36.レオナという女性
※以前執筆していた作品の53話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「姉様、そろそろ戻らないといけない時間かと。」
アルルの憧れの対象であることがバレてしまい、すっかり話し込んでいたら・・・というより質問攻めにあっていたら、気が付けば外は既に日が落ちていた。
「私たちはこの後領主亭に寄って一泊するのだけど、あなたたちはどうするのかしら?」
「迷惑でなければご一緒させて頂きたい。私たちはあまり荒事が得意ではなくてな・・・。ここから王都まで戻るのも不安があるので、領主に頼んで護衛を付けてもらわなければいけないのでな。」
そう軽く言ってのけるレオナだが、領主の騎士をそんな簡単に貸してもらえるものなのだろうか?まあダメだったなら私たちがついでに護衛を引き受ければいいだろう。
お互いに王都を目指しているのなら通る道は同じだろうし、3人増えるくらいなら特に問題もないだろう。
「それはまた・・・ずいぶんなことをしてきたね・・・。」
領主亭に戻りすでに寝てしまっている領主への報告は侍女へ変わりに伝え、部屋へと案内されグラたちに報告をする。
レオナたちは別室に案内されており、明日スーラ領の騎士を数人連れて共に向かうことになった。レオナたちが侍女にどう説明したのかは分からないが、事件の被害者でもあるわけだし丁重に扱われているのだろう。
シールは特にいつもと変わらない様子だったが、グラとノエルの様子がおかしい。顔色が悪いという訳ではないのだが、なんとも言えない表情をしている。
「ルル、一つ尋ねるが、今回の結婚式・・・誰と誰が結ばれるかは知っているか?」
何をいまさらと思ったが、私が知っているのは第一王子が結婚するという情報だけで、その相手が誰なのかまでは聞いていなかった。
「第一王子と結婚するのは、ウアル連合国内にある精霊族の里の者で、レオナという赤毛の女性なんだ。つまり、ルルたちが助けたその人が婚約者なんだよ。」
それはまた・・・随分な話だと思う。前例がないわけではないが精霊族と人間が結ばれることは寿命の差や生活習慣の差から極稀であるし、王族ともなればそんな話は聞いたことが無い。
種族間の差別があるという訳ではないが、やはり王族に自分たちの種族以外の血が流れるのを良しとしない者はどの種族にも多く、余計な問題事を引き起こす可能性すらあるからだ。
「攫われたのが偶然か故意によるものか・・・どちらにしても王子の婚約者が触られたとなれば、王都や王城は混乱している可能性もあるな。なんにせよ一刻も早く王都へ行くべきだろう。予定ではキセ領でも一泊するつもりだったが、可能な限り速足で向かうとするか。」
そういってノエルは自分のベッドへ戻り、明日は早起きするから全員私が起こしてやるとだけ言って眠りについた。
そしてシールとリリムも自分用に用意されたベッドへ入り早くも寝息を立てている。
「ねぇグラ・・・。客室の広さはこの際置いておくとして、男女が同室で眠るのはどうなのかしら?」
「意外だな。君が一番そういうのは気にしないと思っていたのだが・・・。ノエル様とシールに関しては、まあ性格の問題だろうね。少しも気にしていないようだったよ。」
確かに昔の私はそれこそ裸を見られたところで大して気にもしなかった。せいぜい見れた人は幸運だったわねと笑う程度だったが、どうにも最近は心が人に戻ってきてしまっている気がして、だがそれも悪くないと思えてしまうことがまた可笑しくて・・・
「みんな気にしていないなら私一人言っても仕方ないことね。おやすみなさい、グラ。」
余計なことを口走る前に眠りにつくとしよう。夜になるとどうにも心が乱れてしまうから、暫くは早めにねることを意識しようと心に止めながらベッドに潜り込む。
「どうしたのアルル?寝ないの?」
「えへへ・・・。だってあのルル様たちと一緒に行けるんだよ!興奮しちゃって眠れなくなっちゃった。」
ベッドに座って眠ろうかと思っていたのに、アルルがいつまでも部屋の中をうろうろしているためそれが気になって声を掛けた。
あの二人が本当にそうだとしたら、人間以外の・・・長命な種族の者に当たるのだろう。レオナ様は永遠を生きているとか呟いていたけど、二人からはそんな様子など少しも感じなかった。
もしかしたらそういった姿隠しの魔法に長けているのかもしれない。時間があったら話を聞いて、この背中の翼だけでも隠せるようにしておかなくては。
今回私たちが捕まったのは、私の翼が原因だろう。犬や猫などの異種族は普通になじめているが、やはり翼を持つものたちは人たちから嫌われているように感じてしまう。
人目を避けようとしてしまったがために奴隷商人に捕まってしまい、助けに来てくれた二人を巻き込んでしまった。
「セイン、また暗い顔してる。どうせまた私のせいだーって思ってるんでしょ?」
「事実その通りなのだけど?」
自分は表情をあまり出す方ではないが、アルルやレオナ様とは長い付き合いだけあってすぐにこちらの心理状況を見抜いてくる。
でもそれが、なんだかくすぐったくて心地よい。二人に出会えたことで私は随分と明るくなったと思う。それでも今回の件は暗くならざるを得ない。
「私だって、あの人たちに勝てるだけの強さがなかったから捕まっちゃったんだし、レオナ様だっておんなじだよ。だいたい、セインは戦えないのに一人でお使いに行かせたレオナ様が悪いんだ!」
「否定はできないな。」
「ぴぃっ!?」
この部屋には現在セインとアルルの二人だったため完全に油断していたようで、突然開かれ中に入ってきたレオナ様の声を聞いて飛び上がって驚いていた。
「あわわわわわちちち違うんですよレオナ様!別にそういう訳じゃなくて・・・。」
「セインを助ける時に背後の敵に気がついていればこうはならなかったんだ。私も結婚で浮かれていたのかもしれない。迷惑を掛けたなセイン、アルル。」
頭を下げるレオナ様にこちらも謝罪をしつつ頭を下げ、3人で下を向きながら笑いあった。
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