9.竜神救出作戦
※以前執筆していた作品の19話~20話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「と、とりあえず状況を説明するわね!」
ルルが説教しようと口を開く前に、エリアスが無理やり話しを逸らすために現状説明をする。どこかの深海で熟睡していた彼女は、海流に流されここにたどり着いた。そして、気が付いた時には何者かによって封魔の儀式が行われており、この海の底に封じ込められてしまった。
だが、それでもエリアスは竜神なので完全に封印されることはなく、中途半端な封印となってしまった結果竜神の持つ魔力が海上や海沿いに漏れてしまったらしい。
それだけならば魔力濃度が高い地域という程度で済むのだが、その大量でかつ高純度の魔力を使い何者かが召喚術を使用して現状に至るとのことだ。
彼女は自身に残った魔力を用いて町人に天啓を与え、洞窟に集めた後に結界を張った。だが、コロンを含め数名が取り残される事態となってしまい、その者たちは救援を求めて王都に向かった。最初に情報を渡したのはその時王都にたどり着いた町人だったのだろう。
コロンは途中まで一緒に逃げていたのだが、王都にたどり着く寸前で魔物に襲われてしまい大人たちと逸れてしまったが、突然吹き荒れた突風によって事なきを得たらしい。
「この封印さえ解くことができれば、後は私がどうにかするわ。だからあなたたちには、この封印をどうにかしてほしいの。」
「封印を解く方法はすでに判明しているのですか?」
リリムの質問に対してエリアスは"もちろん"と自信満々に答えたのだが、その方法はあまりにも無謀というか、無茶な要求だった。
「この海のどこかに封魔の術式が込められた魔道具が7つあるの。それを壊すことができれば私の封印は解かれるわ!」
「そう・・・この・・・海原に・・・7つ・・・。」
魔道具とは、あらかじめ魔法の術式が込められた道具のことで、それ以外の魔法が使えない代わりに少量の魔力で起動することができるうえ、設置された魔石や、大気中の魔力などを吸収し持続させてくれる便利な道具のことだ。
当然この海にも魔力は溢れているし、今は竜神の魔力も漏れているため封魔の術が魔力切れで自然に消えることはほぼないだろう。つまり、水面に浮いているのか海底に沈んでいるのか、大きさも形も分からない物を7つ探し出して破壊しなければならないようだ。
コロンですら自体の深刻さを理解し全員が頭を抱える中、エリアスは"3つ壊すことができれば、あとは力づくでどうにかなるから!"と叫んでいた。
「エリアス、あなたの本体の座標を出せるかしら?」
どうにも解決方法が見つからず、とりあえず感知の魔法で探してみたり、ルルとリリムが海上を飛び回ってみたりしたものの1つとして見つかることはなかったのだが、ルルが別の解決策を思いついたのかエリアスに尋ねていた。
「え?えぇ・・・できるけど・・・何で?」
疑問に思いつつもエリアスがルルへ居場所を伝えると、次の瞬間には海上に真っ赤に染まった巨大な矢が出現し、それが海の中へ向けて轟音と共に発射され沈んでいった。
「痛ったあああああああああああ!?ちょ、ちょっとルル!何してるの!?当たった!!私に当たった!今の!」
青い光が突然強く発光したかと思えば、今にも消えそうなくらい弱い光になってルルに文句を叫んでいる。
「いや、もうめんどくさいから・・・直接封魔の壁を壊そうと思って。ほら、1個壊れたでしょ?」
「封印が壊れる前に私が死ぬ!死んじゃう!」
「まぁ、死なないように努力はするわ。」
「やめて!!嫌あああああああああああ!!!」
騒ぐエリアスを無視しながら2本目、3本目と矢を放っていくルルをみて、コロンはもちろん、さすがの母上も哀れみの眼をしている。
「はい。これで3つ目。ほら、3個壊したのだから後は自分でどうにかできるんでしょ?どうにかしないならあなたごと残り全部壊すわよ?」
「ぐぅ・・・お、覚えてなさいよ・・・!この恩と恨みは絶対忘れないわよ!」
そういって青い光が突如として消え、同時に洞窟に張ってあった結界も消滅した。一瞬、エリアスが死んでしまったのではないかとも思ったが、目の前の海に突如として大渦が現れるのを見て、どうやら封印を解いて本来の姿で海上に出てこようとしているのだと理解した。
そして、実際に現れたのだが・・・なんというか、矢が3本突き刺さっているし、円環状の魔法陣、おそらく封魔の術であろうものが首元や胴体に残っているし、浜辺に打ち上げられた魚のように倒れたまま動かないのを見るととてもじゃないが大丈夫そうには見えなかった。
「な、何とか・・・体を・・・持ってこれたわ・・・ぐへぇ・・・。」
「りゅーじんさま死んじゃった・・・?」
「残念ながらそのようです。」
「そうね・・・海竜のかば焼きっておいしいのかしら?」
「生きてるもん・・・生きてるもん・・・」
エリアスが必死に声を絞り出して反論するが、正直この惨状を見て生きていると言われても信じられない。
