30.ザリガニ退治
※以前執筆していた作品の46話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「鳥翼系統の魔物を相手にする時は翼を狙え!グラセナ!」
「はいっ!」
日も登り航海は順調に進んでいく中、時折現れる魔物の対処は訓練の意味も込めてグラが中心に戦うことになった。
隠密系の魔法を得意とするグラは、密偵としての潜入工作などは素晴らしく優秀だけど、戦闘能力は一般騎士程度のものしか持っていないため、現在はノエルとリリムがグラに指示を出しながら鍛えている。
しかしながら、鳥翼系統の魔物はいざとなったら空に逃げることもできる上に、グラの武器は普通の短剣であるし、攻撃魔法も近接戦用に鍛えていたため中々攻撃が届かない。
「それでも当ててる攻撃は正確に翼を切り裂いてるし悪くないよね。あ、こっち焼けたよルル姉」
グラは元々筋力が低いが身体強化を使ったり魔力を武器に乗せて飛ばしたりと、所々でエレナの息子だということを思い出させるような戦い方をしている。
「ありがとう。塩焼きだけじゃ物足りないわね。トマトと一緒に煮込んでみようかしら。」
グラが仕留めた獲物はシール君と一緒に調理して食事に回している。普通の家畜などは血抜きをしたり熟成させたりと食べるまで一苦労があるけど、魔物の肉は魔毒と呼ばれる血の代わりに流れている魔力のようなものを浄化するだけで、そこそこ食べることができるため戦場などでは貴重な食料となる。
「いい匂いが漂ってくるせいで集中力が切れそうだよ・・・。」
「それでは一先ず終わりにして、先に食事にしましょう。」
リリムがそう宣言すると同時に空中へと跳ね上がり、残っていた魔物を全て蹴り飛ばして海の藻屑にしていく。
普通の飛行魔法や浮遊魔法は使えないこともないがそこまでの速度も出ないため、リリムはこういった戦闘中は結界を空中に張って足場にし、それを蹴って飛び回ることで素早く動き回ることができている。
「はいグラ。とりあえず塩焼きね。煮込みの方はまだ時間が掛かるから待っててね。」
「ありがとう。今はどの辺りまで来てるんだ?かなりの速度で進んでいるように感じるけど。」
串焼きにされたお肉を受け取りながらグラが質問してくる。シール君が正確に風を操っているおかげで、かなりの速度で船が進んでいる。
戦闘中何度かグラが置いていかれそうになっていた時も風で送り戻していたり、、船上も風を整えてくれているおかげで快適であったりと、シール君は本当に優秀だ。
「今はもう半分くらいまで来てるわね。普通なら五日くらい掛かる距離らしいから、結構順調ね。」
「魔物もそんなに強くないし、楽な船旅だね。そろそろちょっと強い魔物が現れてグラっちが軽くスパっとやられちゃう的な展開は・・・」
「そんな敵がいたらシールに任せて船内に逃げておくよ。」
「じゃあ僕もルル姉に押し付けて逃げるから、一緒に布団で震えてようか。」
軽口を言い合う二人を見て、出会ってから間もないのに古くからの友人かのように話しているのは不思議な光景だ。
グラは密偵として調査する際に、民間人から話を聞くこともあるだろうし、そういった経験量から人の話を聞くのが得意だろうし、シール君はシール君で話好きであるから相性がいいのは間違いないだろう。
「押し付けるのは構わないけど・・・あれくらいならグラでも倒せるわよ。」
そう言って指差しすると同時に、海面から大きな音と水しぶきを飛ばしながら、ザリガニのような魔物と空中に浮いている魚が現れた。
「おぉ!エビ・・・ザリガニ・・・どっちだろう?美味しいかな?」
「魚の方はトビウオか?身がしまっていて美味しそうだな。」
普通の商人や少し腕が立つ程度の冒険者にとっては、巨大なザリガニや空を飛ぶ魚の魔物は脅威となるだろうけど、私たちにとってはこの程度の魔物はただの食料でしかない。
リリムはもちろん、ノエルやシール君にとってもそれは同じであるし、グラも特に緊張した様子もなく臨戦態勢を取っている。
トビウオの魔物は先ほどの鳥と同じく攻撃方法が突っ込んでくるしかないため、注意していれば対処はそう難しくない。
ザリガニの方も、大きなハサミで船を襲われたら船が破壊されてしまうが、単純な物理攻撃しかしてこないのなら結界を張っていれば攻撃は通らないし、魔法を撃ってくるにしても見てから魔防結界を張ればいい。
