11.アガレス王家との密談
※以前執筆していた作品の23話~24話中盤を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「結局、やるとしたら危険な武器とか情報とかは渡さないようにするしかないわね。」
翌朝目覚めてからも宿でリリムと相談したり、スフラの町まで飛んで行ってエリアスと相談してみたりしたものの、結局いい案は思いつかなかった。
「報酬の話を持ち出して断るにしても、相場がイマイチ分からないですし半端な要求だと支払いできてしまうでしょうね。」
アガレス王国に限らず世界中殆どの国で、傭兵団や冒険者は実力や実績に伴い階級分けされている。駆け出しの7級に始まり、実績を積んで6級、5級、魔物を安定して狩ることができるようになって4級となる。
3級にもなれば国の戦力としてみなされ報酬も上がり、2級、1級にもなればかなりの実力者であることが伺える。
私たちは傭兵所への登録こそ行っていないが、実力は1級冒険者すら遥かに凌駕するほどであり、依頼をするならばそれだけの報酬が必要となってくるのだが、肝心の1級冒険者の相場が分からないし、アガレスがどれだけの予算を私たちに割くことができるのかもわからない。
「仕方ないわね・・・。エレナかグラ辺りに正直に話して相談してみましょう。」
そう言って二人で王宮へと向かい、門番にエレナのところへと案内を依頼した。
「まぁ・・・確かにエレナの所へ案内してと言ったし、事実エレナはいたわね・・・。」
リリムから聞いた話だとエレナは離宮の方で過ごしているとのことだったので、離宮の方へ案内されるかと思っていたのだが、その予想と違い本宮のほうへと案内された。
さらには途中で第一王子のアルマに案内役が引き継がれて嫌な予感がしたので帰ろうとしたのだが、それより先に王宮内の一室に案内されてしまった。
そこにはエレナとグラもおり、さらにはノエルと・・・筋肉質で猛々しい男性が待ち構えていた。防音や盗聴阻害、防振の魔法まで掛けられているこの部屋は一体なんの部屋なのだろうか・・・。
「よくきたな。ここはグラッセオという輩が快楽と惰眠を貪るためだけに用意したというしょうもない部屋だが、音や振動などが外に漏れることがないのでな。秘密の会合にはうってつけの場所でもある。」
「ルル様たちが私たちに用があると伺いましたので、こちらの方へご案内させていただきました。」
本当はエレナかグラにだけ相談するつもりできたのだが、向こうは向こうで遺跡調査の話をしに来たと思っているのだろう。
「貴女らがエレナの師であるルル殿とリリム殿か。あぁ、そんな硬くならんでいい。儂の名はグラッセオ。この国ではちょいと立場が上ではあるんだが、夜は色々な意味で下になることが多いただのおっさんだ。」
豪快な笑いとともにくだらない話を始めて、両脇のエレナとノエルに脇腹を殴られているこの人物は、アガレス王国現国王グラッセオ本人であるという。
「陛下、ルルやリリムの前でいきなり下世話な話から始めるのはいかがなものかと思いますが?」
「というか、息子の前でも辞めてくれ。親の情事など聞かされても反応に困る。」
「お前たちも混ざるか?」
「年増はちょっと・・・」
今度はエレナの炎弾に加え、ノエルが身体強化の魔法を掛けて熊すら吹き飛ばすであろうほどの一撃を二人に入れて吹っ飛ばした。だがそれを食らったグラッセオは何事もなかったかのように椅子に座り直し、アルマもボロボロになりながらも椅子に座った。
「まぁ、そんな表情になるのも分かる。正直、僕もここから逃げ出したい。」
グラだけはまともなようで安心する。もしかして彼の性格はこの人たちを反面教師にした結果なのではないだろうか?
