12.風の竜神 シルフィード
※以前執筆していた作品の24話途中~25話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「そっかぁ・・・見失ったかぁ・・・。まあ、この町に人攫いはいないと思うから大丈夫でしょ・・・。」
どこかで聞いたことある言葉を聞きながら、どこかで言ったことのある言葉を口にする。だが、いなくなったのがリリムの方であることに少しばかり驚愕する。
ここリュフカの町は広大な砂糖畑を所有しており、町中は常に甘い香りが漂う甘味菓子の名産地である。そのため、国内だけではなく海外からも旅人や商人がよく訪れては甘味菓子を購入していってる。そして、無類の甘味好きであるリリムは少し目を離した隙に漂う香りに誘われてどこかへと行ってしまった。
「まあ、大丈夫よ。リリムは探知系の魔法も使えるから、私の居場所はある程度把握できるでしょうし、私もリリムの行きそうな場所はだいたい分かるわ。」
「そうか・・・なんというか・・・姉妹だね。」
王都にたどり着いた時はルルが同じようにいなくなっていたのを思い出し、改めて似た者姉妹なんだと感じる。
宿の手続きを済ませてから町中を観光がてら案内している最中、時折リリムが現れてはオススメのお菓子を渡してきて、それに舌鼓を打つことを繰り返し、ルルが気の向くままに進んでいくのについていったら町の外へと出てしまった。
「どうしたんだい?リリムが言っていた砂糖畑を見たいというのなら反対の方だけど・・・」
「ん?あぁ、何か懐かしい気配を感じたから・・・つい・・・ね。」
ルルがそう言った瞬間、どこからともなく風が舞い、目の前に小さな竜巻が現れたかと思うと、そこには不思議な雰囲気を醸し出す少年が、両手に綿菓子を持って立っていた。
「さすがはルルお義姉ちゃん!200年振りだね!いやぁとうとうお義姉ちゃんにも春が来ていたとはねぇ・・・。あ、はいこれ。僕一押しの綿菓子。」
目の前の少年はルルの知り合いのようで、僕達の関係性を勘違いしていそうなのは一旦無視するにしても、ルルはともかく、200年振りというこの少年はいったい何者なのだろうか。
「これ、砂糖の味そのままじゃない。それにお腹にもたまらないし・・・」
「もー、風情がないねぇ。」
綿菓子をもしゃもしゃと食べるルルはかわいらしいが、目つきと発言に可愛さがなかった。
「それよりシール君、リリムもこの町に来てるわよ。」
「もちろん知ってるよ。さっき会ってきたからね!」
出会い頭にお尻を触って胸を揉んできたと言う少年はルルに"エロガキ"と小突かれて笑っているが、それはつまりリリムが遅れを取るような相手ということなのだろうか・・・。
「あぁ、ごめんなさいねグラ。彼はシール君・・・風の竜神、シルフィードよ。かわいらしい見た目をしているけど、リリムのことが大好きなただのエロガキよ。」
「よろしくね!グラさん・・・?グラくん・・・?うーん・・・しっくりこないなぁ・・・。よろしく!グラっち!」
ずいぶんと距離感の狂っている呼び方をされたけど、それよりも何故竜神がここにいるのだろうか?巷では竜神とは伝説の存在なんて言われており、死ぬまでに一度お目にかかることがあれば幸運とまで言われている。
それなのにすでにアガレスで二人も出会っている。これは僕が幸運というよりは、ルルの周りに竜神が集まってると考えるほうがいいのかもしれない。
「ところで・・・シール君はなんでここにいるのかしら?あなた確か・・・」
「うん。天空都市で色々研究してたんだけどさ、寝てる時にうっかり空から落っこちちゃって。地面に当たる前に風魔法で勢いを相殺して無事だったんだけど・・・その時になんか封印的なものを壊しちゃったみたいで・・・てへ。」
その後、王都に報告に行こうと思い近くまで行ったところで魔物に襲われている少女を見かけ、封印が解けた遺跡から魔物が出てきたらまずいのでは?と思い急いでこの町に戻ってきたそうだ。
