20.模擬戦のような何か
※以前執筆していた作品の35話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「模擬戦・・・ですか?」
「えぇ、そうです。私とノエルとアルマ殿下の三人でリリム様に挑みたいと思います。」
王都に辿り着きさっそく食べ歩きを始めてフラフラと店を巡っている姉様についていったところ、三件目のお店に入った所でエレナが転移魔法で現れ、そのまま私と姉様は離宮へと連れ去られた。
現在アルマ王子はグラさんの所へと向かっているらしく、彼が戻ってきてから模擬戦を行うことになった。今まで格上と戦うことがなく自分たちの限界がどの程度のものなのか把握できていない部分もあるため、それを知りたいのだという。
「三対一で挑むのは騎士道に反するかもしれないが、貴女の実力を鑑みればむしろこちらの戦力が足りないくらいだろう。物足りなさを感じさせるかもしれないが、受けてもらえないだろうか。」
「ノエル王妃とアルマ王子とエレナが相手ですか。なるほど。」
「私のことはノエルと呼んでくれ。敬称は不要だ。エレナが呼び捨てなのだからな。アルマも呼び捨てで構わない。」
ノエルとアルマがどれほどの実力者なのか分からないが、幼い頃より国王を守護し続けてきたというノエルは、若くしてアガレスの神将とまで言われるほどの実力を持っているのは知っている。
そして、アガレスの魔法神と神将の二人から英才教育を受けているのが二人の息子で、特にアルマは身体的にも恵まれている。グラさんも言っていた通り実力は疑う所がないだろう。
「構わないのですが・・・私ではなく姉様ではダメなのでしょうか?」
「ルル様はダメです!ルル様はダメです!!ルル様はダメなんです!!!」
「なんでよ・・・」
気持ちは分からなくもないが、そこまで拒絶するほどのことだろうか。姉様は確かに圧倒的な強さを誇るが、手加減ができないというわけではない。むしろ姉様はそういった戦技教導は上手いほうだと思う。
・・・もしかして、私なら勝てる可能性があるとでも思っているのでしょうか
。私のことを竜神と同じ程度だと見積もって挑んできているのかもしれない。
「・・・わかりました。その模擬戦、お受けいたします。ただし、一つだけ条件を付けさせてもらいます。」
私はうまく笑えているだろうか。ある時を境に感情を表に出すことが苦手になってしまったけど、二人の表情を見れば自分が思っている通りの表情をして、狙い通りの感情を相手に伝えることができているだろう。
「戦闘続行不可能状態での決着以外認めないという条件でやりましょう。徹頭徹尾全力でお相手させていただきます。」
「さあ始まりました!アガレス王国模擬試合!実況は私シールと解説にはルルさんにお越しいただきました!ルルさん、本日はよろしくお願いいたします。」
「え、えぇ・・・よろしく。」
アルマが戻ってきてから共に地下闘技場へやってきたシール君が、どうせなら楽しくしたいと言い出して、闘技場の外周にアガレスの騎士たちや離宮の召使たちが観客のように集まり、椅子と長机を用意して音を拡散させる魔道具を用いて実況の真似事を始めた。
とある国ではこういった決闘が興行になっていて、アガレスの騎士たちもそれを知っているのか盛り上がっている。
召使たちは食事を用意したり賭場を開いたりと、別のことで忙しく盛り上がっている。リリムのことをよく知らない騎士たちは、アガレスの三神が負けるわけがないと三人に掛けている中、離宮の召使たちはこぞってリリムに賭けている。
なかなかずるい賭場になっていると思わず苦笑いしてしまったが、私もせっかくなのでリリムに賭けておいた。
シール君はその興行をよく見に行っていたらしいし、私たちと会ったのもその時だったのでなんだか懐かしい気持ちになってくる。
「今回、実況の上で出場者の方々を敬称略で呼ばせていただきますことを予めご了承ください。それでは選手入場です!」
決闘には貴族が選手として参加することも偶にあり、身分を隠したいとか逆に身分がどうこうといった揉め事を起こさないように、最初にこの断りを入れることになっている。
「剣の腕は天下一品!アガレスの神将ノエル!魔法に愛され魔法を愛する究導者!アガレスの魔法神エレナ!そしてそんな二人に教え導かれし若き天才!神将を継ぐ者アルマ!」
こういった二つ名は大抵民衆が畏怖の念を込めてつけることが殆どで、この三人もその例に漏れずアガレス国民が二つ名をつけ、それぞれを題材にした演劇などがあるらしい。
「対するは、金色の輝きを纏い、獰猛な瞳は全ての闇を切り拓く。混沌を司る死神!リリム!」
リリムの二つ名はついさっきシール君が考えたようで、特に誰かからそう呼ばれているわけではないはず。つまり、シール君はリリムのことを死神だと思っているということかしら?
