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31.反省会

※以前執筆していた作品の47話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「お疲れ様、グラ。中々良かったんじゃないかしら?」


ルルが労いの言葉と共に最初に迎えてくれて嬉しく思ったが、どうやらそれは後ろの三人よりも先に褒めることでこの後の反省会で落ち込みすぎないようにしてくれているだけかもしれない。


「とりあえずはお疲れ様です。こちらをどうぞ。」


リリムから紅茶を受け取り、椅子に座ってゆっくりと頂く。普段よりも多めに砂糖が入っているのか甘すぎるような気もするが、疲れた体には糖分が効くらしい。


「戦闘中の身のこなしは完璧と言えるかと思います。ですが、必要以上に魔力を注ぎ過ぎていますね。今はたった一戦、数体を相手にする程度で済んでいますが、これが数百、数千の敵と連戦となった際、余計な魔力消費は瀬戸際で致命的な失策につながることもあります。彼我の実力差を正確に測り、必要最低限の労力で戦闘をこなす技術の習得をしたほうが良いかと。」


僕が数百とか数千とかっていう相手と戦うことはほぼないだろうし、能力的にも一対一で一対少数で勝つような適正を持っているので確かにそういった鍛錬はしてこなかった。


「もちろん目の前の敵を倒すことが最優先で問題ないし、それすらできなかったら話にならないから、判断が間違ってるっていうほどじゃないけどね。グラっちの場合は自分の力を過小評価しているのが一番の問題かな?」


「そこに関しては私たちの育て方が悪かったから耳が痛いな。グラセナ。正直に言って、お前の実力は私たちに劣ってなどいないと思っている。だが、実戦経験の少なさが、実績の少なさが自信に繋がっていないのだろう。ルルたちと共にいれば安全はある程度確保されているだろうから、どんどん実践を積んで経験を溜めていけ。」


アガレスの神将と名高いノエル様にも認められているというのは嬉しいけど、身体強化を使わなきゃ長剣を満足に振ることすらできないような弱い体だし、魔力も増えてきているけど少し強い魔法使い程度でしかない。


自分を過小評価しているつもりはないが、ノエル様たちに比べたら一段も二段も、あるいはそれ以上に劣っているのは明白だ。


「・・・ねえノエル。どうしてあなたもエレナも、グラを真っ当な騎士みたいな戦い方をさせるのかしら?」


「それは・・・」


正直、自信という話で言うのなら一対一での命の奪い合いならそれなりにこなすことができる自信がる。正面から戦ったらどうしたって筋力差や魔力差が出てしまうが、ただ命を奪うだけなら油断している相手の喉を掻っ切る程度の力があればいい。


隠密魔法で近づき、殺されるその瞬間まで僕に気づくこともなくやられる。そういう戦いであれば確かにノエル様たちが相手でも成功させることはできる。もちろんやらないけど。


「・・・分かってる。ただの、親の我儘だ。愛する息子に暗殺者になれなど、誰が言えるか・・・。」


こんな適正で生まれてしまった以上、それが最善だと分かっていても、その一歩が踏み出せないのは互いに覚悟が足りなかったからだろうか。


目を瞑りぼやくように小さく発するノエル様の言葉に、それ以上だれも何も言えないような空気になってしまった。


「・・・ごめんなさい。あなたの・・・あなたたちの気持ちを無視してしまっていたわね。」


「はーい。この話終わりー!暗い空気にしたってしょうがないし、後はグラっちがどうなりたいか次第だよ。それより問題は武器のほうだと思うね。」


確かに武器に関しては前々からどうにかしないといけないとは思っていた。仕事内容的にも身体的にも長剣は持ち歩けないにしても、もう少しいい武器は欲しいところだ。


懐にしまったり、腰や足に固定して隠したりすることもできるので短剣を使っているし気に入ってはいるのだが、長剣や槍などに比べて短剣はそもそも数が少なく、魔法が付与されているようなものも見たことが無い。


「いっそ鍛冶屋に頼んで作ってもらったほうがいいのかな?でも短剣を作りたがる鍛冶屋がいないか。」


今まで何度か依頼したことはあったのだが、良くて渋々、悪いと門前払いされてしまうこともあり、短剣の人気の無さがよくわかる対応だなと思ったりもした。


量産品程度の品質でいいのなら打ってくれることもあるのだが、高品質な一本を打とうと思ったら、殆どの鍛冶屋は長剣を打とうとする。


「それと魔石ね。短剣を魔剣にするには、小さくて高濃度の魔石が必要だわ。宝石でも作れなくはないけど、間合いや用途を考えると宝石じゃ耐久力に難ありね・・・。」


「古代にはさまざまな武器を研究していた者が何人かいましたからね。もしかしたらどこかの遺跡で良質な短剣に巡り合うかもしれません。それか、魔石が手に入ったら私か姉様が作成するかですね。」


