2.事情聴取
※以前執筆していた作品の3話~5話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「ご足労頂き感謝いたします。グラ様は応接間にいらっしゃいますのでご案内いたします。」
朝食を取り終えてから町を散策しつつ警備の騎士たちの拠点となっている屋敷に到着し、門番の騎士からそのように案内を受けた。
自分たちは特に名前も伝えていないし彼とは初対面ではあるのだが、丁寧な対応をしてくる辺り一通り事情は知っているのだろう。
昨日同じ牢屋に入れられていたグラと呼ばれている人は、様付けで呼ばれている辺り王都の騎士の中でも偉い立場の人間なのだろうか。
「グラと聞くとあの女を思い出しますね。姉様の記憶を盗んだ小娘を。」
昔、色々あって勝手に弟子になっていた女性を、なんやかんやで面倒見ていた時期があったのだが、そういえば彼女は自分が将来子供を産んだらグラと名付けたいと話していたのを思い出す。最も適当に聞き流していたので理由とかは何も覚えていないが。
「そうね。暗がりでしか見てないから顔とかは分からないけど、声や魔力反応は彼女に結構近しいものを感じたわ。もしかしたら本当に彼女の子供なんじゃないかしら?まぁ、だから何って話ではあるけどね。」
あれだけの惨状を見てもすぐにやるべき事に着手することが出来る冷静さや、その翌日には事情聴取も終わらせさらにはリリムを探しあてて声をかけてきた辺り、かなりの優秀さを持っていることが伺える。
尤も、彼女の子供だか親戚だかで、幼少期より教育を受けていたのなら当然とも思える。
「失礼いたします。グラ様、昨日の協力者の方々をお連れいたしました。」
「ありがとう。二人とも昨日の今日ですまない。色々と話しがしたくてね。」
応接間まで案内してくれた門番に礼を伝え、二人に中へ入るよう促してくるグラを改めて見てみると、騎士というよりかは高位の貴族男性のように見える。
「本当は昨日の夜に宿へ訪ねようかとも思ったんだけど、夜分に女性の部屋を訪ねるのは良くないだろうし、この部屋は盗聴防止の魔法もかけてあるから秘密の雑談に丁度いいと思ってね。」
一応昨日は気配も消して、魔力探知もされないよう注意しながら宿へ帰ったのだけど、それを事も無げに伝えてくる彼の実力は、私たちが想定している以上に優れているのかもしれない。まぁ、私たちは命の危険がほぼ無いから、そもそも隠密行動とか探索や探知といった能力・技能には疎いのだけれど。
「まずは昨日のグランツファミリーの件に関して、意図した行動ではないにせよあなた方のおかげで手間が大分省けて助かったことを、捕まっていた方たちも概ね無事に元に戻ることが出来たことを、この町を代表して感謝します。」
救出された人たちが無事だったのは良かった。概ね・・・と表現したのが気になるので確認してみたところ、外傷は問題ないが精神的な疲労が溜まっていたことと、屋敷が消し飛んだことが衝撃的すぎて一部精神に負荷が掛かっている程度だそうだ。
「特に善意を以て取った行動というわけではないけど、騎士様の助けになったのでしたら幸いです。」
一応彼の名前は知ってはいるが、お互いに自己紹介もしていないような立場で高位貴族らしき男性の名前を呼ぶのは躊躇われる。
「あぁ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったね。僕の名前はグラ。王都の騎士という体でこの町には来ているけど本来はこの国の、アガレス王国国王直属の密偵だ。といっても、この国自体は基本的に平和だし、諸事情で僕は国外にいくことはそこまで多くないんだ。だから自由騎士としてこういった解決し難い事件を追ったりするのが主な仕事かな。」
「密偵・・・ですか。それを出会って間もない、正体不明の私たちに明かしてしまってもよいことなのですか?」
リリムが疑問に思うのも頷ける。本来の密偵は親しい間柄ですら公言出来ない職だろうに、それをわざわざ私たちに言うということはただの自己紹介ではなく、何か狙いがあるのだろう。
