45.南西にて先手を打つ
※以前執筆していた作品の63話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「ルル姉、伝言だよ。王城内と王都内は全員調べ終わって怪しい人はいなかったよ。」
王都内は多少の密偵こそいたものの、今回の事件に関与してきそうな者はいないようで安心した。
王城内に関しては他国の者はもちろん、ウアルの兵士たちも全員シール君とノエルが精査してくれた。というよりシール君一人で全員調べ終えたようだった。
魅了に掛かっている者は脳内に魔力が流れこんでいるため、魔力の流れを細かく見ることができる竜神なら見抜くことも簡単だったようで、ノエルがしたことは特になかったらしい。
「お疲れ様。私の方も一通り罠は張り終わったわ。リリムの方がまだだったら手伝ってあげて。」
さすがの私たちと言えどただ目を光らせているだけでこの広い王都を守り切れるはずもなく、王都周辺に複数の罠を設置して侵入者を防ぐことで防衛に努めようと決めた。
地面に穴を掘り幻影魔法でその穴を隠す。単純にして大群を相手にする時にはかなり有効な手段でもある。もちろんそれで全てを防ぐことは出来ないため、他にも爆発魔法を仕込んだりしているがこちらは王子たちには内緒にしている。
いくら操られているとはいえ自国の民が悪戯に死ぬのは避けたいと言っていたが、私たちからすれば赤の他人な上、国への謀反を起こした者たちの辿る末路など知ったことではない。
むしろこちらから仕掛けて殲滅に行かないだけマシだと思う。フェロン本人はともかく、操られている者たちを屠ることなど容易い。それこそ、今から作戦を殲滅に切り替えても今晩中には片が付くほどには簡単な話でもある。
「それじゃ、僕はリリムのとこに行って、少し休んだら町の警護に行くよ。一応定期的にセインが伝言に来てくれるらしいから、何かあったらセインに伝えてね。」
そういってシール君は風に乗って北東の方角へ、リリムの所へと向かった。
「何かあったら・・・ねぇ・・・。あれは、その何かに含まれるのかしら?」
南西の方角に大群が見える。といっても、遠視の魔法を全開で使用してやっと小さく見える程度なので、距離にすれば相当離れた位置だろう。
基本的に敵の察知は風の流れで感じているシール君には、あの大群を見つけることはまだできなかったのだろう。
「少し・・・見に行ってみようかしら。」
グラやリリムのように隠密魔法が使えるわけではないので、雲の近くまで上昇し、そこから監視をしよう。おそらく、多分、きっと、気が付かれないと思う。少し自信はないけど・・・。
「・・・数えるのが嫌になるほどいるわね。着ている甲冑がまばらなのは元の軍が違うからかしら?」
一先ず上空から観察した結果、兵の数の多さに加え多種多様な武器やら魔導士やらがいることが確認できた。軍の編成には詳しくないが、前衛を張る者が多く後衛火力が少ないような気もする。
だがその兵たちの不気味さは、全員が顔色を一切変えず、一言も喋らず、隊列を乱すことなく歩いている。
おそらくはすでに洗脳が深い位置までされてしまっており、こうなるともはや助かる見込みはないに等しい。生きる屍兵のようなものだ。
「とりあえず・・・消し飛ばしておこうかしら?あれが全体の何割かはわからないけれど、戦力を削っておくにこしたことはないわね。」
適当に魔法を起動し攻撃を仕掛けようとしたところで、軍隊の中に一人見たことのある顔を見つけ攻撃を辞める。そして急降下してその者に近づいていき話しかけた。
「こんにちは。あなたは確かフェロンさんだったかしら?」
「・・・!?何者かしら?認識阻害の魔法をそんなに強く張られてしまっては私でもあなたの正体がわからないわ。」
一瞬動揺したがすぐさま立て直す辺りは中々だとは思う。それでも、彼女はそれなりの強者とはいえ、私の脅威とは成り得ない。
「敵対している相手に正体を明かす理由があるかしら?それよりも取引をしましょう。あなたの目的を教えてくださるかしら?」
「取引?面白いこと言うわね。あなたが差し出す物は何かしら?」
口元に手を当て余裕の笑みを浮かべるフェロンは、まさに妖艶という言葉が相応しいだろう。だがその余裕の笑みは数瞬で崩れ苦虫を噛み潰したような顔に歪ませた。
「私が出すものはそうね・・・。あなたの命かしら?ここで洗いざらい話てくれたら、殺さないであげるわ。・・・"今は"ね。」
先ほど上空で発動させた魔法は、遅延魔法として残してある。解放することですぐさま発動させることが出来るため相手の虚を突くのに適している。
発動させたのは爆炎の魔法と炎壁の魔法。フェロンの軍を囲うように現れた炎の壁の中を爆炎が爆ぜ続ける。ただの人間や多少の魔物など、その中では生き残るどころか骨の1つすら残せないだろう。
「あなたには聞きたいことがあるから死なない程度に外してあげたわ。さて、もう一度聞くわね。あなたの目的は何?」
今度は明確な殺意を向け、転移魔法などで逃げられないように全方位から束縛の魔法を放つ。目の前の彼女が本体ではない可能性もあるが、彼女の焦りようからして、本体かそれに準ずる程度には重きを置いた体だろう。
「こんな状態で殺さないと言われても信憑性がないわね・・・。生憎だけど私の目的を話すわけにはいかないわ。どの道死ぬしかないのなら、せいぜいあなたたちを苦しめてあげるわ!」
そう言って彼女は、自らの体を破壊することで束縛を解かれた。そして、フェロンどころか生き物としての原型も留めておらず、ただの血肉の塊となってしまった。
恐らくは本体ではなかったのだろう。血肉となるということは分身体だろうか?これだけ密度の高い分身を破壊されてしまえば、少なからず本体の方にも影響は出るだろう。明日の脅威が多少は削がれたのではないかと思う。
そして、帰ろうとしたその時、大地が激しく揺れるのを感じた。咄嗟に空中へ逃げ出したが、その背中を襲うように強烈な蹴りを入れられ地面に叩きつけられてしまった。
そして、地面から出てきた大蛇に体を丸ごと飲み込まれてしまった。
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