お風呂のデジタル時計表示って、怖くないですか?
※「なろうラジオ大賞3」参加作品です。
金曜の23時、会社から帰宅。
誰もいないマンションの一室。当然、中は真っ暗。
へとへとになりながら、それでもお風呂のスイッチオン。
今日は温かい湯舟でゆっくりしたい。
色々片付けているとあっという間に時は過ぎる。
私は服を脱ぐと、すぐにシャワーを浴び始めた。
ちょうどお風呂が沸いたのか、浴室リモコンが
『オフロガ ワキマシタ』
と告げてきた。
意外とよく響いたその機械音声に、思わずびくっと壁を見た。
うちの給湯器は、浴室の壁に据え付けられているリモコンで操作する。
黒いデジタル表示盤には浴槽を模した箱が描かれ、その中に「42℃」と表示されている。
湯が満タンに張られ、ほかほかと湯気が立つ様子も描かれている。
その横に「23:50」と時刻表示がされていた。
もう0時か。
そう思いながらシャワーを止め、静かに湯舟に浸かった。
凝り固まった身体に、じんわりとお湯の温かさが伝わってくる。
気持ちよさに、うとうと微睡んでしまった。
駄目だ、お風呂で寝ては。
はっと顔を上げると、眼前の壁で、デジタル表示盤が点滅していた。
黒い画面の中で、「42℃」の文字が浮かび上がっている。
何故か表示はそれだけで――
さっきまで表示されていた湯気は消え、お湯の満タン表示もない。
ただ、浴槽の中で、無機質な「42℃」だけが、点滅し続けている――
その横には「23:59」なる時刻表示。
時々こうなるんだけど、なんかこの表示、嫌だなぁ。
湯気の温かみが、一緒に消えてしまう感じがして。
そう思って、風呂から上がりかけたその時。
バシャッ
部屋の外から響いた水音と共に、一斉に電気が消えた。
「!?
やだ……停電!?」
真っ暗になった浴室に反響する、自分の悲鳴。
先ほどまでの温もりが、戦慄と共に消失していく。
そして――
私は気づいた。
闇の中に浮かび上がった、デジタル時計表示に。
それはちょうど0:00を示し、明滅し続けていた。
停電しているはずなのに、何故。
声も上げられずその表示を見ていると。
何故かお湯の底から、つまり足元の循環口から、氷のような冷気が這い上がってきた。
逃げようとしても、その冷たさは足を掴んで離さない。
無防備そのものの私を、浴槽の底からじわりと包み込んでいく、冷たい闇。
目をこらしても、暗くて何も分からない。
「42℃」を示しながら、白く点滅し続けるデジタル表示。
描かれた浴槽には――底がなかった。
最後に聞こえたものは――
よく響く、機械音声。
『アナタハ シニマシタ』