問題となってくるのはどうやって間合いを詰めていくのか、どうやってこちらの攻撃を通すのか、グラの顔を見れば既に策は思いついているのか自信ありげな表情をしている。
「船は私たちが守ってるから、遠慮なく行ってらっしゃいグラ。」
「了解。」
グラに手を振りながら見送りつつ、防御結界を張る準備だけしておく。現在広く伝わっている結界魔法は物理、魔法共に防いでくれるものが多いが、それだと消費魔力も多い上に耐久度に不安が残る。
一点張りの方が効果が高いのは昔から同じで、対物理なら物理専門の結界を、魔法に対しては対魔法の結界を張ったほうが効率も効果もいい。
「さて、グラはどんな戦いを見せてくれるのかしら。」
船から飛び降りたグラは足元の海水だけ凍らせながら海を走ってザリガニへと近づいていく。魔道具の力かとも思ったけど魔力の動きから見るにグラが細かく制御しながら凍らせているようだった。
「・・・器用さは母親譲りですか?」
「器用で済ませていいものなの?あれ・・・」
リリムが関心したように呟き、シール君が半ば呆れているかのような声でぼやく。あそこまでの制御ができる魔法使いなら、大抵空中移動の術を持っているからわざわざこんな事をしなくてもいいのだけど、グラはエレナによって制御能力ばかり鍛え上げられたのだろう。
「知識は後からいくらでも身に着けられる。だが魔力量や魔法の制御能力は一朝一夕で身に着くものではない。エレナは常にそう言ってグラセナを鍛えていたな。」
一体どれだけ鍛えられたのか分からないが、まるで今のグラは偉大なる魔法使いとなる器だけ鍛えられているかの如く、歪で面白い育ち方をしている。
「魔法の修行でそっちを先に鍛えるのって苦行でしかないでしょ。成果も見えてこないから達成感もないし・・・卑屈な性格がそれを成したのか、そんな修行してたから卑屈になったのか・・・」
私やリリム、シール君ですら最初の方に鍛えたのは知識であり、得た知識を実現するために魔力や魔法制御能力を鍛えたというのに、エレナはどうしてそんな歪な育て方をしたのか、いつか聞いてみよう。
「ほう。迷いなく懐に飛び込み関節部分を蹴りあげましたね。外殻は間違いなくグラさんに貫けない硬さをしていますが、内側の、しかも関節部分ならグラさんの力でも十分攻撃が通りますね。」
器用にザリガニの腕を蹴りあげてから空中で体制を整えつつ、一度海面に戻ってからすぐに蹴り跳び上がり今度は短剣を構えている。
そのまま短剣を関節部分に刺そうとしたのだろうけど、ガキンッ!という金属音と共に短剣の刃先が砕けて海に落ちていってしまった。
だがそれでも冷静さを欠かさないグラはザリガニの腕に捕まり、そのまま蹴り跳び上がってザリガニの顔の前までいき口の中に炎弾を叩き込んだ。
さすがに内臓に直接攻撃を食らってしまえばひとたまりもなく、ザリガニは内側から燃え上がりながら悲鳴のような音を上げている。
グラは空中に身を放り出していた所をトビウオに突撃されて吹っ飛ばされてしまったが、その勢いを利用することで暴れるザリガニのハサミを躱しつつ距離を取って体制を整えている。
一度火を消すためかザリガニは海中へと潜って目視できなくなってしまったが、グラは探知魔法を使って正確に位置を把握しているようで下を向いたまま集中している。
そして、ザリガニが海中深くからグラの足元へ勢いよく飛び出してきたと同時に、グラも今一度空中へと跳び上がり複数の魔法を展開した。
「おぉ!多重展開は強者の魔法使いっぽい戦い方だね!電撃と風の刃と氷柱と・・・ちょっと待って、グラっちは何種類の魔法が使えるの?」
グラが放ったのはまず右手から電撃が放たれ、ザリガニの口の中へと走っていき、さらには電撃で作られた道を通るように氷柱と風の刃がザリガニを貫き切り裂いていく。
さらには炎弾も追加で放ち、ザリガニはとうとう息絶えてそのまま海の藻屑となっていった。
「いや・・・えぇ・・・やりすぎじゃない・・・?」
「倒せないよりかはマシかと。戦闘経験の少なさが良くも悪くも見える戦いでしたね。」
残ったトビウオも片っ端から魔法で屠ってから船に戻ってきたグラに拍手を送って迎えたが、ノエルやリリム、シール君は少々不満げのようだった。
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