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15.一時の安らぎ

※以前執筆していた作品の28話~29話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「くそっ・・・せめて僕が治癒できるくらいまでルル姉に近づくことができれば・・・」


シールの悔しそうな呟きを横で聞きながらも、一瞬たりともルルから意識を外さないよう集中する。すでに生き残ることは殆ど諦めているのだが、それでも生きとし生ける者の本能なのか、目の前の絶望から逃れようと必死に頭を回転させる。


「シール・・・さっきの神速って、シール自身には付与できないのか?」


「できるよ。できるけど・・・僕の速度じゃすぐに撃ち落とされる・・・。」


リリムが自己強化魔法を掛けて、さらにシールの魔力をこれでもかと注いだ神速の祝福を受けてやっとルルに魔法展開速度に追いつける程度らしい。


「姉様はその気になれば雷を避けるくらいのことは楽にしてみせますから・・・。」


「もはや未来予知だな・・・。」


ルルと敵対するということがいかに愚かで、絶望的な状況を与えてくるかよくわかる。尤も、わかったところでそれを誰かに伝えることなどできないのだろう。


普段のお淑やかな、それでいて活力に溢れているかのように輝いていた目は相変わらず赤くなっており、近づく者を端から消し飛ばすとでも言いたげな強い殺気を放ち続けている。


ところが、壁際まで飛ばされたルルはそこから一歩も動かず、しかもこちらに攻撃をしてくる様子もない。これはどういうことだろうかと疑問に思ったが、同じく疑問に思ったのかリリムが何かを測るように少しずつ前進していき、広間の中央辺りまで進んだところでそのまま地面を蹴り後ろへ跳び戻ってきた。


そして、後ろへ跳んだとほぼ同時くらいに広間の中央に炎の柱が現れ、さらにはその炎柱を包むかのように氷の茨が巻き付き炎を凍らせていた。


もしリリムが後ろへ跳ぶのがあと一瞬でも遅れていれば、炎に焼かれた挙句そのまま氷漬けにされて身動きも取れなくなっていたかもしれない。


そんな様子を見て呆気にとられたが、なんとか意識を戻してリリムの無事を確認すると、彼女の口角がわずかに上がるのが見えた。


「二人ともその場を動かないようにしてください。どうやらこの広間の半径と同程度の長さが迎撃範囲として認定されているようです。」


ふと、母上から教わったことを思い出した。催眠系の魔法は解かれないように強く掛けようすればするほど、行動範囲や思考能力に制限が掛かってしまい、逆にあれこれさせようとすれば治癒されやすくなったり、掛かりが甘くて勝手に解けてしまうことがあるそうだ。


この広間はせいぜい王宮の一部屋分程度の広さだから、その半径分となるとかなり強い催眠なのだろう。だからこそ中央で罠に掛けることでほぼ確実に味方への攻撃を仕掛けるようになるのだろうが、幸いなことにリリムが反対側まで蹴とばしてくれたおかげで何とかなったのかもしれない。


「姉様があそこから一歩も動かないのは、あれだけ強い催眠に掛かってなお自我が残っているのかもしれません。」


「それなら、余計なことをせずにルル姉に任せて待ってるのが最善・・・かな?」


楽観視することはできないが、現状としてこちらから打つ手は何もないのでこのままルルが自己治癒するのを待つしかない。下手に近づいたり攻撃したりして動き出されたりしたら、僕もシールも生き残ることなど不可能だ。













そして、どれほどの時間が経っただろうか、赤く光っていたルルの目が突如元に戻ったかと思うと、膝から崩れ落ち地面に伏してしまった。


「あー・・・やっと治った・・・。まったく・・・とんでもない目にあったわ・・・。」


「そりゃこっちの台詞だよ・・・。」


力なく突っ込みを入れたシールが立ち上がったルルと入れ替わるように地面に倒れ、仰向けになるように転がって安堵の息を零した。


その後すぐにリリムがルルへと近づき異常が無いことを確認した後、ガスが噴き出した所へと近寄って行った。


「これが諸悪の根源ですね。この部屋の中央付近に人が立ったらそこへ向けて噴き出すようになっているようです。仕込まれている魔法は混乱と催眠。姉様が耐性を持っていない状態異常ですね・・・。」


「ついでに恐慌と混濁もおまけで付いているから、周囲の全てが敵に思えるようになっていたわ。」


毒や火傷、凍傷といった直接生命を傷つけるような状態異常には呪いの力も相まって完全耐性があるらしく、河豚の毒をどれだけ摂取しても問題なかったり、雪山で氷漬けにされたり火山で溶岩の中に落とされたりしても体に問題はないらしい。


だが睡眠や混乱、催眠といったものは強者に相応しい程度の耐性こそあるものの、油断していると効いてしまうらしく、実際今回その被害を嫌というほど味わった。


「たぶんここに来た人たちを内部分裂させるための罠なんでしょうね。治癒ができなかったら混乱している仲間を切るか切られるか、どちらかを迫られてしまうでしょうね。」


そう言ってルルはリリムが持っていた円筒状の魔道具を破壊し、傷だらけになっているシールへと回復魔法を掛けた後正座をし、そのルルの正面にリリムとシールが立っている。


「姉様。こういった場所では特に常在戦場を心掛けるようにと何度言ったらわかるのですか。私たちの中で、接触無しで治癒魔法が使えるのは姉様だけなのですから、私たちを盾にしてでも正常な状態を保つ必要性があるかと。」


