28.砦内の諜報活動
※以前執筆していた作品の44話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「送り込んだ奴らは全員やられたらしいな・・・。少しアガレスの連中を甘く見ていたか・・・?」
要塞と化した国境の砦へと潜入し、食堂を兼ねた休憩所のような場所で喋っている兵士たちの話の話を聞いている。幸いにも誰一人として僕に気が付いた様子はなく、味方同士だけだと思い口が軽くなっているようだ。
「仕方ねえだろ。連中は可哀そうだがしくった奴が悪い。それより、これでバエルとアガレスは暫く睨み合ってくれるだろうよ。」
「まぁそうだな。とんでもなく強い女がいるらしいし、そいつがアガレスに残ってる限りバエルも仕掛けられないだろうよ。」
どうやらレゾンの町を襲撃したのはシトリ教国の手先だったようで、その狙いはルルたちを出国させずにアガレスに留めておくことらしい。
だがそうなってくると、今度は何故シトリ教国がそんなことをするのかが不明だ。戦争を起こさせないことで何かを狙っているのであれば、本当ならそこまで調査したい。
そんなことを考えていたところ、兵士が一人入ってきてのだが表情が少しばかり硬かった。
「アガレスの使者が一向にレゾンに現れないらしいぞ。夕方に到着して夜に出航だって聞いていたけど、町の中にも外にもどこにもいないらしい。」
少し慌てたように部屋に入ってきて話している兵士の真横に僕がいるわけだが、この兵士もまた全く気が付いていない。
「使者は無能な方の王子だろ?臆病風に吹かれて王宮で引きこもってるんじゃないか?」
なるほど、シトリ教国の人たちには僕は無能王子として認識されているらしい。別に否定できるような功績もないし、兄上の方が有能なのは間違いないのでそこは別にいい。
だが臆病風に吹かれて引きこもるというのはどういうことだろう。大変な任務といえば大変だが、道中危険があるわけではないし怖がるような要素がない。
「ウアルからの商船も来てないのを確認できてるし、アガレスからウアルに行く奴が誰もいなければいいんだろ?だったら別にいいんじゃないか。」
「まぁそうだな。アガレスの連中がどれだけ強くても海の向こうから攻められたら落ちるだろうしな。」
どうやらシトリ教国はウアル連合国を引き入れてアガレス王国を攻め落とすのが目的らしい。その先の狙いも調べたいところだが、そろそろ戻らないと出航に間に合わない可能性があるため、名残惜しいがそろそろ砦を離れる必要がある。
都合よく部屋の扉は開けっ放しになっているので、下手な行動を取って問題になる前に抜け出しておく。
今自分に掛けている隠密魔法は自己流で開発したもので、姿や気配は完全に隠すことができるのだが、存在そのものを消し去るわけではないのでぶつかったりすれば気づかれてしまうし、扉を開けたりしても突然何もなく開く扉に不信感を抱かれてしまう。
本来の目的は戦闘中に発動して相手の裏に回ったり、逃げ出したりするために開発したのだがそれ以外のことにも存外役に立っている。
ついでに、足音や足跡は今履いている靴が消してくれている。空中闊歩の魔法が付与されて魔道具の靴で、裏商会で高価格で販売されていた所を買い取った。
入手経路は非合法な商会経由であるため誰にも教えていないが、母上やルルなどは何となく気が付いているような気もする。
尤も、この靴が僕自身の役割に大きく貢献してくれているため、黙秘黙認してくれているようだ。魔力を流さなければ普通の靴なので、普段の生活で違和感を与えるようなこともない。
とりあえず何の痕跡も残すことなく、無事に砦を抜け出すことができた。
レゾンの町に無事戻って来た時にはすでに日は完全に落ちており、店は居酒屋以外が閉まっており、町中は街灯が等間隔についている程度になっていた。
「おかえりなさいグラ。船のほうは何とかなりそうだわ。風はシール君が操れるし、魔石から送り込まれる魔力もシール君が変わりに送り込んでくれることになったわ。ついでに操舵もシール君がやってくれるし、魔物の撃退と食事の用意と船上での暇つぶしの用意も・・・」
「後半のは僕じゃなくてもいいよね!?せめて報酬を・・・」
馬車馬の如くこき使われそうになったシールがルルに文句を言っているが、すぐに睨まれて無言になってしまった。
どうやらリュフカの町で泊まった時にルルたちの部屋を覗き見していたらしく、それがルルの逆鱗に触れたようだ。
「報酬は前払いで貰っているでしょ?それとも、本気で怒られたいのかしら?」
ルルが右手に魔力を練り上げて握り拳を作っているのを見て、シールは即座に働きに逃げだした。
何をしでかしたのかノエル様やリリムに聞いてみたが、ルルの尊厳を傷つけることはできないとだけ言われてはぐらかされてしまった。
「とりあえず町中や砦で入手した情報は母上宛に報告書を送りました。」
これ以上聞くのも怖かったので、話を逸らすためにもノエル様に情報を報告していると船が動き出した。
さすがの竜神といっても、この大きさの船に一日中魔力を流し続けるのはできないらしく、ある程度加速したら風で船を動かして、進路を変える時などにまた魔力を流すといった方法を取るらしい。
一見普通より遅くなりそうな方法だが、シールにとっては魔力をただ流し続けるよりも、帆が壊れない程度に強い風を起こし続けるようが遥かに楽だそうだ。
「とりあえず船の動かし方はわかったけど、咆哮とかはどう決めるんだ?海図も羅針盤も壊されてしまったらしいけど。」
船の被害として上がってきた報告は、航海士と操舵士と魔石の他に、海図や羅針盤も破壊されてしまったと聞いている。
「それに関しては問題ありません。神話の地図が海図代わりになりますし、方角は星の位置を見れば把握できると姉様が言っていましたので。」
最悪シールに運んでもらえばいいと言って船内に戻っていくリリムを見送りつつ、これ以上シールの負担が増えないように星に願った。
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