「あぁ。本来なら当然言えるわけもない。だが、君たちなら問題ないと判断したんだ。というより、下手に隠し事をした状態で話をして、うっかり昨日の屋敷の二の舞・・・なんてことになったら洒落にならないからね。だったらいっそ全部明かしてしまったほうがいいかと思ったんだ。」
グラがこの町へ来たのは昨日の件だけではなく、数日前に隣国のバエル王国から危険な魔女が2人この国へ入国したらしいという情報を得て調査に来たらしい。
アガレス王国はこの大陸の中央部分と海まで続く南側を国内とし、王都を中心として東西北に山が連なっている。そのため王都へ行くには危険な山を越えるか、一度東西にある町などを経由してくる必要がある。
そしてそんな国境近くの町のひとつがここだそうだ。可能なら捕縛を行うつもりだったようだが、色々と察して諦めたらしい。
「そうね・・・その情報で示している"魔女"が私たちかは分からないけど、数日前にバエル王国からアガレス王国へ来た2人組の魔導士というのは私たちかもしれないわね。」
その魔女を見たというエルフ族の老人が、"200年前と全く同じ見た目をしている"と驚愕した辺りから魔女認定されたらしい。しつこく絡んできたらちょっと混乱や麻痺や回復阻害や治癒阻害の魔法を仕込んだのもよくなかったのかもしれない。
「一応言っておくと、状態異常の魔法は全部前歯に仕込んであるから、前歯を取ってしまえば問題無くなるわ。尤も、そんなに長く続くようにはしてないからもう問題なくなっていると思うけど・・・。」
「あの男は昔も姉様の体目当てにしつこく絡んできた下郎です。悪意には悪意を以て返すのは当然のことだと思います。」
絡まれていた私は多少迷惑には感じていたものの、一方でどうでもいい者の命をいたずらに奪うような趣味もないので適当に追い払うためにしただけなのだが、もしあの場でリリムが先に対処していたとしたら、首を刎ねられたり胴体が真っ二つになった程度で済めばマシというくらいに無残な姿になっていたことだろう。逆の立場でも同じことをするくらいお互いにお互いが大切だし、害する者には容赦はしない。
「まぁそんな話はどうでもいいわね。私の名前はルル、それと妹のリリムよ。私たちのことは呼び捨てで呼んでもらって構わないわ。今はとある目的のために世界中を旅しているの。といっても必死に探しているというわけでもなくて、のんびりと旅を楽しむことの方が大事ってくらいには適当なんだけどね。」
一応私たちはただの浮浪者なので呼び捨てで呼んでいいと伝えたのだが、グラ自身も呼び捨てで構わないと言われてしまった。高位貴族らしき雰囲気を纏っているのだが気さくというか、親しみやすさを感じる。それも密偵の技能のひとつなのかもしれない。
「ところで、200年前と姿が変わらないというのは、君たちの先祖も瓜二つとか?あるいは普通の人間に見えるけど実は長命種とか?」
この世界には様々な種族が生きている。竜人族や精霊族などが特に長命であるが、獣人族や鳥人族なども長生きする者が多い。だけど、私たちが長生きなのは種族の特徴というわけではない。
「私もリリムも同じただの人間・・・のはずよ。少なくとも他の種族のような特徴は何一つ持っていない。私たち姉妹は呪われた子。抱えている呪いは【不老】。体は決して老いることなく、受けた傷もすぐに回復する。昔、左腕を切り落とされたことがあるのだけれど、それすら痛みを感じる前に元に戻ったわ。おそらくだけどこの体は【不死】でもあるわ。私たちは少なくとも1000年を超える時を生きている。特別なことといえばそのくらいかしら。」
「あれほどの強さを持っているのに?」
確かに、普通の人間がこれだけの力を持っているのは異常な事だろう。精霊族や竜人族だと言われるほうがまだ納得できるのかもしれない。
「その辺の精霊や竜人より長く生きているのだもの。私たちはその時間をずっと鍛錬や勉学に費やしてきたし、それだけ多くの経験をしている。そして、体が衰えないから身に着けた力は向上していく一方だわ。仮に、あなたが同じような呪いを持っていたとして、同じだけ鍛えたら私たちより遥かに強くなるでしょうね。」
有限を生き、育ち、衰えるからこそ才能や努力、環境といった部分の差が出てくる。前提が違う上に私たちは努力を怠らず、環境は自分たちで整えてきたというだけだ。
