24.海を渡る方法
※以前執筆していた作品の39話~40話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて、選択肢は四つあるわ。盗む、作る、借りる、買う。」
「盗んじゃだめでしょ・・・。」
姉様とシール君とともにウアル連合国へと向かうため、とりあえず海辺の町であるスフラへと船を探しに来たのだけど、到着早々物騒なことを言い出す姉様にさすがのシール君も呆れ顔をしている。
「そもそも、ここは漁師町だから小さな漁船はいくつかあっても、大きな船ってなると・・・少なくとも私は見たことないわね。」
「最悪、あなたに乗っていくという手段もありますね。」
「乗せるか!!」
スフラの町にいる手頃な相談相手として、以前出会ったコロンという少女・・・によく似ている姿を取っている水の竜神エリアスに話を持ち掛けたのだが、力強く否定されてしまった。
エリアスは基本的にある程度自由に人の姿に変身することができ、外部の人間が訪れても誤魔化しがきくようにコロンの姉という立場に納まっている。
町民からもエリーという愛称で親しまれているらしく、竜神と一般人がこれほど距離が近いのも珍しいとシール君が驚いている。
シール君も天空都市限定とはいえ一般人との距離は比較的近いほうではあるのだが、やはり立場的にも少しだけ一線を画すことが多い。
「まぁこれでも瓦礫の運び出しとか建築資材の運搬とか、結構手伝ったからね。今は怪我した人を治したり、コロンや子供たちに勉強を教えたりしているのよ。」
元通りとまではいかずとも、活気を取り戻したスフラの町を案内してもらいながら話をしている。だが、やはりウアル連合国まで届くような大型の船はこの辺にはないようだ。
向こうの大陸では航海術などの発達も数段進んでいるため、こちらへと来る時はその辺の海賊ですらたどり着けるほど問題が無かった。
逆にアガレス王国は自国内での生産がかなり安定しているらしく、国内だけで十分な暮らしができてしまうため、他の大陸へと渡る手段が乏しい。
「そもそもの話、ここからウアル連合国まで行くのなら、魔霧海域を超えることができる船か、大きく迂回できるような船じゃないとダメだし、迂回するにしても大波に耐えることができなきゃ沈むわよ。まぁ、あなたたちなら死なないから平気だろうけど。」
魔霧海域とはその名の通り魔力濃度が非常に高く、通常は目に見えない魔力が霧のように見えることからそう呼ばれている。
当然それだけの魔力濃度があるのであれば、大型の魔物や強力な魔物が多数出現するため、基本的には大きく迂回する海路を取ることになる。
だが、迂回するにしても荒波を越えなければならないため、小さな漁船ではとてもじゃないがウアル連合国までたどり着くことはできない。
二か月に一度くる商人の船に上手く乗ることができれば問題ないのだが、つい先日来たばかりで次にくるのは二か月後だと言われてしまった。
「海を舐めていたわね・・・。漁船に適当に魔力を補充してればたどり着けると思っていたわ。」
「やはりここは都合の良い乗り物を確保する必要が・・・」
エリアスの方を見ながら呟いただけなのだが、天敵を見つけた兎かのように走ってどこかへと逃げてしまった。
「僕が竜化して運ぶっていう手もあるけど・・・疲れるし大騒ぎになるしあんまりよくないよね。まぁ、エリアスに乗っていっても同じだけど。」
竜人の民であるシール君は竜の姿になることもできるが、一日分程度しか変身できない上に竜種は人にとって畏怖の対象となっているため、ウアル連合国の領土に辿り着いたとしても、揉め事になる予感しかしない。
「私は絶対船に乗るわよ。船釣りをしたいのだから。とりあえず、王都へ戻って情報収集をしましょう。もしかしたらグラたちの方に動きがあるかもしれないし。」
「船釣りか・・・。それは大事だね!釣った魚をその場ですぐ調理して食べるのは格別だって聞くし、是が非でも船に乗れるようにしなきゃ!」
一先ず王都へと戻り、道中も二人は釣りの方法などについて話し合いながら盛り上がっていたが、私としては甘くない食べ物は割とどうでもいいので後ろを静かについていった。
「王妃様が・・・病に倒れた・・・?」
「正確には原因不明の病が発症したってだけらしいけどな。感染する可能性もあるから一応王宮から出ないようにしているらしいけど、まぁあのお方の生命力なら心配することなんて何もないさ。」
