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4.救いの手

※以前執筆していた作品の9話~11話途中までを一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「せめて、彼の故郷に還してあげましょう。私が運びますので姉様は氷の棺をお願いします。」


ルルが氷魔法で棺を作成し布を敷き、その中へ亡くなった男性を入れてあげる。腐敗を抑えるために用意した氷の棺は低温を維持したまま溶けないようになっている。


「この山には確かに危険な魔物が出てくる。だがそれは、狼の群れだったり、鹿や鳥類の魔物のことだった・・・。普通の熊はいるかもしれないが、あんな熊の魔物なんてこの山どころか、国中どこからも聞いたことが無い・・・。」


「魔物自体は突然変異したのだと思うわ。地脈を走る魔の流れが狂った時にこういった現象は起きやすいのよ。」


「山脈や禁足地とされるような土地には、大抵の場合地脈に強い魔力が流れ込んでいます。そしてそれは、その場に生きる動植物や魔物に多大な影響を与えます。普通なら体が大きくなったり、素早くなったりと、少し強くなる程度の影響ではあるのですが・・・。」


「誰かがここの地脈を使って儀式か実験かでもしたのだと思うわ。それで地脈の魔が乱され、大きな影響が出てしまった。その結果ただの熊だったのが魔物化してしまうなんて迷惑な話ね。」


その儀式か実験かをした者とは、熊を操っていた者と同一なのだろうか。あの時、首を刎ねられた熊は、本来であるならばたとえ魔物であろうと絶命していたはずだったのに、ルルに対して右腕を振り下ろしてきた。


あの時微かに見えた魔導線・・・魔力的な繋がりを持つための線が一瞬だけ見えた。操っていてのはその一瞬だけだったのかもしれないし、ずっと操っていたのかもしれない。隠密の技能のおかげで特殊な眼を持っているため、普通の人が見えないようなものも"視る"ことができるのだが、それを活かすだけの知識が、あるいは経験が僕には足りていない。


分からないものはしょうがないと二人に相談しようと思ったのだが、ルルは何やら目を閉じて集中しているようで声を掛けづらい。閉じられたルルの両目からも魔導線が見えたため恐らく"飛眼"の魔法を発動しているのだろう。


その名の通り"眼"を"飛ばす"魔法は、視覚的情報を体を動かさずに広い集めることができる。ただ、本物の眼を飛ばしているわけではないが、飛ばしている眼を破壊されたりすると本体も傷ついてしまうため便利さの割に使用者は少ない。


おそらくはこの洞穴の出口を探しているのだろう。僕達が抜けてきた所とは別の方向にも穴が開いていたので、彼らはそちらから来たと推測される。


ルルの邪魔は出来ないと思いリリムにだけ相談しようかと思ったが、辺りを見渡してもリリムの姿が見えない。


「何かお探しですか?」

「うわっ!」


リリムを探してキョロキョロしていた時に、突然背後から声を掛けられ思わず声を出してしまった。振り返ってみると全身ずぶ濡れの状態になっているリリムが立っており、洞穴の外に出たことが伺える。


「早かったわね。それで?」


「はい。反対側の麓に小さな集落を確認しました。誰かを探しているようでしたので、おそらく彼らはその村の者だと思います。それと、鳥が一匹大型に変異し、山頂付近を飛んでいたため落としておきました。私の探知に引っかかり確認できたのはそれだけですが、姉様のほうはどうですか?」


「私が見た限りでも同じね。といっても、油断は出来ないけれど。」


何をしていたのか聞いてみると、僕達が入ってきた所からいったん外へ出て、山頂を超えて反対側へ降りていき、走り回って近くに村や集落がないか探していたらしい。どうやったらその華奢な体でそんな力業を成すことが可能なのか聞いてみたいが、どうせ帰ってくる答えはルルと同じだろう。


「外はまだ雨が降っているのか。僕達だけならともかく、この子たちを雨の中に晒すわけにはいかないし、暫く待つしかないか。」


「そうね。遠いというほどの距離ではないけど、せめて大人の彼が目覚めて色々確認してからにしましょう。」




ルルが確認したところ、やはりもう一方の穴は反対側へと繋がっていたようなので、ある程度入り口まで近い所まで移動する。


その際、ルルが浮遊魔法を掛けて棺と、今だ目を覚まさない二人を運んで移動し、リリムは火だるまになりながらその後ろを歩いていた。


「斬新な服の乾かし方だね。普段からそうやってるのかい?」


「いえ、普通に乾燥させる魔法も使えるのですが、そちらは衣服を脱がないといけませんので・・・余計な気遣いでしたか?」


「い、いや、いい!そのまま火だるまになっててくれ・・・」


我ながらとんでもない要求をしているかのように聞こえる発言をしてしまったが、炎の中から顔だけ出し、少しばかり口角を上げてそんなことを言ってくる人に対しては十分な対応だろう。


