表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/101

10.夜間の訪問者

※以前執筆していた作品の21話~22話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「夜分に訪ねてしまい申し訳ない。まずは、今回のスフラの件に関して、ご助力感謝する。」


スフラの事件後、王都へと戻り数日がたった。王都は思っていた以上に広く、魅力的な店が多かったので暫く観光がてら滞在していたのだが、そんなある日の夜、翌日に巡る店をリリムと検討していた時に部屋の扉を叩く音がした。


「お客様、夜分に失礼いたします。ご面会をご希望の方がいらっしゃっておりまして・・・その・・・」


言い淀む宿の店員にどうしたのかと尋ねれば、面会に来たのはアガレス王国王妃とその息子だという。とりあえず荷物を全てしまい、窓を開けておいていつでも逃げ出せるように準備してから二人を招き入れた。


「私はノエル・コートフール・アガレス。こちらは息子で、アガレス王国第一王子のアルマだ。用事がないのが今日この時間しかなくてな。すまないが訪ねさせてもらった。」


「ご丁寧にありがとうございます。私はルル、こちらは妹のリリムと言います。このような姿で王妃様へ謁見する無礼をお許しくださいませ。」


寝間着姿で王妃に会うなど本来ならば問題だろうが、ノエルは特に気にしている様子もなく、アルマも視線を逸らしているが不快に思っている節はなさそうだった。


二人はスフラを襲った事件の顛末はエレナとグラから聞いているとのことで、私たちがどういう存在であるかもその時に聞いているそうだ。


「私は世間話というのがどうにも苦手でな。単刀直入に要件を伝えさせていただきたい。貴女らに伺いたいことが二つ。そして、依頼したいことが一つある。」


まずはエレナの能力に関して。記憶の転写という能力自体は聞いているが、どういう条件で、どれだけの転写を行えるのかという疑問。そして二つ目はエリアスに関して。どれだけの時間スフラに滞在し、どこまで協力してくれるのか測りかねているとのことだ。


ノエルはエレナから聞いた話によると元王宮騎士にして現在は宰相でもあるという。王妃が宰相も兼任しているというのは聞いたことがないが、政治的な方面に強い者の人材不足と国王の補佐が務まる人材も不足しているから仕方がないと苦笑いしていた。


そして、そんな国を担う人物だからこそ、国防に関する情報はしっかりと入手しておきたいのだろう。


「エレナの能力に関しては、彼女の右手で肌に直接触れた相手の記憶を転写します。転写する量に関しては推測になりますが、心臓に近い場所ほど多く、また、長い時間触れていることでも増えていくでしょう。」


能力に目覚めて私に触れた時は首元に4,5秒ほどではあったけど、それでも何百年分もの記憶を転写することができるのだから、普通の人間に対しては触れた瞬間に殆どの記憶を転写できるだろう。


ちなみに彼女の実力に関しては私の記憶から最適な鍛錬方法を見出しているのだろう。とはいえそこから先は本人の努力の結果ではあるので、多少のズルはあったとしても元々強くなる資質は持ち合わせていた。


私は詳しくは知らないが、以前リリムがエレナの鍛錬方法を見た時は、まるで私を見ているかのようだったと評価しており、あと100年もしないうちに今のリリムより強くなるだろうと予測していた。


「なるほど。類まれなる才を持った者が、膨大な知識を得て、狂ったように鍛え続けていたのであればあれほどの力を持っているのも納得・・・か。」


アルマが苦虫を潰したような顔をして呟く。それは目標としていた人物がどれほどの高みにいるのかを改めて突き付けられたことによる悔しさからだろうか。


アルマの声は初めて聞いたが、見た目も超えも爽やかな印象を受けるグラに対して、猛々しさを感じる見た目と声をしている。親子そろって鋭い目つきをしているのも似ている。


エレナとグラも雰囲気というか、どこか飄々としている風であるのも似ていたし、親子は似るものなんだなと改めて認識させられる。


「それと、竜神・・・エリアスに関してですが、正直、どれほどの期間滞在するのかまでは測りかねます。」


過去にも何度か会って話をしたりしたことはあるけれど、普段どこにいてどういう生活をしているのかまではよく分かっていない。


それでも、基本的に面倒くさがりな彼女は数十年、あるいはもっと長い期間はだらだらとスフラに滞在してくれるだろう。隣国と緊張状態にあるアガレスにとっては、防衛戦力としてなら計算にいれていい程度には力も貸してくれる気はする。


彼女が竜神となったきっかけは、世界中に水関連の魔道具を広めたからだ。飲料水や洗濯、お風呂に入るための清潔な水が出る様々な魔道具を開発したおかげで、それなりの町村なら誰でも清潔な水を使うことができる。


だがそれは決して人々のために行ったことではなく、陸地でもきれいな水の中で寝ていたいという彼女の欲望を満たすために開発し、それを当時の商人などが利権を買って世界に魔道具として広めたにすぎず、根本的に彼女は怠惰な性格をしている。


