16.封印されし玩具
※以前執筆していた作品の30話~31話途中までを一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「それじゃ、元気に行ってみよー!」
数時間の休憩の後すっかり元気になったシールを先頭にし、罠を見抜くために僕が二番目、最後尾にリリムが付いてルルが余計なことをしないよう見張りつつ後方警戒を担っている。
冒険者は基本的に前衛の盾役が一人、後衛補助が一人、後衛主火力が一人、そして幅広く立ち回る遊撃が一人の四人一組で行動することが多い。役回りを当てはめるなら僕が遊撃で、前衛がリリム、後衛火力がシールで補助がルルに当たるのだろう。
だが先の例もあり、ルルやリリムが罠に掛かった場合の対処が難しい場合が出てきそうなのと、僕が先頭だと盾にならないのでシールが先頭を歩いている。
そもそもこの三人は全員万能型なのでどの役割に当てはめたとしても問題にならない。シールは見た目こそ10歳くらいの子供だが、実際は僕の十倍以上生きている竜人なので戦闘能力は相当高い。
「矢とかの物理的な物は風で押し返したりできるし、炎とかもまあ何とかなるけど、石化の罠とかあったらさすがに防げないかもしれないからね。グラっち見落とさないでね。」
「見落としてほしくないなら、もう少し慎重に進んで欲しいんだけどな・・・。」
現在僕らの歩く速度は広々とした草原でも歩いているかのような速さで、とてもじゃないが罠だらけの遺跡を歩いているとは思えない。
実際先ほどからかなりの数の罠を発見しているのだが、三人が早い者勝ちとでも言わんばかりの速度で無効化したり破壊しているため、多少の緊張感こそ戻ってきたが相変わらずのほほんとした雰囲気で進んでいる。
「今の所シール君が4つ、姉様が9つ、私が16個潰してますね。」
「やっぱり反射神経ではリリムに遠く及ばないわね。シール君とはいい勝負だけど。」
「一応僕竜神なんだけど・・・その僕の得意魔法より発動が早いルル姉はやっぱり狂ってるね。」
罠を潰すのに使用しているのはシールが風、ルルが炎、リリムが光魔法を使っている。元々の反射神経の良さと光魔法の速度も相まって、リリムが一番罠を破壊している状況だった。
リリムも感知系の魔法を使えるので、もしかしたらその影響もあるかもしれない。僕が見落としてしまっても平気なようにしてくれているので、ルルもシールも特に文句を言ったりはしない。
シールも僕からしたら十分おかしな速度で魔法を放っているのだが、それ以上にルルが早すぎて負けることが多いようだ。ただ、風魔法の方が速度は上というのと位置関係的にシールが勝つこともあった。
道中は何度か分かれ道などもあったのだが、飛眼の魔法で道の先を確認して正しい道を選んで進んでいる。
普通なら宝のひとつでもあるのではないかと探しに行くところだが、ルルが言うには制御室に設計図があり、何がどこに置いてあるかなども大体記載されているとのことなので無視して進んでいる。
さらには制御室に行けば全ての罠を無効化したり、逆に復活させることもできるというのだから、古代遺跡を作った人の技術の高さが伺える。
「んで、ここが最深部かな?明らかに今までの部屋より広いし。こういうのって制御室前の広間に守護魔獣的なのがいるのがお約束だよね。」
シールが呑気にそんなことを言った途端、獰猛な咆哮と悲痛な叫びが混ざったような声が広間全体に広がった。そして天井の方からかなり大きな魔石が落ちてきて鈍い音を立てた。
「・・・やっぱりルル姉には情緒ってものが足りないよ・・・。なんで姿を現す前に倒しちゃうのさ!」
「なんでわざわざ出現を待たなきゃいけないのかしら?」
「姉様の意見もシール君の意見も分かりますが、どんな守護魔獣だったかも調査する必要があったのでは?」
確かに今後この遺跡を利用して一稼ぎするのであれば、最後の門番がどんな姿で、どんな攻撃をしてくるのかなどは調べておいたほうがよかったのだろう。だが、それすらわざわざ戦って調べる必要はないという。
「制御室に行けば守護魔獣も普通に出現する魔獣も情報があると思うわ。何なら書き換えてしまえばいいし。そのくらいのことはできるわ。」
つまり、分からなければ分かるものにすればいいとのことだ。古代遺跡程度なら簡単に制御を支配できるというルルの発言にも驚かなくなってきている。たった一月で随分と感覚が麻痺してしまったようだ。