魔石や良品質の金属が手に入れば短剣を作ることはできるとのことなので、暫くはルルが以前魔熊から作り上げた剣を借りておくことになった。


一応普通の剣の扱いも一通り学んでいるし、この剣は軽くて丈夫なので僕でも扱いやすいとのことだ。


「さて、反省会はこのくらいにしておきましょう。」


そう言いながらリリムは何匹か回収していたトビウオをルルに渡し、ルルは受け取ったトビウオをキレイに捌きつつ魔毒を取り除いていく。


焼くのか煮るのかと楽しみに思いながら見ていたら、リリムが収納魔法から調味料を数種類取り出し、混ぜたものを捌かれたトビウオ掛けてみんなの前に出してきた。


「こちらは醤油に柚子という柑橘系の果物の果汁と酢を混ぜたものです。こちらの皿は山葵醤油のもので、細かく刻まれているものは味噌や海藻などが和えてあります。」


「魚を生で食べるのは寄生虫がいるから本来は危ないのだけれど、ちゃんと安全に食べることができるよう魔法で処理してあるわ。」


そういって姉妹揃ってノエル様の前にお皿を差し出す。ルルたちのことは信頼しているので毒などの危険性は心配していないが、ノエル様は初めて食べるようで少し緊張している様子だった。


「・・・頂こう。・・・ふむ・・・これは・・・ルル!」


「お望みのものはこちらに。王妃様。」


随分と仰々しく取り出したのは米から作ったという酒だった。トビウオを食べながら酒を煽る三人を見て、シールが少し羨ましそうにしている。


「シールはお酒は飲まないのか?」


「ん?そんなに強くないけど飲むよ。でも、葡萄酒とかの方が好きだし、魚とはあんまり合わないかなって。」


確かに葡萄酒は海鮮と相性が良くないことが多い。どちらかと言えば獣肉に合わせることの方が多いだろう。


シールはトビウオを食べるのはそこそこにして、鶏肉の残りを焼きつつ葡萄酒を自分の収納魔法から取り出して飲み始めた。各々が好き勝手盛り上がっているので、自分も香草酒を取り出してトビウオと共に楽しむことにした。


真昼から酒盛りが始まったが船は止まらず進み続ける。













「・・・慣れの差・・・かしら?」


夕刻辺りからシール君が酔いつぶれてしまい、風も自然のままになった結果船は殆ど動かず、軽量化の魔法が掛けられた船がたまに波に煽られて進む程度になってしまった。


そしてノエルとリリムが抱き合うようにして眠っている。あのリリムがここまで人と密着しているのは大変珍しいが、ふと思い出せばリュフカの町でも似たようなことがあったなと、思わず苦笑いがこぼれた。


グラはというと、元々香草酒は薬用としての意味合いが強いからか酒精もそれほど強くなく、酔いつぶれることもなく少し顔を赤らめる程度だった。


椅子に座り何かを思案するかのように空を見上げて月明りに照らされているグラは、どこかの絵画かと思えるほど美しく思えた。


「私も少し酔っているのかしらね・・・。」


出会い、共に過ごした時間はまだまだとても短いが、それでも過去何百年と感じたことのない幸福感を味わっている。


恋だの愛だのと言っている暇があるなら試験管でも見つめていたり、研究論文を眺めている方が楽しいと思っていたが、ただ意味もなくグラを眺めているだけの、こういう時間も悪くないと思ってしまう。


「ま、私は所詮人ならざる者。実を結ぶことなどないのだから、せいぜい舞台で見る物語の如く楽しみましょう。」


誰に聞こえるわけでもなく呟いた言葉は夜風に紛れて消えていく。グラに分けてもらった香草酒を口にすれば、爽やかな香りが鼻から抜け、体に心地よさが広がっていく。













とても甘美で・・・故に苦い・・・雫を零す夜の味・・・。

いいねやレビュー・感想など頂けると非常に励みになります。


一言二言でも頂けるとありがたいので是非ともよろしくお願いいたします。


こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

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