王都に戻ってみたら先日までと違い少しざわついていたため、近くを通りかかった人に話を聞いてみたところ、命に別状はないが、治癒魔法でも治らないような不可思議な病が発症してしまい、暫くは王宮から外には出てこれないということらしい。
「同じような症状の病が他国で起きていないか確認し、治療方法を探している最中・・・という設定のようですね。」
食事をとりながら噂話に耳を傾け情報を確認する。国民を騙すのはどうなのだろうかとも思ったが、敵を欺くには何とやら。傭兵所にも万能治療薬や霊薬の提出依頼が出ており、報酬はかなり高額ではあるが提出できるような冒険者はいないだろう。
「とりあえずシール君はグラたちの様子を伺いに行っているし、私たちの居場所も大体わかるでしょうから、そろそろかしらね。」
姉様がそう言うと同時に店の扉が開かれ、現れたのはグラさんとシール君と、眼鏡をかけた黒髪の召使の姿を纏っている女性だ。
「数日振りだね二人とも。噂話の件は知っているかい?」
「えぇ、もちろん。王妃様が病に伏せられているという話でしょ?」
何気ない会話のようにも聞こえるが姉様もグラさんも多少芝居がかった話し方をしている。私たちと話すというより、私たちの会話を誰かに聞かせようとしているかのようだ。
つまり今から話す内容は民衆に、あるいはこの店に紛れ込んでいるどこかの国の密偵に聞かせるためだろうか。
「病と言っても、政治や戦闘に影響が出るというほどではないんだ。ただ、体に斑点模様が浮かびかがっているし、感染症だった場合に備えて今は離宮で隔離されているんだ。」
ノエルもエレナも遠い祖先へ辿っていくと英雄アガレスにたどり着くという。英雄の血が流れているというのは便利なもので、その血が体内に流れているだけで病から身を守ってくれるそうだ。
尤もそれは体が衰弱している老人や、多少耐性が上がったところで大差ない赤子の場合は病に掛かることもあるとのことだ。
だからこそ、英雄の血を以てしても発症した今回は警戒すべき案件であるとのことだが、果たしてどこまでが本当のことなのやら。
「それで、陛下も兄上も看病で忙しくなってしまったし、母上はノエル様の業務を一部請け負っているから、ウアル連合国第一王子の結婚式には僕が出席することになったんだ。今後の両国の関係を鑑みれば決して良いとは言えないが、そこはウアル連合国の懐の深さを信頼してってことでね。」
国王が直々に親書を作成し、そこにはこういった国情のため出席できないことを詫びる内容が記されているという。そして、ある程度長期の滞在となるため身の回りを世話するための召使が一人ついてくるという。
「事情が事情だから少人数で向かうしかなくてね。君たち三人を護衛として雇いたいんだ。報酬は・・・金銭で動くような人じゃないだろうけど一応金貨で千枚用意がある。他に欲しいものがあれば後で相談してくれ。」
金貨一枚で一般人が頑張れば一か月は生活できるくらいなので、千枚となるとかなりの金額になる。
いくら長期の契約になるとはいえ、たかだが数か月のためにこれだけの金額を出してさらに上乗せで報酬がもらえるかもしれないとなれば、その金額を聞いていた店内の人たちがざわつくのも納得だろう。
「君たちもウアル連合国へと行く用事があるだろう?船はこちらで用意する。だから・・・引き受けてくれないだろうか。」
そういってグラさんは私たちに、というより姉様に向かって頭を下げる。台に王子とはいえ王族が頭を下げてまで護衛を依頼する姿は異様で、報酬の件も相まって店中から結構な注目を浴びてしまった。
もしここで断りでもしたら店中どころかアガレス王国中から顰蹙を買うことになるだろう。普通に考えれば断り辛い状況で交渉するというかなり嫌らしい方法にも思えるが、姉様とグラさんの意図は別の所にある。
この店の中にも一人、異質な気配を漂わせている者が・・・いや、何も気配を感じさせない者がいる。半端な実力の密偵程、ただ気配を消せばいいと思っている節がある。
超一流の密偵はグラさんのように、気配を消すのではなく空間そのものに混じり馴染ませることで本当に何も感じなくなる。
その密偵に話を聞かせるようにして、注目点を"私たちが何者なのか"というところにズラしている。
そうすることでアガレス王国にはまだ隠されている戦力がいるかもしれないという疑念と、ノエルが国に残っているという情報を与えているのだろう。
