99.捕まる竜神
※以前執筆していた作品の114話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「荷物を届けろって言われてもなぁ・・・普通に考えてこんなもの届けてって頼めるくらい信頼できる人なんていないじゃん?」
ルル姉から宗主国プルソンの聖皇宛の荷物を預かり、とりあえずスフラの町まで戻ってきてみたものの、こんな危険な代物をそこらの商人やらに託すことなどできるはずもなく、どうすればいいかを相談しにきた。
「どうすれば・・・って言われても、自分で行けばいいじゃないとしか言えないわよ?」
エリアスが海の中を駆け抜けて届けてくれないかなーって若干期待していたのだけれど、やっぱり冷たい返事しか返ってこなかった。
「うへぇ・・・僕、お偉いさんと話すの苦手なんだけどなぁ・・・。」
「私も人のこと言えないけど・・・頑張りなさいな。」
交渉人としてコロンちゃんを借りていってもいいか聞いてみたけど、これまたダメだと強くいわれてしまったので、観念して自分で行くことにした。
プルソンまでは空の上を全力で駆け抜けて1日掛かるかどうかくらいの距離なので行けないことはないけど・・・
「ま、頑張るしかないか。」
とりあえず竜の姿になり全速力でプルソンを目指す。ちょっとだけスフラの街中が騒がしくなった気がするけど気にしないでおこう。
「・・・だから、手紙を届けに来ただけだって言ってるじゃん!お城の中に着陸しちゃったのは悪かったと思ってるけど、牢屋に入れることないじゃん!」
宗主国プルソンの上空へと到着し、そこから見下ろしてみたらまっすぐ下に広場があったので、丁度いいと思ってそこに降り立ったのだけど、まさか聖皇のいるお城の庭だとは思ってもみなかった。
即座に衛兵に捕らえられてしまい言い訳する暇もなく牢屋に入れられてしまっては、さすがにちょっと思うところもある。手紙を届けに来たといっても肝心の手紙は収納魔法の中にしまってあるため、魔法が使えないようにしてあるこの牢屋の中では取り出すことが出来ない。
「ちくしょー!出せー!明日までに出さなかったら変身して暴れてやるからなー!こんちくしょー!」
1日休めばまた竜の姿に変身することができるので、この牢屋を破ることは出来なくもないと思うけど、本当にそんなことをしてしまえば国際的な大犯罪者に認定されてしまうので最後の手段にしておく。
「くそっ・・・本当に誰もいないのか・・・。見張りの兵くらいいてもおかしくないだろ・・・。」
さっきからどれだけ叫んでも誰かの反応が返ってくることもなく、静寂な牢屋の中に声が虚しく響くだけだった。
「おーい・・・おなかへったよー・・・せめてご飯くらい頂戴よー・・・。」
あれからどれくらいの時間が経ったのか、外が見えない牢屋の中じゃ正確にはわからないけど、変身できるだけの魔力が体内に貯まってきているのを感じる。多分だけど一日近く放置されてしまっている。
さすがにここまで何もないのはちょっとおかしいと思って再び声を出してみたものの、返答は無く自分の声が響くだけだった。
「・・・いや、誰か来た・・・?この匂いは・・・」
足音は一切していないのだが、かすかに薔薇の香りのような匂いが漂ってきている。宗主国プルソンは確か薔薇の名産地でもあるため、街中で香る分には何も違和感がないのだけど、鉄格子と鉄壁に囲まれたこの空間で漂ってくるのはおかしな話だと思う。
「・・・ふむ。あなたが大切な手紙を届けにきたという方ですか。いやはや申し訳ない。私も少々忙しい身なもので、こちらへ赴くのが遅くなってしまいました。」
やわらかな口調で話しかけてきたこのおじいさんから薔薇の香りがするので、恐らく今しがた入ってきた人なのだとは分かる。薔薇園の庭師か何かだろうか?
「どちら様でー・・・?空腹とイラつきで暴れだしそうなんだけど・・・。」
「あぁ、これは失礼。私の名前はホルン。ここに住んでいるただのじいさんですよ。」
ホルン・・・どっかで聞いた事あるような・・・ホルン・・・ホル・・・ン!?
「せ、聖皇様!?」
「おや、私の名前をご存知とは。どうやら本当にルルたちの使いのようですね。」
聖皇様の名前を知っているだけでそんな所まで分かるはずがないと思ったけど、どうやら僕の疑問は見透かされていたようで質問を口に出す前に聖皇様の方から説明してくれた。
「私をホルンと言う名前で呼ぶ者はもうこの世に二人だけしかいませんからね。遥か昔、聖皇の座に着いたときから私の名前はプルソンに変わりましたから。」
歴代の聖皇様は代々着任と同時にプルソン何世という名を冠するようになるらしく、昔の本名であるホルンという名前はどこの書にも残っていないそうだ。
と言っても、現状この人が本物かどうかの判断は僕にはつかない。なんとなく信じてもいいかなって気もするし、そのやさしい笑顔には裏があるような気もする・・・。
「とりあえずここから出ましょうか。このような息苦しい所では話も盛り上がらない。さ、私についてきてください。」
そういって牢屋の鍵を開けてくれたのだが、手錠の鍵はどれなのかわからなかったらしく持って来ていないとのことだったので、背中に両手を回したままの状態でついていくことになった。
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