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22.苦悩の吉報

※以前執筆していた作品の37話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「エレナ、グラセナ。陛下がお呼びだ。執務室まで来てくれ。」


惨劇から数日が経ったある日の夕暮れに、ノエル様が離宮までやってきて母上と僕にそう告げた。


ルルとリリムは連日街中へと赴き、図書館に行ったり食べ歩きをしているようで、一通り見て回ることができたのでそろそろ次へと向かうつもりらしい。


シールはと言うと母上と一緒に魔法の研究をしたり、僕や騎士たちの鍛錬に付き合ったりと自由にしながらも色々としてくれている。


今日も母上と僕とシールとで話をしていたのだが、そこに突然この呼び出しがかかったため、シールに詫びをしつつ離宮から本宮へと移動していく。


「執務室に来て欲しいなんて、厄介事の予感がするわ・・・。」


母上がげんなりとした顔でそう呟いたが、さすがに陛下の呼び出しを無視するわけにもいかず、二人で本宮の通路を歩いている。


「この時間に呼び出しとは・・・バエル王国に動きでもあったのでしょうか?」


「その可能性もあるわね。いっそわかりやすく攻め込んできてくれた方が楽かもしれないわ・・・。」


気持ちは分からなくもないが、本当に攻め込まれたら少なからず被害も出てしまうので肯定するわけにもいかない。だからと言って何もせずに睨み合いが続くというのも、国境付近の兵や民は疲弊し続けてしまう。


アガレス王国がある大陸は3つの国と1つの集落があり、中央から南側半分程に位置するアガレス王国と、北東にあるシトリ教国、北西に位置するバエル王国、そしてバエル王国とアガレス王国の間にウァレウォル渓谷があり、そこには混血種が集落を成している。


バエル王国とは直接的な国境は無いものの、山を越えて進軍してくる可能性もあるため油断できない。


そうこうしているうちに執務室に辿り着き中に入ると、そこには陛下の他に先に向かっていたノエル様と兄上が待っていた。


「こんな時間にすまぬな。先ほど連絡があったことなんだが、実はウアル連合国の第一王子が結婚したらしくてな。」


「それは・・・また・・・難しい話を持ってきましたね。」


王族が結婚したとなれば、各国からそれなりの立場の人間が式へ参加し祝辞を述べる必要がある。まして、ウアル連合国は貿易相手としても友好的な関係を築いている国だ。こちらとしては王族や宰相、公爵が祝辞に向かう必要がある。


通常であれば王妃にして宰相でもあるノエル様が行けば済む話ではあるのだが、バエル王国と緊張状態にある今、国軍の要にもなっているノエル様をそのまま向かわせるわけにもいかない。


そして、アガレス王国唯一の公爵家がノエル様の家でもあり、軍務に携わっているためノエル様以上に国を離れるわけにはいかない。


「こちらの事情を説明できれば、陛下や私が行かずにアルマかグラセナのみの出席となっても、ウアル国王や王子たちは納得してしてくれるだろうが・・・」


「周辺貴族が納得しない可能性が高いわね。貿易友好国だというのに、王子の祝い事に陛下もノエルも出席しないとなっては・・・」


さらにまずいことに、アガレス王国で開かれた陛下とノエル様の式には、はるばる海を越えてウアル連合国国王が直々に来てくれたというのだ。


友好国ならばそのくらいはして当然だと、周辺貴族が難色を示していた中で来てもらったのだから、今度はそれにお返しという形を取る必要がある。


「ノエル様にしても陛下にしても、どちらかが国を空けた時点でほぼ確実にバエル王国は動きを見せてくるでしょうね。」


「あぁ。騎士たちがどれだけ精鋭だろうと、率いる将がいなくなれば戦争には負ける。ウァレウォルの民もバエル寄りとなれば、彼らが攻め込んでくる可能性もある。そうなれば鳥翼の民や竜人の民の奇襲が空からくるし、魚人の民がいるから海側も危険だ。」


平地を兄上が、海を母上が、空をノエル様がそれぞれ抑えて、山側は陛下や王宮騎士がすぐに対応に向かうことができるため、全員が揃っていればどこから攻められても対応可能となっている。


だからこそ、この均衡が一つでも崩れた時が怖い。ある程度は母上が対処できるだろうが、軍を率いた経験は無い上に戦争の知識もそこまで深くない。


「竜人族との戦闘経験はありませんがシール様に伺った所、竜人族の一人の平均戦闘力は私やノエルに少し劣る程度だそうです。束になってきたら私でも負ける可能性があります。」


混血種の民たちは基本的に人型の姿だが、混ざっている種の姿に変身して戦うこともできる。ただ変身は半日から一日程度しか持たず、その後は同じくらいの時間変身できない。


だがその戦闘能力の高さはすさまじく、変身後の場合一番弱くても騎士数十人分に匹敵する。


そのためアガレス王国内に僕を除く四人の王族がいるという事実を以て牽制し続けなくてはならない。


もちろんこの悩みはルルたちんい動いてもらうようお願いすれば瞬く間に解決することだろう。陛下たちがいない間三人がアガレス王国を守っていてくれればいい。


だが、三人は基本的に戦争事には関与しないようにしているらしく、多少の協力を得ることはできても、前線で戦うようなことにはならないだろう。


「バエル王国に密偵を潜らせてある程度情報は入ってはいるが、ウァレウォルの情報は殆ど入手できていない。彼らは隠密の無の気配すら見抜くというから、うかつに密偵を送り込むこともできずにいる。そこでだ。エレナ、グラセナ。ルル殿とリリム殿に依頼し、ウァレウォルの情報を入手できないか頼んでみてくれ。」


ウァレウォルの民がどういう動きを取るかだけでも知ることができれば、手の施しようがある。だが現状は知る方法が無いため、ルルたちを頼らざるを得ない。


打診してみますとだけ伝え、一先ずシールが残っている離宮へと一度戻る。ルルとリリムもそろそろ戻ってくると思うので、相談してみる。戦力的な協力は得られないにしても、知識を借りることはできるかもしれない。


海を越えて届いた吉報は、アガレス王国にとって頭を抱える問題となってしまった。

いいねやレビュー・感想など頂けると非常に励みになります。


一言二言でも頂けるとありがたいので是非ともよろしくお願いいたします。


こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

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