「あー・・・エリアスも寝相のせいで私に迷惑をかけてきたのだけど、シール君もなのね・・・!」
「いふぁいいふぁい!ほっへがほえう!」
ルルが風の竜神の頬を引っ張って文句を言っているが、言われている本人は抵抗こそしているが堪えているような感じもなく、楽しそうにしている。
「いたた・・・ところで、グラっちはルルお義姉ちゃんとはどういう関係でー?」
「あー・・・旅の仲間・・・かな?」
どういう関係かと聞かれ少し返答に困ってしまい曖昧な回答しかすることができなかった。なので、何となく一番しっくりくる関係を伝えたのだが、すぐにルルが僕のことを王子であることも含めてここに来た理由を説明してくれた。
「へー。王子様なんだ。しかも遺跡を封印しに来てくれたのはありがたいね!改めまして、僕はシルフィード。風の竜神なんて呼ばれることもあって、風魔法が得意なんだ。あと、リリムに結婚しようって言ってるんだけど、さっき5回目の失恋をしたところだよ。」
「シール君がリリムに振られるのはいつものことだからどうでもいいとして、あなたにお姉ちゃんって言われると何か・・・含みを感じるのよね。」
基本的にルルはお姉ちゃんと呼ばれるのが好きなのか、コロンにそう呼ばれた時やリリムに呼ばれた時に結構ニヤニヤした表情を浮かべている。だがどうも彼に呼ばれるのは何かが違うらしい。
「うーん・・・たしかにまだお義姉ちゃんにはなってないし・・・うーん・・・ルルっち・・・ルルさん・・・ルル姉!」
ビシッ!と指をさして満足そうにそう呼んでいる彼を見てルルはため息をつきながら"それでいい"とだけ答えた。
「それで、風の竜神殿・・・」
「シールでいいよグラっち。もちろん呼び捨てでね!堅苦しいのは苦手だし気楽に喋ってね。」
「そ、そうか・・・シール、僕たちは明日遺跡に行くのだけれど、よかったらシールも来るかい?」
「お?行く行くー!」
どうせなら戦力は多い方がいいし、一応シールの罪滅ぼしも兼ねて誘ってみたが、どうやら乗り気のようで一安心だ。
尤も遺跡攻略においてこの姉妹に足りないのは罠感知くらいだろうし、そこは僕がどうにかできる上にこの姉妹なら罠に掛かっても問題にならないとは思うけど・・・。
こうして、風の竜神シルフィードを仲間に加えて四人で向かうことになり、一度打ち合わせも兼ねて話し合うためにリリムを探しに向かう。
「私・・・死んだらここに墓を建てます・・・。」
「馬鹿なことを言ってないで、宿に行くわよ。」
辺り一面見渡す限りの畑で栽培されているのは砂糖の原材料となる植物で、この白い花の花弁を乾燥させて粉末状にしたものがアガレス名産の花砂糖だ。そして、終わりが見えないほど広がっている花畑からは優しく、甘い香りが漂っていた。
そんな畑の道に座り込んでいるリリムは、虚ろな目をしながら謎の宣言をして、ルルに叩かれている。もしかして僕が知らないだけでこの白い花や白い粉には人を狂わせる危険物質が含まれているのだろうか・・・。
「いや、あれはリリムがおかしいだけだよ。僕も甘いものは好きだけど、あんなことにはならないし。」
「・・・っは!姉様・・・。それにシール君にグラさんまでお揃いですね。お久しぶりです。」
久しぶりというが最後に甘味菓子を渡されてからまだ一時間くらいしか経っていないはずなのだが、一体リリムの中では何年くらいここにいたことになっているのだろう。
「この花でベッドを作成すれば最高のベッドが出来上がるのではないでしょうか・・・。いえ、ダメですね。こんな素晴らしい香りを漂わせているベッドでは、興奮して眠れなくなってしまいますね。」
「ほう?ベッドの上で興奮して眠れないリリムか・・・。なるほど。よし!次の研究内容は決まりだね!」
「・・・馬鹿なこと言ってないで、宿に行くわよ・・・。」
ルルがリリムを俵を担ぐように抱えて宿のほうへと歩いていく。リリムは特に抵抗はしなかったが、心なしか哀しそうな、名残惜しそうな表情をしていた。
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