「・・・事情は分かったわ。先に要望を一つ伝えるわ。王宮内のどこでもいいから、転移用の魔法陣を残させてほしいの。それがあれば緊急時にすぐこちらへ戻ってくることができるし、あなたたちだけでも送り返すことができるわ。」
もちろんこれは嘘である。転移用の魔法陣というのは確かにあるが、それは食料であったり武器であったり、そういった物を送るためのものであって、人を送り届けるような性能はしていない。
ましてや私たちは転移魔法のような、空間に直接作用する魔法の制御がとにかく苦手で、もし使ったとしたらどこに飛ばされるか分かったものじゃない。
ただ、これもまた牽制に必要な情報だ。すぐに戻ってくることができるのであれば、王族が頭を下げてまで護衛として雇うほどの冒険者がいつでもこの国に戻ってくるということになる。
国政や戦争に介入しているのではないかと問われれば、正直かなり際どい部分もあるが、何だかんだ姉様は面倒見がいいし、グラさんのことをかなり気に入っている。
本人がどこまで自覚しているか分からないが、少なくとも私は過去にこれほど個人に入れ込む姉様を見たことが無い。彼の歪な能力に惹かれたのか、単に好みの見た目をしているかは分からないが、ちょっと背中を押せば次の日には番になってるのではないかと思う。
そんなことを考えている内に話し合いは終わったのか、姉様とグラさんが握手をした後店から出ていった。
シール君と召使として付いてきた彼女もその後ろについて出ていったのだが、ここで私まで出て行ってしまうと少々まずいことになる。
「追加の料理お待たせいたしました・・・あれ?お一人でしたっけ?」
グラさんたちの到着を待っている間に追加で注文した料理が運ばれてきた。お代は先に払っているため大丈夫なのだが、この量を私一人では食べきれないし、持ち帰るにしてもどう運べばいいか分からない。
「・・・連れはすでに出て行ってしまいましたので、こちらは持ち帰ってもよろしいでしょうか。お皿の代金分もお支払いいたします。」
そういって料理を運んできてくれた女性に追加で支払い、ついでにいくらか握らせておく。店員は何か言いたそうな顔をしていたが、敢えて何も言わずに去っていった。
「さて・・・どうしましょうか・・・これ。」
「運ぶのをお手伝いいたしますわリリム様。」
突如耳元で囁かれて思わず肘鉄を食らわせてしまったが、"ソレ"は特に気にした様子もなく料理を次々と収納魔法にしまっていく。
「・・・いつから?」
「グラがルル様に交渉を始めた辺りから。グラに隠密魔法を教えたのは私ですからね。戦闘中は無理でも、こういった場所でリリム様を欺くくらいはできますわ。」
確かに適正があるからあそこまで能力を昇華させることができたとして、教導者がいなければそもそも能力の開花すらしない場合もある。
完全に油断していたため虚を突かれてしまったのが悔しいので軽く頭を叩いておく。エレナが言うにはシール君たちには事前に伝えてあって、姉様はエレナが店に入った時点で気が付いていたらしい。
「つまり、あなたに気が付かなかったのは私だけということですか・・・。腹が立ちますがあなたがいてくれたおかげで料理を無駄にせずに済んだのでよしとしましょう。」
そういってエレナとともに店を出て王宮へと続く道を歩いていく。エレナが何か話したい事があるようで、転移魔法で戻るのではなく歩いて戻ることになった。
「彼女の変装はいかがでしたか?頂いた魔道具や手持ちの魔道具を使っているのですが。」
彼女とはグラさんと一緒にきた召使・・・の恰好をしたノエルのことだろう。上手く変装できていたが、内情をある程度理解しているのと、眼鏡を通さなかった時の眼の色で誰なのか判断がついた。
「変装はほぼ完璧と言っていいと思います。よほどのことが無い限り気づかれる可能性はないでしょう。」
エレナも私も音の伝わる方向を絞る魔法を使い、他者に聞かれないようにしながら話す。
ノエルは姉様とグラさんが話している間もずっと俯いた状態であった。自分の恰好が不服なのか、国民を騙していることに心を痛めているのか、あるいは少しでも怪しまれないように静かにしていただけなのか。
そんな疑問をエレナに話したところ、帰ってきたのは予想していない回答だった。
「あれは模擬戦の時にやられたのが堪えているだけですわね。心理的外傷というものでしょう。リリム様を見て恐怖に震えていただけなのでお気遣いなく。」
・・・少々、やりすぎてしまったようです。
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