「エリアスは水魔法の他にも回復魔法や防御魔法を得意としています。彼女に知識を乞い、それらの技術を発展させておくのが最も効率的だと思いますし、そのくらいなら彼女もやってくれるかと思います。」


寝込みを襲われて傷ついても平気なように回復魔法を。そもそも襲われないために防御魔法を磨き上げた怠惰の竜神は、実は私たちの先生でもある。


私の回復魔法に関する知識は彼女からの恩恵であるところが多く、本当に魔法関連"だけ"はすごく尊敬できる。魔法関連だけは・・・ね。


「なるほど。我が国の魔法技術は世界に誇るものがあるが、研究し発展させているのは殆どエレナ一人だったからな。新たな教導者が必要だと思っていたので是非とも協力してもらいたいものだ。」


エレナは説明が下手というわけではなく、むしろ教育者としてもかなり優秀なほうなのだが、一方でその優秀さについていくのに必死になりすぎて、研究者は増えても新たな教育者・教導者が生まれていないそうだ。


その後も火がついてしまったのか主にエレナ関係の愚痴を話し始めるノエルに対して同情しつつも、依頼というのが気になるのでアルマに目配せをしてノエルを止めてもらった。


「すまない。つい・・・な。最後に依頼に関してだが、アガレス王国北東の山中に遺跡が発見されてな。その調査を依頼したい。」




「北東の山に遺跡・・・ねぇ。」


ノエルが帰ってから幾分も経ってないが、もうすぐ日を跨ぐ時刻になりそうな中、ベッドに寝ころびながらノエルからの依頼を繰り返す。


最近になってアガレス北東の山に遺跡の入り口が新たに発見されたが、隣国とにらみ合っている中では満足に調査騎士団も派兵することができず、遺跡の調査が進んでいないので私たちに依頼したいとのことだ。


冒険者や傭兵団なんかにも依頼したいのだが、ある程度情報が揃っている遺跡の攻略はともかく、何も知らない状態で下手をうってしまったら大変なことになりかねない。


幸いにも扉が堅く閉ざされており、中から魔物があふれ出てくるといった事態にはなっていないため周囲警戒のみ依頼して中には入らないようにしているらしい。


「遺跡の調査自体は何度か請け負ったこともあるしいいのだけど・・・発掘された武器や道具の買取で揉めることばかりだから、国からの依頼としては受けたくないのよね・・・。」


「浅い場所で見つかるものならばいいのですが、深層や制御室に保管されているような類のものだと、色々とありますからね・・・。」


古代遺跡と呼ばれる所はたいていがその遺跡を管理する制御室があり、そこへ辿り着くまでに数多の罠が仕掛けられている。


そして、制御室には現代技術では再現不可能な貴重な宝が隠されていたり、その遺跡の設計図のようなものが隠されていることも多い。


設計図は手に入れるだけでその遺跡の罠を殆ど把握することができる。当然罠の解除も容易になるし、遺跡内の魔力濃度すら制御できる。そうなれば魔物も狩り放題にすることもできるので、素材の供給量が跳ね上がり、様々な恩恵と揉め事をもたらす結果となる。


国からの要請で調査をしてしまえば、当然その利益を享受する権利は国が保有することになり、突然一国が豊かになれば他国との争いの原因にもなり得る。過去には遺跡周辺を丸ごと破壊して戦争になったこともあるくらいだ。


踏破された3つの遺跡も、1つは所有権を求めて争いが続き、1つは国に莫大な利益を与えたが小国であったため、周辺の国との争いが起きてしまったり、1つはまともな利益を上げる前に周辺事爆破されてしまった。


さすがにこの依頼に関してはすぐに返事もできなかったため、一度保留にしてもらい夜の会合はお開きとなった。


グラやエレナには多少の好感を覚えているし、会ったばかりではあるがノエルやアルマもそれなりに信頼できそうな気はするが、国や世界の情勢に関わるような案件を簡単に引き受けるわけにはいかない。自分たちの力が与える影響を鑑みれば、このままこっそりと国を出るのが賢明かもしれない。


「とはいっても、古代遺跡を放置したら何が起きるか分からないし・・・。恐ろしい魔物が遺跡から飛び出してくることもあるし、調査しないにしても一度訪れて封印の処置くらいはする必要がありそうね。」


「私は姉様の考えに従いますが、可能であれば遺跡へ訪れるようになることを願っています。」


「リリム?」


リリムがそこまで遺跡に行きたいというのなら、行くだけ行ってみるのもいいかもしれない。ただ、無許可で訪れるのは下手したら盗掘の犯罪者として手配されかねないし、かといって許可を得るということは調査依頼を受けるということになるし・・・


結局、丁度いい落としどころを見つけることもできず、そのまま眠りについた。

いいねやレビュー・感想など頂けると非常に励みになります。


一言二言でも頂けるとありがたいので是非ともよろしくお願いいたします。


こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