48.消えたルル
※以前執筆していた作品の66話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「御姫様を救うには王子様のキスが必要かなーって思っただけな・・・はい、すみませんでした。」
闇の祝福を使い、半ば暴走状態となってしまい困り果てていたところ、シール君が祝福の暴走を解除してくれて助かった。
だが、その方法がなぜかキスだった。さすがの私も異性に突然キスをされたら動揺して手が出てしまう。いくらシール君とはいえ、異性との初めてのキスがこれでは少しばかり納得がいかない。
「まあ、助かったのは事実です。ご迷惑をおかけしました。」
「そこは"ありがとう"でいいんだよ。」
ニヘラっと笑うシール君につられて笑みが零れる。だが、今回の戦いは反省点が多い。何でも一人で解決しようとするのは悪い癖だと、昔姉様に叱られたことがあったのに、今回も同じ過ちを犯してしまった。
それに魔導線を消されたことにも気づけなかったし、闇の祝福に飲まれてしまったのも己の至らなさ故だった。
「私は・・・まだ弱い。もっと・・・強くならねば・・・。」
右手を握り、そう、決意を固めた。
「そういえば、ルル姉とも連絡が取れなくなっちゃったんだよね。」
リリムから伸ばされていた魔導線が突然途切れてしまった時に、西南の方へ向かいルル姉に状況報告をしようとしたのだけれど、本来留まっているべき場所にルル姉がいなかった。
少しばかり辺りを探したが見つからず、仕方なく自身でリリムの増援へ向かったが、まあおかげで役得もあったしいいかと思い、記憶の片隅のほうへいってしまっていた。
「姉様に限って何かあるとは思えませんが・・・、私はこのまま南西へ向かいます。シール君はグラさんたちに連絡をお願いします。」
「わかった。一応アルルにも連絡入れて、南西の防衛地点にいてもらってるからね。あと、僕の魔力を分けてあげるから、もう一度キスを・・・。」
と言いかけたところで睨まれてしまったので、仕方なく体に触れるだけで魔力を渡した。ついでに風の祝福もいくつか与えておいて、万が一にも対応できるようにしておこう。
「リリム様!あっちの方から焦げたような臭いが!」
南西の、姉様が本来いるべき地点へ到達し、そこにいたアルルから情報を得た。
かなりの距離があり遠視の魔法を使って確認したところ、平地の一部が焼け焦げた跡が残っており、さらにその場には大きな穴があいていた。
罠として用意していた落とし穴とは、位置も大きさも全く違うそれは、以前キセ領で、黒蛇が馬車をかみ砕いた時に地面から現れた際の穴によく似ていた。
「姉様が遅れを取るとは思えませんが・・・。アルル、あなたはこの事をグラさんかシール君に報告してください。私は少しあちらを確認してから戻ります。」
彼女が報告に向かうとしたら、やはりレオナが一番になるだろう。だがレオナでは有事の際に対応が遅れかねない。グラさんかシール君、あるいはノエルならばすぐに対応できるだろうと踏んで指示をだした。
「さて、到着しましたが・・・何があったのでしょうか?」
シール君が風の祝福を与えてくれたおかげで、すぐに現場にたどり着くことができた。痕跡から察するに、大型の範囲攻撃を行ったのは明確だが、その後の姉様の行方が完全に途絶えている。
「わずかに気配は残っていますね。これは・・・転移魔法でしょうか?姉様が転移魔法を使うとは考えられませんし、これは相手方の物でしょう。」
空間関与系の魔法が苦手な私たちが転移魔法なんて発動したら、どこに飛ばされるか分かったものではない。となれば、最も簡潔な解は敵が転移魔法で逃げだし、姉様がそれを追跡しているといったところだろうか。
だが、それならば何故姉様の気配が完全に途絶えているのかの疑問が残る。かといって、敵に敗れ連れ去られたとも考えにくい。自身より遥かに強い上、とある性質上、姉様の偽物との闘いがあったとしても問題なく勝つことができるだろう。
「とりあえず現状の報告へと戻りましょう。これ以上の収穫も望めそうもありませんし。」
同じ轍を踏むわけにはいかない。一人で収穫がないのなら誰かと考えればいい。今まではそれが姉様一人だったが、気が付けば私の周りには多くの、頼れるかどうかはまだまだ微妙な所だが、それでも信頼できる仲間がいる。
神速を起動し、空中を蹴り跳びながら王城への帰路についた。
「くそっ・・・あの金髪娘・・・全部壊してくれちゃって・・・。」
たったの一撃、しかも普通なら腕など致命傷になどなり得ないというのに、右腕を肩の近くから完全にえぐり取られたこの体は、血も魔力も流れ出ていくのを止めることが出来ずひたすらに体を蝕んでいった。
「闇の瘴気・・・治療するには大量の血が必要ね・・・。」
闇の祝福を得た者の一撃は威力はもちろん高いのだがそれ以上に、魔毒を流し込み回復阻害を与えてくる力もある。
普通の人間ならば助かる見込みなどなく、吸血鬼であっても放置すれば死に至るほどの猛毒・・・それがただの人間が突然使用してきたことに驚きを隠せない。
どうにか自身の研究所まで戻ってくることができ、先ほど捕らえたかなり強い人間を喰らって回復をしようと考えていた矢先、誰もいないはずの研究所内から捕縛の魔法をくらい、消耗していた上に完全に油断していたため反応することすらままならず、気が付けば床に伏した状態にさせられていた。
いや、厳密には違う。この研究所内には確かに先ほど一人招き入れた。だが、黒蛇の体内に取り込み、魔封じの呪印も付け、質量からはおよそ想像もつかないような重さを持つ特殊な金属でできた鎖や枷で牢の中に縛り付けていたはずだった。
だが、無慈悲なことに目の前に現れたのは先ほど捕らえたはずの、金髪の長髪を靡かせながら静かにほくそ笑んでいる女だった。
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