「さあアガレス連合はそれぞれ得意武器を構えていますが、リリムはいつもと変わらずの無手!だがその鍛え抜かれた肉体は刃の如く鋭く鋼鉄の鎧の如き防御力を誇っています!解説のルルさん!この試合どう見ますか?」
「どう、と言われても三人がどれほど強いのか私は知らないけど、ただ一つ言えるのなら、リリムが負けるところは想像できないわね。」
仮に今のリリムに勝つためには、シール君の力とグラの眼も併せて、その上で奇跡的なかみ合わせが起きれば勝てる可能性が僅かにあるという程度だろう。
鍛えた時間こそ私の半分くらいしかないが、それでも何百年と鍛え続けているし、衰えることのない体は能力を向上させ続けている。
「さぁ今開戦の鐘が鳴り響きました!おーっとエレナ選手吹っ飛ばされ・・・ちょ、リリム!?」
まぁ、彼らが死なないように目を光らせておきましょう・・・。
「まぁ、その後は大体想像通りだと思うよ。この回復結界の性能が優秀だったせいで、何度吹っ飛ばされても叩きつけられてもすぐ回復しちゃうから・・・なんというか・・・ね。」
口にするのも躊躇われるような戦闘・・・という名の残虐行為が僕が来る直前まで繰り広げられていたらしく、騎士たちは青白い顔をしながら賭場を立てた召使に文句を言っていたり、召使は召使で同じく青白い顔をしながらお金の回収や片付けをしている。
「アルマ王子は魔法剣士だったのかしら?初撃で剣を粉々に蹴り砕かれてしまったせいで素手での戦闘になってしまったけど、リリムの動きに三割くらいはついていけてたわね。身体強化の魔法を使っている上で攻撃魔法を幾重にも展開していく技術はエレナ直伝かしら。」
兄上は父上によく似た力強い肉体に、ノエル様の剣術と母上の魔法技術を習得しているのだから、人類の中でも比類なき強さを誇っている。その兄上ですら手も足も出ないのだから、片方しか持っていない二人の母ではどうにもならなかっただろう。
「ノエルは不屈の闘志が悪い方向に出たわね。リリムは一応、倒れているノエルとアルマ王子は攻撃しないように気を使っていたみたいだけど、すぐに立ち上がるせいで何度も蹴り飛ばされていたわね。」
若くして宰相という立場も兼任しているノエル様は決して駆け引きが下手ということはなく、むしろその手の駆け引きは得意だと思っていたのだけど、同時に騎士道精神を重んじる性格でもあるため今回は悪い方向に働いてしまったようだ。
「あとは・・・エレナはまぁ・・・防御魔法の精度は素晴らしかったわ・・・。エレナじゃなきゃ結界の中でも死んでいたでしょうし・・・。」
母上は一切攻撃に転じることができず、ひたすら防御に徹していなければならないほど狙われていたそうだ。
確かに戦闘において、狙うことができるなら魔法使いから狙うというのはよくある戦術だが、どちらかというと私怨がたっぷり入っていそうだ。
「・・・思っていたより戦えていたという話だけど、聞く限りでは何もできなかったように聞こえるな。」
「あ、そりゃ簡潔に話せばね。実際は細かな駆け引きとか技術はリリムを上回る所もあったし。まあそもそもの実力差が酷すぎるからどうしようもなかったけど。」
「私も久しぶりに全力で攻撃できていい憂さ晴らし・・・訓練ができました。あぁ、安心してください。全力と言っても死なない程度には加減もしたつもりです。さすがに死んでしまったら回復もできませんから。」
闘技場から上がってきたリリムがとてもいい表情をしながらそう言ってるが、ルルやシールによると殺すつもりがなかっただけで、一手間違えただけで十分即死する攻撃が放たれていたらしい。
「生きている・・・のか・・・私は・・・」
「俺は・・・何だ・・・何をしていた・・・」
いつのまにか復活していたノエル様と兄上が、錯乱状態になりながらも立ち上がっているのが見えた。そして、未だピクリとも動かない母上を担いで闘技場を後にした。
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