43.裸の鍛冶屋
※以前執筆していた作品の61話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて、とりあえず武器を探しに来たわけだけれど・・・随分と質の悪い品が揃っているわね・・・。」
特別手当を貰って懐事情に余裕ができたアルルが剣を買いに行くというので、ついでに王都城下町を案内してもらいつつ、王都一の鍛冶屋と名高い・・・らしいこの店へとついてきたのだが、揃っている物は見た目こそしっかりしているが使われている素材がお粗末な物ばかりだった。
さすがに店主に聞こえてしまっては申し訳ないのでルルも小声で話してはいるが、こんなところで買うくらいなら無理を言って王城で剣の一本でも拝借したほうが随分マシだと思う。
「防具はそれなりに良い物が揃っているし、武器より防具が専門の鍛冶屋なんじゃないかな?」
「うぅ・・・すみません。私もこの国で武器を買ったことはなくて・・・。」
しょんぼりしているアルルの頭をルルが撫でている。尻尾がフリフリと動いているのがとても可愛らしくはあるが短いスカートの中から出ている尻尾を動かすのは色々危ない気もする・・・。
「私も武器を持って戦ったことはあまりないから、こういう時に頼る伝手がないのよね・・・。リリムかシール君がもしかしたら何か持ってるかもしれないし、一度戻って聞いてみましょう。」
確かリリムは、昔は剣を使っていたと言っていたし、鍛冶屋の知り合いがいるかもしれない。アルルも双剣を失っているようだしついでに作って貰えるか期待しているようだ。
「鍛冶屋の知り合い・・・ですか?私の交友関係は今が最も多いのですが、その私に期待するのでしょうか?」
どことなく寒気のする笑顔を浮かべながらリリムの返答を聞いてアルルが怯えている。ルルは引きこもりな上大抵自分でなんとかするから知り合いが少ないらしいのだが、リリムは性格の問題でやはり知り合いが殆どいないらしい。
「質の良い魔石さえあれば私が武器を作れますが、残念ながら私の手持ちには無いので今は作れないですね。」
別に魔剣を求めている訳ではないから魔石無しでもいいと思うのだが、この姉妹にとってただの武器など鉄の塊と大差がないらしく、そんな物を持たせる訳にはいかないとのことだ。
「私、セインとレオナ様に魔石が余ってないか聞いてきますね!」
「それでは私はノルンとシール君に確認してみます。」
「私は!・・・?私は誰に確認しにいけばいいのかしら?」
そんなとぼけた事を言うルルがちょっとだけ可愛らしかった。
「それで・・・どこから突っ込めばいいんだい?」
「僕はリリムのお尻に突っ込みたい・・・いえ何でもないデース・・・。」
「私はふくらはぎがいいな・・・冗談だからその殺気を抑えてくれレオナ・・・。」
小声で耳打ちして聞いてみたが相変わらずシールはそっち方面の欲望が全開のようで、突っ込みたくなることを増やすなと耳を引っ張り黙らせた。
さらにはランドロー王子までシールの言葉に乗り始め、レオナに睨まれていた。
各員に魔石の余りが無いか確認していたところ、ウアル国王が手持ちに心当たりがあるとのことだったが、さすがにそれを頂く訳にはいかないと断ろうとしたところ、条件付きでだが渡して構わないと言われてしまった。
そしてその条件は短剣の他に、アルル用の双剣とランドロー王子用の細剣も作ってほしいとのことで、リリムはこれを二つ返事で了承し王城内の一室を貸し切ってもらいそこで作成することになった。
問題はその鍛冶を見ていたいとのことでセインやレオナはもちろん、アンドロー王子どころか国王夫妻まで同室に集まり部屋の中心にいるリリムを見つめている。だが数人は目つきがおかしいというかなんというか・・・。
その原因が、リリムの恰好だ。普段の衣服を着用しておらず、というより何も着用しておらず・・・裸の状態で頭と胸元と腰回りにタオルを巻いてあるのみだった。
「・・・リリム。その恰好はどうにかならないのか?」
「私の鍛冶はかなりの熱量があり汗を大量にかくので、この格好でないと衣服が汚れてしまうのです。ところで、付与する魔法はこちらに一任させて頂いてかまわないのでしょうか?」
リリムがウアル国王へと確認を取り、鼻の下を伸ばしながら好きにして構わないと答える国王、そしてそれを見て手の甲を抓る王妃・・・視線を動かせばランドロー王子とレオナも同じようなことをしていた。
「逆に聞きたいんだけど、グラっちはあの状態のリリムを見てなんとも思わないの?それって失礼じゃない?」
と言われても、意外と筋肉が付いていないんだなとか、汗かいても服を洗えばいいんじゃないかとか、そのくらいの感想しか出てこない。ということにしておこう。余計な事を口走ったところで意味などないのだから。
「グラ、老婆心ながら一つ忠告しておいてあげるわ。私とリリムは結構観察眼に自信があるのよ。衣服が少し膨らんだのを見抜ける程度にはね。」
耳元に息を吹きかけながら小声で囁くルルに色々反応してしまったが、幸いにしてそれに気が付いたのはルルとリリム以外いなかったようだ。あなたが枯れていないようで安心したと言われたが、むしろそこは不安に思うところなのではないだろうか?