どうもリリムは一見冷静沈着で感情を表に出さないように見えるが、かなりの茶目っ気を持っているらしい。もしかしたら僕のことを玩具だと思って遊んでいるだけなのかもしれないが、今のところ特に大きな被害は出ていないし、特に嫌な気持ちになるというほどではないので気にしないことにした。


先頭を行くルルのほうを見ると、先ほど闘った熊の爪に対して何やら魔法を使用しているのが見えた。不思議に思って近づいて見てみると、どうやら鍛冶の魔法を使用しているようだ。


「ん?これ?この爪を剣に加工しているのよ。魔法鍛冶は昔200年くらい研究していたことがあるの。だからまぁこのくらいはできるわ。武器そのものの知識がないから、リリムほどじゃないけどね。」


2人は特に帯剣をしていないが、別に剣士というわけでもないだろうし今更そんなものが必要とは思えない。出来上がった大剣は良くも悪くも普通の大剣だ。何か特別な付与がされているわけでもないし、量産品より少し良品質という程度だろう。


「これで、私が彼を刺殺したことにするのよ。」


「はっ?何故そんなことをするんだ?」


突然の発言に混乱を隠せず、思わずリリムの方を振り返ってみると、すでに乾燥が終わったのか消火し元に戻っているリリムも困惑の表情を浮かべていた。


「彼らがここへ来た目的は分からないわ。ただ、この山が危険だということは知っていたはず。そんな所へ子供を連れてくるわけないでしょ?ということはここへ来たのはこの子一人だけで、大人の二人はこの子を探しにきたのだと思うわ。」


確かにその通りで、ここに限らず山が危険だというのは最早常識といっていいくらいには浸透している。ましてその山の麓で暮らしているのならばなおのこと危険性は理解しているだろう。もしかしたら他国から密かに紛れ込んできた者なのかもしれないが、この近辺の監視網を抜けてこれるような者があの熊に遅れをとるとは思えない。


確かにルルの予測は的を射ているだろう。だがそれでも、その前の発言と繋がらない。


「姉様・・・姉様は・・・名も知らぬこの子を守るのですか。」


先にルルの思惑を理解したのか、リリムがぼやく。経験の差なのか、それともルルとの付き合いの長さからなのか、今だ理解できていない僕に対してルルが説明を続ける。


「仮に、集落の人とかに真実を説明したとするわ。熊の魔物に襲われ、彼は命を落とした。私たちが通りかからなければ全員死んでいた。その場合、罪に問われるのは・・・責を咎められるのは誰になるのかしら?」


「この山へと入ってしまったのがこの子供の意志によるものであるとしたら、この方が亡くなった原因はこの子供の責となるでしょう。普通は子供相手にそのように責め立てはしないでしょうが、果たして全員がこの子供を許すでしょうか。あるいはこの子供自身は、自分自身を許すことができるでしょうか。」


2人に説明されようやく理解することができた。ルルが殺したことにすれば、責は変わらずとも憎しみの相手を彼女へと逸らすことができる。そうすることでこの子の未来を守るということか。


「三人は既に山の中で無事合流することができていた。あとは山を下りて集落に戻るだけという時に私たちに出会った。私たちは賊として彼らを襲ったが、すぐに追手が来ていることに気が付いて逃走した。その賊を追っていた騎士が二人に気が付き、何とか回復を試みたが一人は間に合わなかった。筋書きとしてはそんなところね。グラ、あなたには彼らを集落へ送り届けた後、村の人たちにそう報告してほしいの。」


ルルが振り返りながら、いつもと同じような普通の、雑談をしているときのような表情と声で僕にそう伝え、納得はできないが他にこの子を守る案も思い浮かばないので了承しようとした時、ルルの提案を断る声が聞こえた。


「悪いが、それは聞けない・・・。助けてもらったうえに、その恩人に無い罪を押し付けるような真似は・・・できるわけがない。」


「あら、起きてたのね。」


棺とは別に作られた土台に乗せられて運ばれていた男性がゆっくりと体を起こす。意識は早い段階で戻っていたようだが、体を動かすことができなかったらしい。


「一先ず、救ってくれたことに感謝する。ダル田は間に合わなかったようだが・・・サラだけでも無事でよかった。」


男の名はダヤンといい、亡くなったダルタという男は彼の弟でこの子、サラと呼ばれた子の父親だそうだ。彼は真実を説明し、命の恩人を集落へ迎え入れ改めて感謝をしたいと伝えてきた。