間違いなくグラのほうが秘めたる才能は高く、同じ時間だけ鍛えれば私たち以上の存在になるなんて容易だろう。
そんな、ありもしない想像の未来を描くなんて意味がないかもしれないけど。
「なるほど。君たちの目的っていうのも聞いてもいいかい?一応、この国に害するような事があったらマズいから確認したい。もちろん話せる範囲でいいし、もし何か力になれることがあるとしたら協力するよ。」
「私たちの目的は700年前の財宝を探しているの。絶対にソレが必要ってほどでもないんだけど、一応私たちの財宝だから人に取られるくらいなら自分たちで使おうかなっていうくらいね。」
一般的に冒険者が迷宮やら遺跡やらの攻略時に手に入れた物はそのままその人の所有物となる。遥か昔には冒険者なんて括りは無かったが、それでも同じような扱いではあったため私たちの財宝といって差し支えないだろう。
「700年前というと、この世界では魔王が暴れていたとか、当時の勇者が世界を救い建国したとか、そういったおとぎ話なら聞いたことがあるけど・・・」
「魔王というのは少し違うわね。倒されたのは"絶望の竜神"。この世界にはそれぞれの道を究め、その理を司る竜神がいる。おとぎ話などではなく実在するわ。そして700年前、人か、世界か、あるいは自分自身か。何が理由だったのかは分からないけれど、何かに絶望した竜神の1体が狂乱していたのよ。それを倒して、竜神の財宝を手に入れたのだけれど・・・転移魔法に失敗しちゃって私もリリムも世界の彼方に飛んで行ってしまったの。」
自分は山の中に埋められてしまい、転移魔法の軌道で魔力を根こそぎ持っていかれたというのもありそのまま1年近く冬眠状態になっていた。リリムも全く別の場所に飛ばされてしまっていたのだが、その時の話は特に聞いたことが無い。私を探し回っていたとのことだから特に面白いこともないだろうと、そのまま聞かず仕舞いである。
「なんというか・・・君たちの方がよっぽどおとぎ話のような存在だね・・・。でも、竜神を倒して手に入れたというのなら、その竜神の住処とかに行けば分かるんじゃないのか?」
「確かに竜神は狂乱していてもなお、己が司る理を操ります。本来ならばその竜神が使う魔法などで、どの竜神かも判別し住処などもある程度特定できます。いえ、出来るはずだったのですが・・・」
「私たちも竜神がどのくらい強いのか分からなかったのよね。それで、リリムと一緒に適当に魔法を打ち込んでいたら倒しちゃってて・・・結局どの竜神だったのか分からず仕舞いだったのよね。その後も色々あって財宝の件は数百年くらい後回しにしちゃってて、最近になってやっと思い出したからこうして旅をしているのよ。」
とりあえず、風と水でないことは判明している。水の竜神は当時からすでに知り合いであったし、風の竜神は最近・・・といっても数百年前ではあるが、知り合いになって違うという結論に至った。
「一般開放されている図書館などで調べてみたのですが、史実書などにも殆ど記載がないので、手あたり次第闇雲に探しているというのが現状です。」
王族しか閲覧できないような禁書のような物になら何か情報があるかもしれない。しかし当然ながら許可なく調べることなどできないし、自分たちには王族の知り合いなど多分いない。なので当時の英雄が建国したとされているこの国の王都にある図書館に行くことを一先ずの目的としている。
「あと、知り合いがこの近くにいるかもしれないから、そっちも手掛かりのひとつにならないかなって思ってね。シール君・・・シルフィードっていう風の竜神なんだけど、子供みたいでかわいいのよ。行動はちょっと可愛げがない時もあるけど。誰かさんと違って私のこと"お姉ちゃん"って呼んでくれるし。」
「あねさま・・・お姉ちゃん・・・」
少し、というよりかなり照れながらリリムの口からボソっと放たれた言葉が、甘い吐息と共に届いた。
普段キリっとしている人の甘え声はどんな魔法より強力な一撃だわ・・・。
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