目の前に現れたエリアスの本体は、見えている部分だけで6メートルほどはあるだろうか。そして、まだ体の半分くらいは海の中にあるらしく、全長は10メートルを超えるらしい。
全ての生物に対して、大きさが強さと比例しているとは一概には言えないが、海竜族の強さはある程度大きさで測ることができるらしい。それでも普通は5メートルから6メートルくらいらしく、その倍くらいの大きさを持つエリアスは竜神にふさわしいだけの強さも持っているようだ。
「と、とりあえず生きているのなら助けませんか?えっと、この封印の術式は・・・。」
そういってエリアスへと近づいていった母上が、1つずつ確認しながら封印を解除していく。通常、罠などの解除や無効化は感知系の技能のひとつであり、僕の得意分野でもあるのだが、こういった封印の解除に関しては魔法に対する理解力や制御力の高い母上のほうが専門だ。
「ところで母上。助けるなら矢のほうをどうにかするのが先では?」
「え?あ、あらやだわ。も、もちろん回復もしようと思っていたのよ?ま、まあそっちはちょっとくらい後回しにしても平気じゃないかしら?」
そういって再び封印の魔法陣の確認作業に戻る母上を見て、エリアスが何かいいたげな表情をしている。本当に平気なのかエリアスに聞いてみたら、"何故生きているのか自分でもわからない"と返されてしまった。
辛うじて急所を外れているらしく、ルルは一応ちゃんと計算して矢を放ったそうなのだが、ルルもまた封印のほうが気になるらしく、エリアスの回復を後回しにしていた。
「封印を破壊するには物理的な質量が必要だったので仕方ないことです。とはいえ、さすがに可哀そうなので私がどうにかしましょう。」
そう言って矢じりの部分をリリムが切り落として矢を引っこ抜いた。海沿いのあたり一面が真っ赤にそまってしまいコロンが軽く悲鳴を上げているが、ちょうどよく封印を全て解除したルルと母上が回復魔法を掛けて、何とか一名は取り留めたようだ。
「あー・・・ありがとうね・・・。それに、ご迷惑をおかけしました。この町も大変なことになっちゃって・・・。」
確かにエリアスの言う通り町は壊滅的になっているが、町人は無事だったし王都から職人や魔法使いを派遣すれば割とすぐに復旧できるだろう。
それより問題はこの魔力濃度のほうだ。エリアスの封印は解けたのでこれ以上竜神の魔力が垂れ流しになることはないが、それでもかなりの魔力濃度となってしまっている。
魔物は魔力濃度の高い場所を好むうえ、ここまで濃度が高いと魔物自体がここから生まれてしまう可能性もある。
「エリアス。どうせその体じゃ満足に動けるようになるまで暫くかかるでしょ?この町に残って防人の真似事でもしながら療養しなさいな。」
「そうね・・・そうするわ・・・。罪滅ぼしも兼ねて、暫く町に滞在するわ。」
こうしてスフラを襲った事件は幕を閉じた。町中はかなり荒れていたのだが、瓦礫などは魔法でどかし、建物などは王都や他の町からも職人を呼んでどんどん復旧していってる。
そして、エリアスは人の姿をとり、周辺に残った魔物を処理しながらスフラで暮らしているらしい。その際、人の姿としてコロンに似た容姿をとっており、ぱっと見た感じだと姉妹のように見える。
だが、普段の生活のだらしなさを見ているとコロンのほうがよっぽど姉のように見えるらしく、町人はそんな二人をほほえましく見ながら過ごしているそうだ。
「以上が事の顛末となります。アガレス王国としては、南の拠点に水の竜神の加護を得ることができ、亡くなった者もいないためかなりの成果をあげることができたと言えるかと思います。」
「そうか、報告ご苦労。下がってよいぞ、グラ。」
「はっ。失礼いたします。国王陛下。」
場所は戻って王宮、だが母上のいる離宮ではなく本宮の中、謁見の間にてアガレス王国の国王、グラッセオ陛下に事件の報告を行った。
組織において、上の判断を待たずに独断で行動する者は忌み嫌われやすい。特にその立場が微妙な者であるほど。
結果が伴ったから良しというわけではなく、母上や僕の勝手な行動に対して難色を示すものも多く・・・いなかった。
多少の苦言はあったものの、基本的に国王を筆頭に大雑把な性格をしている人が多く、謁見の間で共に話を聞いていた人たちの大半は"まあいいか"の精神で、今回の顛末を最小限の被害と特大戦力の増強になったと喜んでいた。
だがそれでも、怒りを露わにする者もいた。謁見の間から出て暫くしてから、廊下を歩いている僕の首根っこを捕まえて連れ去る女性が一人。反対の手には同じように母上が捕まっており、その後ろから同じく怒っているであろう表情をしている男が歩いていた。
「エレナ!グラセナ!お前たちは一体何をしているんだ!」
個室に入り慣れた手つきで防音の魔法を起動し、僕達二人を正座させてからノエル・コートフール・アガレスは怒りの雷を落とした。
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