14.最強の敵
※以前執筆していた作品の27話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「サトウキビから作られる異国の砂糖に比べて、花から作る砂糖柔らかな舌触りでしたが、上手く使わないと輪郭のぼやけたお菓子になってしまうようです。その点、リュフカのお菓子はどれも上品でかつ力強く・・・」
「母上、父上、兄上、ノエル様。先立つ不孝をお許しください・・・」
ちょっと!二人とも現実逃避してないで解決案だしてー!!」
ここはアガレス王国北東の遺跡。現在この中では現実逃避をする者と、生きることを諦めた者と、無謀にもこの状況を打破しようと挑む者がいた。
「それじゃ、遺跡の調査を始めるわよ。作戦通り私が戦闘を歩くから、グラは罠の感知、シール君とリリムは後方警戒をよろしくね。」
「わかった。」
「りょーかい!」
「承知いたしました。」
三者三葉の返事を返し、ルルを先頭にして遺跡の内部へと入っていく。シールがうっかり封印を壊してしまったということもあり、入り口は重い扉を開くだけで簡単に入ることができたのだが、すでに入り口に魔物が溜まっていた。
だがこの三人にかかれば多少強い程度の魔物などまったく問題にならず、ルルが爆炎で適当に吹き飛ばし、討ち漏らしをリリムとシールがそれぞれ光の矢と風の刃で倒していた。
「ふむふむ。範囲攻撃のルル姉に貫通攻撃のリリム、そして斬撃の僕と・・・グラっちは何がいい?体当たりでもしてみるとかどう?」
「斬撃はどちらかというとグラさんかと。」
「範囲攻撃は風魔法の十八番よねシール君。」
まあ正直全員どんな攻撃でもできるのだから、別に誰がどうとか関係ないような気もする。僕はそもそも戦闘力が高くないので三人とは別の理由で拘りがない。
「一対一なら隠密の・・・というか暗殺者の技能が発動するから多少は戦えるんだけど、多人数相手は普通に魔法で闘うくらいしかできないからなぁ。あ、下へ続く階段が向こうに見えるね。」
この遺跡は山中から下のほうへと続いていく遺跡のようで、最初の広場から奥に見える階段が下に続いているようだった。
「いやぁ、普通の冒険者なら魔物とか暗さとかもあって結構苦戦しそうだけど、僕達ならその辺問題ないし、罠とか先へ続く道はグラっちが見つけてくれるし、楽に攻略できそうだね。」
「油断禁物ですよシール君。グラさんがわざと罠の場所を教えずに、串刺しになるシール君を見ようとしている可能性もありますからね。」
すっかり気を抜いているシールをリリムが注意しているのだが、注意の内容が何かおかしい気がする。だがここで乗ってしまっては二人の思うつぼだと分っているので無視して先に進んでいく。後ろから文句が聞こえてくる気がするがそれも無視だ。
「それにしても、隠密系統の魔法は便利ね。この暗がりで明かりもないのに階段が見えるなんてね。私ももっと勉強しておけばよかったわ。グラ、今度教えてくれないかしら?」
隠密系統の魔法は主に三種類に分かれており、戦闘関連の暗殺術と、自身の姿などを隠したりする隠密行動用の魔法と、罠の感知や普通には見えないものを見抜いたり、聞こえない音を聞く感知系の魔法がある。
そして僕は幼いころからの教育によってこの三つはある程度使えるようになっている。といっても、魔力量も少なく、生まれつき筋力も成長し辛い体のようで正直最近まで自分は役立たずだと思っていた。
母上から仕事を任せられるようになって、時に密偵として、時に王子として事件を解決していくうちに多少の自信はついたものの、正直ルルに教えるような高水準の技能は何も持っていない。
「んー・・・謙虚なのは美点だけど、正しい評価ができていないのは良くないわね。私なんかどこに罠があるか全然わからないもの・・・あ・・・」
階段を降り切ってたどり着いた広間は壁沿いや地面にいくつか罠が設置されていたのだが、ルルの言葉を飲み込むために少し考え込んでしまったせいで伝えるのが遅れてしまった。
広場中央に設置されていた罠をキレイに踏み抜いたルルは、壁から噴き出したガスをモロに浴びてしまい少し項垂れているようだった。
「あらら、油断禁物だよルル姉。」
「シール君に言われるとは・・・姉様?どうしたのですか?」
ガスを浴びてからまったく動かなくなってしまったルルを不審に思いリリムが近づいていったのだが、肩に手を掛けようとした瞬間、突然リリムが吹っ飛ばされ僕とシールの間を抜けて壁に叩きつけられていた。
「ぐっ・・・こ、これ・・・は・・・あ、姉様・・・」