「グラ、この広間には他に罠はあるかしら?なければさっさと制御室に向かいましょう。」
一通り周りを確認し、他にはいくつか爆発系の罠があるくらいだったのでリリムが全て破壊しつつ広間を通り抜けて大扉を開けると、そこには大部屋が一つあり目の前には壁に複雑な魔法式が隙間なく描かれている。さらにはその壁の前に赤い水晶が5つほど等間隔で並べられていた。
「この壁に表示されているのが遺跡の設計図を暗号化したもので、この赤い水晶が制御珠と呼ばれるものよ。これに魔力を流して無効化したり書き換えたりするのよ。」
「通常は設計者の登録がされているので、設計者以外はそういった操作はできないのですが・・・」
「まぁ・・・ルル姉だし。」
制御を支配するのには暫く時間がかかるとのことなので、僕たちは待っている間部屋に乱雑に置かれていた魔道具らしきものを物色し、手前の広間に集めて1つずつ確認してみることにした。
この遺跡の制御室には剣であったり首飾りであったり、いったい何を封印していたのか分からないほど色々な物が置かれていた。もしかしたらこういった物を纏めて封印していたのかもしれない。
「設計図で分かるのはあくまで遺跡内部のことだけですからね。そこに封印あsれている物に関しては説明がないことが殆どです。あぁ、でもこれは分かります。」
そういって先ほど見つけた首飾りを僕に着けてきて、リリムが持っていたボタンを押すと首飾りについていた青い宝石が赤く点滅し、ビービーと音を立て始めた。
「え・・・グラっち・・・それ、爆発しそうじゃない?」
「えぇっ!?シ、シールにあげるよ!」
シールの発言に驚き思わず首飾りを外してシールに投げ渡してしまった。ただの人間である僕より竜人族であるシールのほうがそういった耐性は高いのだから大丈夫だろうと思ったが、シールも慌ててリリムへ投げ渡していた。
「ふふっ。爆発なんてしませんよ。これは信号を送る魔道具と、その信号を受信する魔道具です。こちらのボタンにあらかじめ魔力を込めておくことで距離の設定ができるようです。そしてその設定した距離内に首飾りがあるとボタンが青に、範囲外にあるときは赤くなるようです。」
ボタンを押すことで魔力を消費し首飾りのほうへ信号を送ることもできるようで、その際はさっきみたいに音が鳴る仕組みのようだ。
例えば首飾りを誰かに着けておくことで呼び出しボタンのように使うこともできるし、子供に着けておくことで一定の範囲内にいることが分かるようにすることもできる。
とはいえ基本的にはただの玩具であるようで、これよりももっと便利な魔道具はいくつかあるらしい。
「他に使えるものは・・・ふむ。このペンは魔力がインクの代わりになるからインクが切れることが無い。便利なんだろうけど・・・微妙だなぁ。」
魔力を流すことで書き込まれたものを消すことができる黒板、洗濯せずとも清潔に保つことができる男性用らしき服など便利といえば便利なのだろうけど、何故封印されていたのか分からないものばかりだった。
「もしかしたらだけど、ここって封印っていうよりかは倉庫だったんじゃない?この眼鏡は・・・くしゅん!」
ほこりが舞ったのかシールがくしゃみをしているが、リリムは特に気にしておらず次々と魔道具を解析しようとしている。
そんなリリムに悪い笑みを浮かべながらシールが先ほどかけていた眼鏡を渡そうとしていた。
「ねーリリム。この眼鏡結構似合うと思うからかけてみてよ。」
「私は眼鏡をかけるほど視力は悪くありませんが・・・くちっ!」
やはりあの眼鏡は装着した時にくしゃみをする魔法が掛かっているようで、シールの悪戯に見事に引っかかってしまったリリムが恨めしそうな目で見ている。
「なるほど・・・シール君、あなたにはこちらの髪留めを差し上げます。どうぞ装着してください。」
凡そ仕返しされるとシールも予測できているのか恐る恐る髪留めを付けてみるが、シール目線では特に何も起きておらず不思議そうな顔をしている。
「くくっ・・・雨でも降ったのか・・・シール。」
「お似合いですよ。シール君」
どうやら髪留めは魔力を込めることで髪の毛を好きな色に変えることができるようで、リリムによって込められた魔力を用いて見事な虹色の髪をもったシールが未だ理解出来ておらずポカンとしている。
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