「そーだよー!僕やリリムなら罠に掛かってもルル姉が何とかできるけど、ルル姉が敵になったら強すぎてしんどい!というか、死の予感しかしなかった。」


「あー・・・その・・・大変ご迷惑をお掛けいたしまして誠に申し訳なく・・・いや本当にごめんなさい・・・。」


しゅん、としながら俯いているルルは何というか、とても可愛らしく、普段あれだけ冷静で余裕たっぷりなルルと違い、庇護欲というか・・・変な感情を呼び起こしそうになる。


リリムも同じような感情を抱いているのか、途中から鼻を抑えつつ悶えそうなのを我慢しているかのような動きを見せているし、シールに至っては子供(?)が見せてはいけないような表情をしている。


「まあ、結果的に無事だったし二人ともその辺にしといてあげたら?」


「グラさんがそういうのであれば。」


「そだね。とりあえずどうする?僕としては一旦休憩したいんだけど。」


戦いと言えるのかすら怪しいがとりあえず戦闘が終了し、精神力も体力も根こそぎ持っていかれて疲労困憊状態であるため、安全のためにも一度休息を入れたほうがいいということになった。


「私が見張りとかやるから、三人ともゆっくり休んでね。あ、そうだ。軽く食事もとりましょう。」


そう言ってルルが結界を張ったり、入り口や出口であろう所に感知系の魔法を設置した後、収納魔法からポットを取り出して僕たちに紅茶を振る舞い、調理器具や食材を次々と取り出して料理を開始した。


台もなく魔法で空中に固定されているまな板の上にある野菜たちを、無人の包丁が素早く切っていく。こういった調理方法は実はそれほど珍しくもないらしく、冒険者の中に優秀な魔法使いがいればこういった調理要員としても需要があるらしい。


もっともここまで精密に魔力制御できるような人物がわざわざ自分で調理をするのかは不明だし、そもそも冒険者ではなく国仕えとかになることのほうが多いだろうけど。


「根菜は栄養もたっぷり詰まっているし、お肉も入っているから力も湧いてくる。野営にはぴったりの定番料理よね。」


そういって刻んだ野菜や肉を鍋に入れて火をかけて、牛乳や小麦粉とかも入れて煮込んでいる。どうやらシチューを作っているらしく、たしかに定番と言えば定番だが、少なくとも飲料として使用できる水を出すことができる人が必要なので難易度は存外高い。


冒険者や傭兵は戦闘能力はもちろん必要だが、食事をしっかりと用意できることも重要だとノエル様が言っていた。騎士も大部隊なら給仕係がついてくるので問題ないが、少人数の場合は同じくしっかりと食事の用意ができなければならない。


他の国はそこまでの教導をしていないだろうけど、アガレスでは騎士見習いや冒険者見習いが最初に習うことが食事の用意で、そのために必要な飲料水を出すために水魔法で清潔な水を出せるよう訓練させられ、同時に食用の野菜の見分け方や料理の方法なども教えている。


なので、アガレスに所属している殆どの騎士や冒険者、傭兵は水魔法を使うことができるのだが、不器用だったり面倒くさがりだったりで、魔道具で代用している人もいる。


水の竜神エリアスが過去に発明した魔道具のおかげで、世界中の殆どの人は水をある程度自由に使うことができるようになったのだが、あくまで家庭用の大きさなので持ち歩くことができるような小型の魔道具は貴重なままだ。


「ちなみに言っておくと、エリアスがそれを開発したのは陸でも自分好みの水に浸かるためで、それを見た商人が権利を買い取って商品化しただけなのよね。」


竜神様は人々の生活のために魔法を研究していると聞いていたのだが、それは何とも夢が壊れる話だ。


「結果として助けになってるんだからいいんだよ。僕も正直遊び心で研究してるだけだし。」


そういえばシールは風の竜神なのだから、何かしら研究を行って結果を出しているのだろうが、そのうち教えるとはぐらかされてしまった。


「さて、出来たわよ。私特性のシチュー。香草とかを入れるとまた違った味わいになるのだけど、今は持ってないから普通のシチューだけどね。」


そういって僕たち三人へそれぞれシチューを取り分けてくれた。同時進行で作っていたパンとの相性も良く、疲れた体に優しい味が染みわたっていくのを感じる。


「おいしい!ルルが料理できるのは少し意外だったけど、これなら毎日食べたいくらいだ。」


「作れる種類はそれほど多くないけど・・・ってグラ?それは愛の告白かしら?」


「結婚式には呼んでくださいね。お義兄さん。」


「結婚式には呼んでね!お義兄さん!」


うっかり変なことを言ってしまい揶揄われることになってしまったが、変に言い返してもまたおかしな話になるだけだし、ルルと結婚するとなったらそれはそれでうれしいので二人を無視してシチューを食べる。


その後、ルルの子守歌で三人とも眠りについて・・・膝枕をするというルルにやんわりと断りを入れて壁に寄りかかりながら眠りについた。リリムとシールは遠慮なくルルの腿を枕にして眠りについた。

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一言二言でも頂けるとありがたいので是非ともよろしくお願いいたします。


こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

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