50.懺悔と誓い
※以前執筆していた作品の68話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「私は・・・あなたを・・・許すことは出来ない・・・。」
ウアル連合国王城の謁見の間で、静かに響いたレオナの、声こそ張りがないが明確な意思表示を見聞し、周りにいる者は全員が納得の表情を浮かべていた。
ルルと連絡が取れなくなったとシールから聞かされ、王都の防衛もしなければならずどうしたものかと考えていたが、夜間警備のために王都内を見回っていたところ、酒場で飲んだくれているルルと・・・なぜか一緒に飲んだくれているフェロンがいた。
聞けばフェロンがやっていたことは、呪いの研究らしく、それはルル達の呪いの解呪にも繋がるのではないかという。
そのために彼女を生かしておき、歯向かったり、今後悪事に手を染めることがないよう隷属契約を交わしたそうだ。
ついでに言うと、キセ領領主としての働きは本当で、彼女が来てからキセ領はゆるやかにだが活気づいているようだ。それが経済的になのか、彼女の見目からくるものなのかは何とも言えないが・・・。
さらにはもう一つの研究、使い魔の方もウアル連合国にとっては大きな利のある話で、決して質の高くないウアル兵たちだがその数は多く、彼らから魔力を集めることで質の高い兵士を作り上げることが出来るとのことだ。
その数がおよそ百人分でやっと一人分の兵士が出来るそうで、そのために各領から多くの兵を集めていたそうだ。尤も、それで作った兵は、仕方ない部分はあるが、ルルが全て消し飛ばしてしまったらしい。
色々と問題や課題はあるようだが、この研究が成果を出せばウアル連合国はかなりの武力国家となることも出来るだろう。個人に頼っているアガレスとしては羨ましい限りだ。
食事などを必要としない兵の数が増えれば、夜間の守護も任せることが出来るし、小さな村の守衛としての配備もできるだろう。
ルルがそう言ってウアル国王に直談判したらしく、フェロンは今回の事件に関しては実質殆どお咎め無しという異例の処置を与えられていた。
そして打ち上げと称して二人で飲んだくれており、僕に見つかってやっと誰にも報告していないことに気がついたようだ。
そして結婚式当日、何事も問題なく・・・レオナの両親がルルたちに気が付いて、そっちで色々揉めていたらしいが・・・ルルが氷漬けになっていたりリリムが火だるまになっていた以外騒ぎもなく、無事に終了した。
やはりアガレスから僕が出てきたのは他国の方々にも印象が悪かったようだが、ランドロー王子が事情を説明してくれたおかげでむしろ医者の手配などを提案されてしまった。
もちろん疫病など嘘なので本当にこられてしまったら色々とまずいので断ったが、それでも思っていたほどの問題にはならず、ウアル連合国王家の方々には結婚式後に改めてノエル様と挨拶に伺った。
「結局今回の収穫はこの宝石1個かぁ・・・なんか、苦労した割にはって感じだねぇ・・・。」
ウアル倉庫にあった物に関しては、今後のフェロンの研究に必要かもしれないということで、4人がそれぞれ魔石の宝玉が1つずつ受け取っただけになった。
これもルルの提案によるものであったし、今回の功労者は結局ルルとリリムなので、むしろ特に何もせずにこれだけの物が貰えただけでも価値があると思うのだが、シールにとっては合金とかのほうが欲しかったらしく、少しばかり不満を漏らしていた。
「そりゃ、手に入れようと思えば手に入る程度の物とはいえだよ?あれだけ質の高い状態の合金なんていくらお金を出せばいいのか・・・考えただけでも寒気がするよ。それが手に入ると思って頑張ったんだけどなぁ・・・。」
どうやらシールは本当に納得がいっていないようで、さすがにウアル連合国の人たちに聞こえないようにぼやいているが、報酬の少なさに不満が溜まっているようだ。
「本当だったら竜神一人の力を借りるだけでも、前払いであの宝物庫の半分くらいの宝とかが必要なんだよ?それに加えてルル姉やリリムはもちろん、グラっち達まで巻き込んでこれしか払わないんじゃ、色々とマズい訳ですよ。」
確かに竜神やルルたちが安く見られてしまいかねないということでもあるし、ウアル連合国がその程度の報酬しか払えないと思われてしまう。
「確かにシール君が得た報酬は少ないかもしれませんね。では、私から個人的に報酬を。」
先ほどまでレオナの両親と話していたはずのリリムがこちらへ戻ってきたかと思えば、シールを抱きしめて頭を撫で始めた。
「今回、シール君がいてくれたことが非常に助けになりました。あなたのおかげで無事にこの日を迎えることができたと言ってもいいでしょう。よく頑張りました。」
「・・・森羅万象、全ての現象事象存在に・・・ありがとう・・・。」
さすがのシールも好きな女性にあそこまでされると壊れてしまうようだ。よく分からないことを呟きながら柔らかなリリムを堪能していた。
