18.調査完了 グラへの評価
※以前執筆していた作品の33話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「グラっちー。この遺跡どうするの?封印しとく?」
神話の地図で色々な土地のことを調べてみたり、手に入れた魔道具の使い方などを確認していた中で思い出したかのようにシールが確認を取ってきた。
遺跡内の宝は回収していない物もまだまだあるようで、封印するより冒険者を呼び込んでしまったほうが利益は出る。だが、リュフカの近くであることを考えると、魔物があふれ出てしまっては対応しきれなくなりそうなので放置するわけにもいかない。
「魔物が外に出てくる心配が無ければいいんだけど、さすがに制御しきれないだろうしなぁ・・・。リュフカは他国の旅人も訪れる場所だから安全第一にしたいところだね。」
「出現する魔物はある程度操作はできるわ。だから獣系統の魔物だけにしてしまえば多少は制御もできるかもしれないわね。」
他にもいくつか方法はあるようだが、やはりどうしても無理が出てくるみたいだ。遺跡を封印しない前提で動くのであれば、リュフカの町に防壁を作り上げたり、冒険者を呼び込むほうがまだ現実的だ。
「どのみち入り口は解放できませんね。比較的頑丈な扉ではありましたが、魔物が外に出ないようにするには心もとないですし、閉め忘れる可能性もありますからね。」
「新しい扉を作ってしまおうかしら。指定の魔術式を流すことで自動開閉するような扉にしてしまえばいいと思うわ。」
結局いい案も出なかったのでルルが扉を作ることに決定したのだが、手持ちの鋼鉄を使い切ってしまうとのことだったので、後で報酬の一部としてあげることになった。
帰りは一旦罠を全て無効にした状態でリリムだけ外に出てもらい、首飾りに合図が届いたら遺跡の機能を復活させてから魔剣で転移して帰る予定となる。
「離れていても簡単な合図を送ることができるのは便利だね。」
おとぎ話の中には直接脳に音を届ける魔法なんかもあるし、実際使えないわけではないのだが、人体の神経に直接作用する魔法は非常に難易度が高い上に僅かな綻びが致命的な失策につながってしまうため、好き好んで使う人はいない。
その後、首飾りに合図が届いたためルルが制御室で遺跡の機能を復活させてから外に出て、扉を作り始める。
「形は両開きの扉して・・・ここにアガレスの紋章をかざすことで開くようにして・・・何か仰々しい模様でも描いておこうかしら。」
ルルが無駄にすごく拘って扉を作り始め、シールも一緒に不思議な模様を描いている。
「これは何の模様なんだ?」
「特に意味はない!なんかそれっぽい感じに見えるように描いてるだけだからね!」
「シール君はこの後どうするのかしら?私たちは一応依頼主に報告に行こうと思っているのだけど。」
遺跡の扉も無事作成することができ、リュフカの町で一泊した後、宿を出る前にルルがシールに尋ねた。
シールは確か天空都市で何かを研究していると言っていたし、自身が壊してしまった遺跡の封印も無事解決できたのでここでお別れになるのだろう。
「うーん・・・一緒に行っていいならついていこうかな。研究所に戻ったところでって感じだし。せっかくリリムに会えたから、一緒に行って頼れる男であるということを見せれば今度こそ・・・」
「私は姉様より強い方と結婚すると決めていますので。」
「一生独身でいるつもりなの!?いや、まさか・・・神様と結婚するつもりとか
・・・?」
・・・どうやらルルより強くなることを諦めているシールは今後も一緒に来てくれるようだ。とはいえ僕よりもはるかに能力の高いシールが一緒にいるというのは学び甲斐があるというものだ。
「ということで、これからもよろしくね。グラっち。聞きたいことがあったらどんどん聞いていいからね!気が向いたら何でも教えてあげるし。逆に僕もグラっちから沢山学ぶし。」
気が向いたらというのが若干気になるが、竜神の知見を得ることができるのはかなり珍しいことだしありがたいのだが、そういう打算的な関係よりもちゃんと友人として仲良くなりたい。
「よろしくなシール。・・・僕から学ぶことなんて何もないだろうけど、僕でも教えることができるような事があったらいつでも教えるよ。」
「・・・僕はアガレスのことは詳しく知らないけど、戦闘民族って訳じゃないんでしょ?戦闘面で自信が持てないのはしょうがないとして、そんな卑屈になるほどじゃないと思うけどなぁ・・・。」
とは言っても、王族としての力も弱く、一個人として見ても一般兵より少し強い程度で、家族と比べて何段階も劣る身では自信の持ちようがない。
適正のあった隠密系統の技能こそ多少はできると思うが、それでも家族が本気で学べばあっという間に僕よりも優秀になるだろうし、結果も出すことができるだろう。
「比較対象が悪いわね。エレナたちは世界的に見ても超上位の力を持っていると言っていいくらいだし。正直、こんな長閑な国が抱えている戦力じゃないわね。」
「しかもその二人を中心に教導が行われているのでしょう。アガレスの王宮騎士はみな非常に優秀であると感じました。ただ、脅威という意味では、私はグラさんに初めて会った時、かなり警戒していました。」
少なくとも戦闘になればリリムの方が強いのは間違いないと思うのだが、脅威に思うというのはどういうことなのだろうか。
「グラ、あなたは気配の消し方が異常に上手いのよ。普通はどれだけ隠そうとしても、魔力は少なからず漏れ出てしまうし、匂いや呼吸音、風の靡きや"何もないという状態"を感じ取らせたりとか、そういのがあるのだけれど、あなたはそれが一切ない。正直、十九年で身に付いていい技術じゃないわ。」
「僕も最初会った時、正直ルル姉一人でいると思ってたんだよね。それで近づいていったらグラっちがいたからちょっと観察してたんだけど、なんていうか・・・"凪"なんだよねグラっちは。」
母上のような一人で大群を殲滅する魔法使いにも、ノエル様のような神将とまで言われるほどの剣術も、父上のように王として人を導く政治力も、今までそれらを継承し称されていたのは全て兄上だった。
その事自体は紛れもなく兄上の努力の賜物であるので素直に尊敬できる。だが僕はずっとそんな兄上の劣化品として扱われてきたから、この年になってそんなに褒められても素直に受け止めることができない。
「まぁ、あんな人たちと比較されたら大変というのも理解できるわ。だから一つだけ覚えておきなさい。私も、リリムも、シール君も、あなたの実力を認めているし、適正があったとはいえ、たった十九年でその領域にたどり着いたあなたには敬意を示すわ。」
素直に受け止めることはできないが、だからといって無碍にしていいわけでもない。ルルたちに感謝の言葉を伝え、ともにリュフカの町を後にした。
「グラっちー。悲報だよー。ルル姉とリリムがいなくなった。」
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