慌てて振り返ると、苦痛に顔を歪めながらも光に包まれたリリムが、その身に受けた傷を回復しながら警戒の体制を取っていた。
恐らく今の、リリムを包んだ光が呪いの回復能力なのだろう。どれほどの傷を受けたとしても瞬く間に回復してしまうその力は、圧倒的な力の差を持つ相手と敵対した場合、どれほど待っても死ぬことができない絶望を与えるものでもあるようだった。
「グラっち!危ない!」
シールの声が聞こえると同時に突風が吹きリリムと同じ方向へ飛ばされた。そして、一瞬前まで僕がいた場所は爆炎の火柱が立っており、まともに食らったら一瞬で蒸発したであろうことに気が付きゾっとした。
そして、広場中央で棒立ちしているルルへと目を向けると、その目は赤く光っており、自分たちがどうして立っていられるのか不思議なくらいの殺気を漂わせていた。
「これは・・・催眠と混乱の状態異常でしょうか・・・。今、姉様は催眠状態によって思考能力を著しく低下させられ、混乱状態によって周りの生命を全て刈り取るようになっているのだと思います。」
「それは・・・」
リリムが予測する内容を僕達に説明してくれたのだが、冷や汗が止まらない。現実を受け入れたくない恐怖で手足が震える。リリムが説明した状況を端的に言うのであれば・・・
「ルル姉が・・・敵になった・・・ってこと・・・?」
「えぇ・・・その通りです・・・シール君!?」
リリムがシールの言葉を肯定した瞬間、シールのいた一に炎弾が降り注いだ。シールの頭上僅か数十センチの距離から突然現れたそれらを間一髪といった感じで後ろに跳び避けたシールだったが、避けた先に今度は氷結の魔法が展開されており、多少は防ぐことができたものの下半身は氷漬けになってしまい、上半身も胸から上と右腕がんなとか動かせる程度になってしまっていた。
そして今度は、ルルの背後から大量の矢が展開されたかと思うと、それらが一斉に光を纏いこちらへ襲い掛かってきた。
「ぐぅっ・・・!くっそ!ルル姉反則すぎるだろ・・・!」
下半身を覆う氷を無理やり破壊し、横殴りの暴風雨のように降り注ぐ光の矢をシールとリリムが結界を張り何とか防ぎきることができた。だがその結界も僅か数秒の間に何十回と破壊され、その端から張り直す必要があったようで二人とも息を切らしてしまっている。
僕がこの場にいても足手まといになってしまうと思い、入ってきた所から上へ逃げようとしたのだが、罠が起動した時に一緒に入り口も封じられてしまったようで、逃げ出すこともできなくなっていた。
「このままではまずいですね・・・シール君!私に神速を!」
「わかった!風の祝福よ、彼の者に力を!神速の時を刻む疾風を与えよ!!!」
シールが詠唱をするとリリムの周りに風の刃が現れ包み込むように展開された。そしてその無数の風刃を纏ったリリムが、目にも止まらぬ速度でルルに向かって突撃していった。
速度はそのまま高威力の一撃となりルルを蹴り飛ばした。ルルの撃ち放った光の矢は風刃が切り裂きながら消しているのだが、それでも討ち漏らしが多く発生し、シールと僕を襲ってきた。
「ぐぅ・・・僕はともかくグラっちは掠るだけで致命傷どころか即死するから!絶対に動かないでね
!」
シールが僕の前に塞がるように立ち結界を展開したのだが、急所こそ守りきっているもののそれ以外は結界が破壊されてしまいシールがどんどん傷ついていく。
それでも元々はリリムを狙っているためか、先ほどに比べて飛んでくる矢はまだ少なくなっているので一人でなんとかなっているようだった。
だが光の矢が止んだかと思ったら、今度は矢よりも大きい何かが、横を掠めるように飛んできて壁に激突する音が聞こえた。
振り返ると最初よりも数倍強い勢いでリリムが吹き飛ばされており、口から血を吐き出し苦痛に顔を歪めていた。
そして、反対側の壁に激突したはずのルルが何事もなかったように、赤く光る眼をこちらに向けながら棒立ちしていた。
「これは・・・ダメ・・・ですね。何とか一撃入れることはできましたが、姉様の無詠唱魔法の展開が速すぎて、神速を得ても捌ききれません・・・。シール君、グラさん。希望の墓の形があれば私の意識があるうちにお願いします。」
「ちょっ!?リリム!?グラっち!?」
呪いの力で回復し口から吐き出された血を拭いながら敗北宣言をしたリリムを見て、間違いなくここで死ぬのだろうという悲しい確信を持ててしまった。
「僕は普通のお墓でいいかな・・・。骨が残るのか分からないけど・・・。」
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