「それではまずグラさんの短剣から作りますね。残りのお二人は何か付与してほしい魔法があれば考えておいてください。可能な限りは期待に応えますので。」
そういってリリムは両手に持っている素材へと魔力を流し始める。途端室内がすさまじい熱気に包まれ、慌ててシールが窓を開け風を起こし換気したが、たったの数秒で全員結構な汗をかいてしまった。
「いや、ていうかここまでの熱気を出すって・・・リリムはどんだけとんでもない武器を作るつもりなの・・・?ルル姉何か言ったでしょ」
「強めの武器を作ってねって、お願いしただけよ?」
鍛冶魔法で生成される武器は素材の良さや術者の技術料でかなり変わってくるが、外部の者がその出来を予測し見分ける目安の一つが生成中の熱量らしい。
ウアル国王から提供された魔石は、かつて英雄ウアルが倒した魔物から取れたものらしく、純度も強度も申し分ないとルルが言っていた。他の素材に関してもいくつか提供されており、ミスリルを中心とした合金を作成しそれを武器にするという。
そして、そこにシールが持っていたというオリハルコンまで投入されているので、完成する武器は強めどころの話では済まないだろう。
服をパタパタと仰ぎながら完成を待つこと約五分。できましたと言って渡された短剣は刃の部分が青く光っていることを除けば普通の短剣だった。だが、中身はとんでもない物だった。
「頑強、斬撃強化、重量変化、帰還性能、無音化、再生付与、それから魔力を通すことで長剣化、氷結付与、風刃付与、影縫い付与、分身化を付けました。・・・とても素晴らしい魔石を頂けましたので気合いが入ってしまいました。」
名前だけで分かる機能もいくつかあるが、さすがに多すぎやしないだろうか?普通の魔剣はせいぜい二つか三つの付与魔法が付いてる程度だというのに。
「頑強は強度を上げ、斬撃強化は威力を上げるってことでいいんだろうけど、重量変化っていうのは?普通は軽量化を付与して重い武器を扱いやすくするんじゃないのか?」
「重量変化は短剣だからこそね。羽のように軽くして投げ物としての速度や距離を出したり、重くして重力に沿った攻撃の威力を上げたり、盗まれにくくしたりとか。使い方は様々よ。」
それを聞くと確かに色々な使い方ができそうではある。他の魔法に関しても癖は強いが協力な魔法が付与されている。
帰還性能は投げた後やどこかに忘れていっても、登録者の意思で手元に戻すことができるらしい。無音化は武器が放つ音が全て消えるというもので、落とした時はもちろん、扉などを切った時の音も消えるらしい。再生付与はそれ程大きな効果ではないが、軽い切り傷や病くらいなら短剣を握るだけで治るという。
「長剣化は短剣を一時的にだけれど普通の剣くらいの大きさにしてくれるわ。氷結と風刃は普通の魔法と同じね。短剣を魔法具みたいな使い方が出来るわ。」
「分身化は短剣を投影し数を増やすことが出来ます。魔力で練り上げるものなので制限は多く魔力消費も多いですが、手数を増やすのに効果的かと。それと影縫いは・・・実際に見せたほうが早いですね。」
そういってリリムは短剣を手に取り床へと突き刺した。王城の部屋の床を傷つけていいものかと思ったが、それ以上に影縫いの効果に言葉がでなかった。
「この通り、影縫いの魔法は相手の影を縫い付ける魔法です。最上級闇魔法の一つで私にしか付与できないでしょう。効果は単純にして明快。縫われた影は術を解かない限り動けなくなります。」
万物と影は常に一体、体が動かなければ影も動かず、逆もまた然り。影が動かなければ体も動かすことが出来ない。つまるところ身動きが取れなくなる。
効果時間は30秒ほどだそうだが、戦闘中にそんな時間動けなければ致命的なのは明らかだ。短剣を投げつけて影縫いを発動するだけで大抵の者には勝ててしまうだろう。
「幽体化している者など効かない者もいます。もちろん、私と姉様は対策魔法も知っているので私たちにも効きません。」
それでもシールには効くらしく、力関係が逆転した・・・とシールが絶望していた。別に防御力は上がっていないからシールの本気の速度で攻撃されたら防ぎようもなく死にそうだけれど・・・。
ちなみに、アルルとランドロー王子用の剣には影縫いと長剣化は付与はされず、長剣化の代わりに戦斧化と、途中から付与に混ざったシールによって10秒の神速付与と、炎撃が付与された剣をそれぞれ渡され、恐ろしくて使えないと震えていた。
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