痛かったし熱かったぞ!」
「だから、さっき謝って私の魚一匹あげたじゃない。」
「はっ!そうだ!僕も思い出した!その倉庫を確認に行かなくちゃ!」
首をさすりながらルルと口論を始めたミスフィと、倉庫の中身を確認しにいこうとしてリリムに首を掴まれ止められたシールを黙らせてガイムさんの話が続く。
「一応、君たちも死ぬことはできるだろう。もし君たちがいずれそれを望むのであれば、俺達が力を貸そう。だが、残念だが何故君たちがそうなっているのかまでは判らない。」
すまない、と頭を下げるガイムさんに、特に気にしていないし死ぬ予定も無いとルルが告げている。
長く生きることに嫌気がささないのかと訪ねれば、茶碗一杯分の幸せがあれば、十分生きていく糧になるという。他の三人も同じだと頷いており、違いはせいぜい好きな食べ物の差くらいだった。
「今後君たちがどうするかはゆっくり決めるといい。ここにいる限りは住居と食事は好きなだけ提供しよう。いや、食事はもう少し抑えてくれると助かるな。毎日この量を料理するのはさすがに疲れる。」
そういって笑うガイムさんに苦笑いをしながら感謝の言葉を述べる。住居はガイムさんが土魔法で新しく家を作ってくれるらしく、ミスフィでも干渉できない程の物を作るから、中で何をしていても覗かれたり盗み聞きされる心配はないと説明された。
その言葉が意味する所は察するが、そんな意識のさせられ方だと逆に何も出来なくなってしまいそうだ・・・。
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明日8/1から少しの間ですが0時と18時の2回投稿となります。
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