そして、結婚式から数日が経ったある日、改めてフェロンが王城を訪ねてきた。
「レオナ様に・・・会わせていただけませんか・・・。直接謝罪をしたいのです。」
今はルルによって魅了の力も完全に封じられているらしいのだが、それでも衛兵たちは鼻の下を伸ばしている。だがそれでも、さすがに王城内の兵士は事情を知っているため返答は常に拒否的なものであった。
結婚式の日から毎日、こうして王城を訪れているらしいのだが、未だに一度も対面できていないらしい。当然と言えば当然だが、今はルルたちがいる訳だし一度くらいいいのではないかとも思う。
「それはさすがにおかしいよ。アガレス王国の王族がどうなのかは知らないけど、命を狙ってきた人が改心しましたって言ってきたって信じられるもんじゃないよ・・・。」
シールにそう言われてしまい、いかにアガレスが平和ボケしているのかを教えられてしまった。
アガレス王国はアガレス王国で、隣国と緊張状態にある訳だし平和とは言えないのだが・・・そもそも自身の実力が違い過ぎるからだろうか、うちの王族をどうにか出来る実力者など、ルルとリリム以外に思い当たらない。
だが、今日も同じように王城を訪れ同じような会話を衛兵として帰ろうとしたフェロンに対して、声を掛ける者がいた。
「キセ領領主フェロン殿。・・・レオナ様があなたに会ってくれるそうです。グラさんたちもどうぞ。関係者を集めて今一度話し合うそうですので。」
衛兵たちの間から声を掛けたのは、レオナの従者であるセインであった。そしてその隣には、すでに双剣を抜いており威圧するような雰囲気を出しているアルルもいた。
フェロンが二人にも謝罪をし案内を受けているが、道中一言も喋らず、無機質な表情のまま速足で進んでいた。
案内された部屋は謁見の間のようで、レオナ以外にウアル国王とランドロー王子がおり、部屋の隅にルルとリリムがいたため僕たちもそちらへ向かった。
話している内容はそれほど大した物でもない。というより、キセ領の抱えている問題の話が多く、事情を知らない者が見れば単に領の現状報告をしているだけに見えるだろう。
一通り話を聞き終えた国王は、改めてキセ領の領主として任命すると共に、必要であれば王族専用の宝物庫への出入りを認めると言い出した。
これは事前にルルたちからも聞いていた話で、フェロンの能力によって作られた人形兵士たちを、今後は国内の警備を担当させたり危険領域の調査に使用するらしい。
そのために必要なものがあれば宝物庫から持ち出すことも許可されている。破格と言えば破格だが、人形兵士は殆どフェロンが制御しなければならないようで、領主としての仕事と、人形兵士の制御をしていたら殆ど休む暇無く働くことになるらしい。
それがフェロンに対して与えられた罰ということになっており、奴隷のように働かされると言われれば聞こえが悪いが、そもそもフェロンはよほどのことが無い限り働きづめになっても問題ないらしい。
そして、宝物庫への出入りに関しては一人で入ることなどできないため、その際はランドロー王子と共に入るとのことだが、それに関してはレオナもフェロンも難しい顔をしている。
「私は・・・己の欲望のためにレオナ様たちの命を狙い、王都を狙ったのです。そんな私が領主として認めてもらったばかりか、王子と・・・」
言葉の途中で国王が遮り、レオナに意見を求めた。難しい表情を変えないままフェロンへと近づき、彼女へと話しかけた。
「私は、あなたを許すことが出来ない・・・。私の命を狙ったのだから・・・。だけど、キセ領にはあなたが必要だというのも理解している。陛下が認めているのに、私個人の感情で何かを決めることは出来ない。だから・・・二つ・・・約束して欲しいことがある。」
一つは、キセ領とウアルの発展に尽力すること。もし、フェロンの犯した罪が消えるとするならば、キセ領の皆が、事情を知ってなお味方でいてくれた時だと、その時を迎えるために尽くし続けて欲しいと。
差し出された手を取り、フェロンは涙を流しながら謝り続け、そして誓った。
同じ過ちを繰り返さないのはもちろん、これまでの、何百年と生き続けて得た知識を今後生涯ウアル連合国に、キセ領に、そしてレオナに捧げると。
だがレオナはいつ死ぬか分からない程の寿命を持っているのに、その生涯全てを捧げなくても、適当な所で切り上げてもいいんじゃないかと笑っていた。そして、フェロンもまた、それでも生涯を捧げると笑っていた。
「あと、もう一つの約束なんだが・・・ランドロー王子はあんな見た目だが結構助兵衛でな。暫くは彼を下手に誘惑しないでほしい。さすがに、結婚して数年で浮気されるのは少しへこむ。」
その話を聞いてその場にいる全員が肩を震わせ笑いを堪えていたが、ランドロー王子だけは手を顔に当て俯きながらため息を吐いていた。
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