だが、それでもルルの考えは変わらなかった。


「悪いけど、それは受け入れられないわ。話を聞いていたのならあなたも分かっているはずよ。それに、憎むべき相手を目の前に置いてしまったら、人はどんな行動をとるか分からない。そうなったら、この子は壊されてしまうわ。何も知らないのなら知らないまま、私たちを憎んでくれたほうが、教訓にもなるしこの子も壊されない。私たちがそれでいいと言っているのよ。それとも・・・あなたはこの子を壊したいのかしら?」


少しだけ目に力を込めて、威圧するように伝えるルルに対して、男は何も言い返すことはできなかった。複雑な心境であることは理解できるし、ルルの言い分もわかる。おそらくは過去に同じようなことがあって、実際に壊されてしまった子を見たことがあるのだろう。それだけに、これ以上誰も何も言えず無言のまま出口まで到達した。




「あそこが俺たちの村だ。」


「それなら、ここでお別れね。・・・ちゃんと伝えてね。」


出口の近くで一夜明かし、リリムの先導に従い集落の近くまでたどり着いた。まだ多少の距離はあるが、ここから先は魔物に出会うこともないだろう。


結局あの後、ダヤンは"せめて自分の口からみんなに話す"と言い、これ以上僕達に余計な負荷を掛けたくないのか、棺もサラも運ぶと言い出した。


さすがにそれは無茶だろうということで、集落の近くまでは運ぶのを手伝い、その後は彼に任せることにした。棺は軽量化の魔法と状態維持の魔法を掛けてあるので、注意して運べば問題ない。


遺体を埋葬した後の棺は放っておけば数日で溶けるので、適当に外に放置しておけばいいと伝えられ、何か聞かれたら回復してくれた騎士が用意してくれたことにすればいいということになった。


当然ながら僕はそんなことはできない。氷の魔法で攻撃することはできるが、こんな棺を作り出すような芸当は僕にはできない。なので彼らの集落の人にこの嘘もバレないことを祈っている。


それより、サラの精神状態のほうが心配だ。朝方、サラが突然悲鳴のような絶叫を上げてその声を聴いて全員が目を覚まし、ルルが慌てて催眠と鎮静の魔法を掛けて事なきを得た。


ダヤンは大人だからまだしも、サラは10歳になるかどうかというくらいの子供な上、父親と叔父が目の前で貫かれた瞬間も目撃している。


下手にこのままにしたら、また目覚めた時に精神が持たない可能性があったので、あまり良くないことだと前置きしつつ、ルルが記憶の一部を封じる魔法を掛けておいた。それでもいつか思い出してしまうかもしれないが、それまでの面倒はダヤンがしっかり見ておくとのことなので、これ以上の干渉はしないことにした。


「約束は必ず守る。だが・・・」


やはり恩人に何も返せないどころか、罪を押し付けてしまうというのは心苦しいのだろう。ダヤンはいまだ苦い顔をしている。


「あなたが、私たちのことを忘れずに覚えていてください。私たちのことを忘れずにいてくれればそれでいいのです。それだけで、私たちもまた、救われます。」


だがそんな彼に対してリリムが言った言葉が、彼の心をいくらか救ったのだろう。彼は初めて笑顔を見せて、最後に深く頭を下げて集落のほうへと向かっていった。




「それにしても・・・地脈の魔が乱れるほどの"何か"か・・・。魔物の召喚なのか、力を欲したのか・・・なんにせよ穏やかじゃないな。」


「戻って調査しますか?」


彼らを見送りながらそんな話をする。確かに調査すべきことではあるのだろうが、それはあくまでアガレス王国として、だ。ルルもリリムもここから先の話には関係ないので、余計な迷惑をかけるわけにもいかない。


そのため、一先ず報告だけしてその後はアガレス王国として対処するとだけリリムに伝えた。ルルはこの程度のことは何度か見たことがあるとのことで、特にこれ以上興味を示さなかった。


「さて、色々とあったけど、私たちも王都へ向かいましょう。グラ、ここから王都まではあとどのくらいで着くのかしら?」


「そうだね・・・僕の速度に合わせてくれるなら、夕刻前くらいじゃないかな。」


この姉妹が本気を出せば、あるいは本気を出さなくても少し急いでいればもしかしたら数分、数秒でたどり着いてしまうのかもしれない。だが僕はそんな速度は一瞬しか出せないので普通に歩いて向かうことになる。


「確かに距離的には可能ではありますが、そのような無粋な真似はしません。長生きのコツは慌てず焦らず、のんびり楽しむことです。」


「長生きで済ましていいのか分からないけど・・・。それで、王都についたらどうするんだい?図書館は夕刻には閉館してしまうから案内するなら明日以降になるだろうし。」


「そうねぇ・・・。ま、それは着いてから考えましょ。」


そういっていつもの笑顔に戻ったルルと、逆に何かを心配し始めたリリムと共に王都へ向かう。


















「グラさん。悲報です。姉を見失いました。」

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こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

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