「グラさん・・・あなたは本当に王族なのでしょうか?この方々と同類だとは思えないのですが・・・。」
リリムの疑問はグラに対してだったのだが、誰よりも早く反応したのはグラッセオだった。
「間違いなく儂の子で、英雄王アガレスの血を引くものだ。王族の血を引くものしか解くことのできない結界が張られた書庫があってな。そこへ入ることができるというのが何よりもの証拠だ。そして儂はこの二人以外と夜をともにしたことはない!というか、この二人以上の女性などそうそういるものではないからな!」
「おかしいわね・・・私たちは遺跡調査の件に関して話をしに来たはずなのに、何故惚気話を聞かされているのかしら?」
「この人たちは外面はいいんだけど・・・家族だけで話すときは大抵こんな感じなんだ・・・」
「私たちは部外者なんだけど・・・?」
私もリリム子孫はおろか、異性とそういった関係になったことなど一度もないので、目の前の人物たちとは家族でもなんでもなく無関係な部外者であるはずなのだが、エレナの師であるならば家族も同然だという謎の理論を展開してきたグラッセオに対して、乾いた笑いを出すのが精一杯だった。
「姉様、ここはさっさと話をして逃げ出・・・帰るべきかと。」
こっそりと耳打ちしてくるリリムの意見に同意し、要件を話し始める。下手に誤魔化しても見抜かれそうだし、なによりこの人たちと余計な揉め事はしたくないので正直に心中を伝えたのだが、対する返事は想定と異なっていた。
「はっはっはっ!そんなことで悩んでいたのか!」
「すまない。私の説明不足だったな。遺跡が見つかった山の近くにはリュフカという町があるんだ。そこは我が国随一の観光名所でもあって、武装していない旅人や商人なんかも多く訪れる。そんな町に遺跡から漏れ出した魔物が襲ってきたらまずいと思って調査依頼を出したんだ。」
「我が国で遺跡が見つかるのは初めてのことで、遺跡調査の知見が圧倒的に不足している状態なのです。少数戦力で調査に行くとしても母上かエレナ殿のどちらかは必要となるのですが、それぞれの事情があって身動きが取れないというのが現状です。」
「遺跡から発掘された物や、遺跡そのものをどうするのかに関しては、ルル様の判断の下ご自由になさってください。私たちはそれを咎めるつもりなど一切ありません。」
どうやらアガレス王国として遺跡をどうにかしたいというのではなく、単に安全平穏のために調査してほしいだけだったようだ。
自分たちの不安が杞憂で済んでよかったと思いつつ、そんなことでいいのかと若干の不安も残る。だが、それを言ったところで意味などないだろうし、なにより早く話を切り上げてこの部屋から脱出したかった。
「貴女らの憂いもなくなったようでなによりだ。ノエル、手配を頼んだ。」
「二人には急で申し訳ないのだが明日の朝、東門の方へ集合して欲しい。案内の騎士と馬車を用意しておく。それから、依頼中の経費に関してもある程度はこちらで持つようにする。」
王都からリュフカの町までは道もしっかりと舗装されているため、馬車行っても2日もあれば着くそうだ。直接山へ登っていく方法もあるが、リュフカの方角から行ったほうが傾斜も穏やかで進みやすく、何より道順が分かっているので案内しやすいらしい。
「かしこまりました。それでは私たちはここで失礼いたします。」
そういって4人に引き留められる前に足早に王宮を後にした。
「おはよう。わざわざこんなものまで用意されてしまってね・・・。しばらくの間、またお世話になるよ。」
翌朝、約束の時間より少し早めに東門へと到着し、案内役の騎士を待っていようとしたのだが、そこには既に馬車が用意されており、それに寄りかかるようにして待っていたグラが声を掛けてきた。
苦笑いしつつ手に持っている紙を見せてくるグラからその紙を受け取って見ると、そこには案内役としてグラを任命し、遺跡の調査報告などもグラに一任して構わないといった内容が記載されていた。文末には国王直々の命令であると記載されており、国の公文書であることを表す印が押されていた。
「まぁ、知らない人と旅をするよりかは気楽でいいわ。よろしくね。」
「よろしくお願いいたします。」
そういって三人は馬車に乗り込みリュフカの町を目指す旅に出ることになった。用意された馬車の御者台には誰も乗っておらずどうするのかと聞いてみたら、この馬車自体が魔道具となっており馬にも勝手に指示を出してくれるそうで、御者は別にいらないらしい。
それでも何かあったときに対応するために御者台にはグラが乗るようなので、私たちは馬車の中に乗り込んだ。
道中は特に大きな問題もなく、野宿の際にベッドを収納魔法から取り出したらグラが少し驚いてたくらいで、魔物や盗賊に襲われることもなく無事にリュフカの町に辿り着くことができた。
「グラ、悲報よ。リリムを見失ったわ。」
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