33.スーレ領の港町
※以前執筆していた作品の50話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「グラっちって本当に王族なんだね。」
「今まで何だと思ってたんだ・・・。」
ウアル連合国スーレ領の港へ船を停め、入国審査を受けた際にアガレス王国の王族であることを示す紋章を見せたところ、残りの四人は名前を聞かれただけで入国することができた。
さすがにノエル様だけはそのままというわけにはいかず、偽名であるノルンと名乗っていたが、ルルもリリムもシールもそのまま名乗るだけで入国が認められた。
「アガレスに入った時ですらもっと時間がかかったのに、名前だけで入国できるなんてすごいわね。」
今回の来国目的が第一王子の結婚式への参加のためで、既に誰が来るのか連絡も言っているのでここまで簡単に入国できたのだろう。普段ならさすがにもう少し細かく検査をされるはずだ。
と、そこに燕尾服を着たかなり大柄な男性が近づいてきた。周囲の反応から察するに領主かその使いだろう。港町で働く人特有の、日に焼けた肌に力強さを感じさせる体格、さらには指先まで固くなっているのを見るに、この人も港で働く漁師の一人なのだろう。
「グラセナ、奴はスーレ領領主だ。豪傑な人物で基本善人だが、商人特有の顔も持つ。気を付けろ。」
ノエル様が僕たちだけに聞こえるよう小声で呟く。この声量は普通の人ならどれだけ近くにいてもこの喧騒の中では聞こえないが、風魔法で音を正確に捉える術をシールから伝授してもらったため、僅かな音も聞き逃すことがない。
「殿下。ご歓談中の所失礼いたします。スーレ領領主ガルゼオと申します。殿下たちには是非我が屋敷にご招待させて頂きたく思います。」
僕たちの目的地は王都なので長居はできないが、だからといって他国の王族を少しももてなすことなく行かせてしまっては領主としても顔が立たないということで、やや強引にではあるが領主亭へと招かれることになった。
「なるほど、アガレス王国では今そんなことが・・・。確かに王都周辺の貴族は多少の不満も言うかもしれませんが、事情を知って尚無理難題を言ってくるほど愚かではありませんので、ご心配なさらずともよいかと思います。」
スーレ領の領主は貿易と漁師の町というだけあって、力強さと豪傑さを見せながらも商人らしい話術を持ち合わせていたため、ついつい話が弾んでしまう。
現在は僕と、召使役のノエル様と、何故か僕の秘書と名乗ったシールの三人で領主亭に招かれており、ルルとリリムは情報収集という名の、恐らくは食べ歩きに向かっている。
シール曰くルルたちにとって貴族用の食事は量が少なく味もそこまで好みではないらしい。
あの二人はただの護衛なので、安全な屋敷内ならば召使と秘書だけで十分であると説明し、僕たち三人だけとなった。
そうして一夜を明かし翌日の出発を待つことになる。スーレ領の次はキセ領を通る必要があり、すでに通達を送っているため道中は問題なく進めるそうだ。
また、他国とはいえ王族に対しては本来強制的に何かをする権利など当然持ち合わせていないため、もし本当に急ぐのであればキセ領領主には挨拶のみで通ってもいいように手配してくれた。
「キセ領領主は先代が病で亡くなってしまったがために世代交代をしたばかりですが、若くして中々良き領主です。それに美しい未婚の女性ですから、一度立ち寄ってみることをお勧めしますよ。」
横にいるシールが若い女性という部分に一瞬反応したようだが、表情や姿勢を崩すことなく静かに座っている。シールは若く見えるが何百年も生きている竜神なので、己を律する術はしっかりと持ち合わせているようだ。
領主を見世物にするような発言はどうかと思うが、事実として領主目当てに訪れる者が多いらしく、不純な理由ではあるが賑わっているらしい。
「なるほど。時間に余裕があればご挨拶させていただきます。そういえば、今回の式に領主の方々はご出席されないのでしょうか?」
ふと、思いついた疑問をぶつけてみる。自国の王族の結婚式となれば、アガレス王国なら各町村の長であったりが集まるのだが、ウアル連合国はどうなのだろうかと尋ねれば、何かを思案するような表情になった。
「国秘の情報というわけでもないのですが、ウアル連合国の王族や高位貴族の結婚式に関しては、他国からの方々を多数お招きいたしますので、領間であったり領内の治安維持に領軍や時間を割いているのです。何かあった際にすぐに動くことができるよう各領主は己の領地にいなければならないのです。」
聞いてしまえば納得できる理由ではあるが、人によっては信用されていないと感じたり、お前たちは問題を起こすと思われていると感じ取る者もいるらしく、あまり大きな声では言えないことらしい。
他国の人間が帰国した後で王子たちが各領へ赴き、視察を兼ねたあいさつ回りを行う慣習もあるらしく、その時を狙って荒事を持ち込まれえることも多かったらしく、そこも含めて他言しないようにしているのだとか。
僕たちに話してくれたのは友好国の王族であるためと言っていたが、どうもこの領主は単に話すのが好きなだけで、うっかり話してしまった・・・と見せかけるためだろうか?
あわよくばその視察の護衛にルルたちを雇うためにあえて情報を渡したのだろう。この人の眼は一瞬でルルたちが実力者であることを見抜いていた眼をしていたし、シールのような見た目子供にしか見えない存在が秘書と言っているのも疑問を持っていない。
竜神であることまでは知識というか知見の問題なので分かってないだろうが、少なくともシールもまた護衛の一人であるというくらいのことは気が付いている。
この後、例えば王都で実際に王子たちから依頼が入った場合に、話を通しやすくするために事情を話していると思われる・・・かなりのやり手だ。
その後も話は弾み、主に貿易や各領の名産品の話だったが、夜もいい時間になるまで盛り上がった。
ノエル様とシールは早めに退出し休めるように手配してもらい。ノエル様は部屋で休み、シールは別の部屋で領主お抱えの召使たちを虜にしていたらしい。
見た目は格好いい少年な上、中身は竜神としての知識を持ち合わせているのだから大人しくしていれば人気が出るのもよくわかる。
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