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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第六章:『神霊の園』

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その96:極悪な施設へ


 「……なにをしているんだ?」

 「ひぃん……助けてくださいザガム様っ」


 なんだかよく分からないが、目を覚ますと木にイスラが吊るされていたので、とりあえず降ろしてやった。


 「ありがたやー……一生ついていきます……」

 「よくわからんが、お前の魔法は使える。作戦時は頼んだぞ」

 「ふぁい……」


 諦めの顔で俺の腰にしがみ付いてくるのを見ていると、ファムも起き出してきた。


 「ザガムさんおはようございまーす! あれ? イスラさんどうしたんです?」

 「ああ、ファムちゃん……」

 「え? なんで私、イスラさんに優しい目で見られているんですかね……?」 

 「知らん。とりあえず朝食にするぞ」

 

 イスラはファムに任せてイザールの下へ。

 パンとスープ、それとミーヤが適当に狩ってきた肉を焼くいい匂いが漂ってきた。


 「おはようございますザガム様」

 「うむ」

 「おはようございますぅ♪」

 「ずいぶん元気だなメリーナ」

 「ちょっといいことがありましたからぁ」

 「ひぃ!? おっぱい怖い!?」


 メリーナが獲物を狙う目をイスラに向けると、即座にファムの後ろに隠れていた。

 なにかあったのようだが、まあ問題ないだろう。


 「ふぁ……おはよう……」

 「ルーンベル様も起きたにゃ」

 「揃ったか、とりあえず先に食ってしまうぞ」

 「はーい! ほら、イスラさんご飯ですよ」

 「いつもすまないねえ……」


 そんな朝食風景はともかく、俺達は早々にルーンベルの案内で『神霊の園』を目指す。

 グェラ神聖国の城下町から二日ほどの位置らしいので、今日中には到着するはずだ。とりあえずイスラは加入したばかりなので、再確認をしておく。


 「イスラ、お前は他にどんな魔法が使えるんだ?」

 「へえ、わたしはさっき朝ごはんを食べましたよ?」

 「もう、しっかりしてください」


 すっかりダメな感じになったイスラに、業を煮やしたファムが尻を軽く引っぱたく。


 「尻はダメですって!? えっと、あれ? わたしは一体?」

 「良かった、正気に戻りました!」

 「うふふ」


 ファムの一撃で目に色が戻った。

 先ほどからメリーナが含んでいるのであいつがなにかやったのだろう。

 それはいいとして再度俺は尋ねる。


 「復活したか、お前の使える魔法を教えてくれ。妨害系の魔法が得意そうだが?」

 「え? ああ、そうですね……隠蔽魔法や地面を滑らせる魔法、糸を絡みつけるやつと落とし穴は見せたんですかね」

 「それと攻撃魔法も凄かったわね」


 ルーンベルが感心したように口を開くと、鼻を高くしてイスラが返す。


 「もちろん、この偉大なる魔法使いになる予定のわたしに隙はありません。後は土壁を作る<アースウォール>に、一時的に目潰しができる<ブラックインク>とか、<スリーピング>、少しだけ浮いて足音を消す<リトルウイング>なんてのも使えます。攻撃に関してはギガクラスは網羅していますよ」

 「凄いです……」

 「見事に妨害系魔法のオンパレードね」

 「そりゃ、女一人で冒険者の旅をやるからにはこれくらいないと明日には奴隷市場ですし」


 小柄な外見で苦労もしているのか肩を竦めながらやれやれと首を振るイスラ。

 頼もしい魔法があるのは助かるな。

 

 「でもどうして一人で旅をしているんですか?」

 「ま、わたしは孤児というやつでしてね。魔法使いの師匠に拾われましたが、その師匠も三年前に死去。物を持たない人だったので、家を放棄して旅立ったというわけですよ」

 「目的とかないの?」

 「ええ。金持ちの次男か三男あたりを摑まえて結婚し、自由快適な生活をするのが夢ですけど」


 それを聞いてルーンベルが『ある意味賢い』わねと苦笑していた。

 

 「あ、そういえばザガムさんって兄弟はいないんですか?」

 「ん? 急になんだ? 俺は一人だぞ」


 拾われたからいたりするのかもしれないが、まあ面倒なので一人でいいだろう。

 するとイスラが俺をじっと見ていることに気づく。


 「じー……お金は持っているんですよね?」

 「一応な。ファムと共同資金だが」

 「あ!? まさかイスラさんもザガムさんのお嫁さんに!? ダ、ダメですよルーンベルさんも正式に候補になったし、最近ただでさえ出番がないのにこれ以上個性的な人がそうなったら私目立たなくなるじゃないですか!? 正妻の地位が……!!」

 

 ファムが涙目で俺の膝に乗りながら謎の主張を繰り返していた。

 ……影は……薄くなってきたか?


 「悲痛な叫びにゃ……」

 「ふぉふぉ、最後に立っている者が勝者なのですよ」


 御者台に座っていた二人が呑気に呟く中、馬車は進む。

 さらに二つ町を経た後、俺達は『神霊の園』へと到着した。


 「ここか。思ったよりでかいな」

 「まるで要塞ですにゃあ……」

 「ここから逃げ出したんですか?」

 「ええ」


 戦慄するファムの質問に、怒りを含んだ声で短く答える。

 下から見上げる形で見ているが、ここは育成施設、というより牢獄に近い。


 裏は切り立った崖で、落ちたらひとたまりもないだろう。

 壁の高さは10メートルは越えていて、ワイヤーフェンスが敷かれていて、徹底的に逃げ出せないような構造をしている。


 「連れて来られる時は窓のない馬車の荷台に乗せられて、ご飯やお菓子なんかで誤魔化されているけど中に入ったら最後。聖女として使い物になれるか、慰み者になるしかないの」

 「女の敵と言っていい施設ですねえ」

 「ふむ……空には魔封じの結界。飛んで逃げるのも不可能、と」


 ルーンベルの言葉に、メリーナとイザールも嫌悪を露わにして呟き、イスラが続く。


 「権力者の考えることなんてこんなものですよ。実際、聖女は選出しているんですから、まったくの嘘というわけでもありません。……さて、乗りかかった船です。報酬は弾んでもらいますよ?」

 「ああ、成功したらな。ルーンベル、案内を」

 「分かってるわ。こっちよ」

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