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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第五章:陰湿な逃亡者

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その91:グェラ神聖国

 

 ――馬車による移動を重ねて約15日。俺達はグェラ神聖国へ入国していた。


 結局、青い服の女は一つ前の宿で目撃情報を聞くことができたが、それが三日前とのこと。

 結局、次の町はグェラ神聖国の城下町。なので入ることになったというわけだ。


 「……」

 「ルーンベルさん、その黒い眼鏡持ってきてたんですね」

 「シッ、私の名前はここじゃご法度よ。ベルさんと呼びなさい」

 「サングラスにマスク……逆に怪しいにゃあ……」


 シスター服も途中で着替え、冒険者風のいでたちに変更しているがミーヤの言う通りフェイス回りが怪しすぎる。

 ギルドや掲示板にルーンベルが指名手配されているとはいえ、せめてどちらかでいいと思うのだが。


 「……」

 「あ!? ザガム、マスク返しなさい!」

 「眼鏡だけでいいだろう。いや、逆の方がいいのか? 何かあっても守るからそう緊張するな、普段通りにしておいた方が案外ばれないものだと思うぞ」

 「う……なんてイケメン。分かったわよ。それじゃサングラスだけね。……それにしても久しぶりに帰って来たわ」


 出奔して三年は経過しているらしい。

 ルーンベルはこの城下町ではなく、別の小さな町の修道院に拾われて生活していたのだという。


 「まあ、なんにしても貧しかったから露店で落ちたお金を拾ったりしてたわ。ファムみたいに自給自足できる村とかだったら良かったんだけど」

 「そうだったんですね……。それで『神霊の園』へ?」

 「年頃の娘は連れて行かれる、って感じね。私は13歳だったかな? それから4年暮らして、魔法は強くなったけど、他の脱落した子を見なくなって真実を知った」


 それで施設を潰すと決めたらしい。ルーンベルの視線の先には山があり、そこの一角に建てられているのだとか。


 金に執着するのと行動力は見事なものだが、そういう経緯のせいらしい。

 とりあえずルーンベルの過去は一旦置いておくとしよう。


 「昼飯を食ったら青い服の女捜索だな。この町ももう出て行っている可能性はあるがな。ファムとベルは宿で待っていてくれ」

 「いいんですか?」

 「一人にしておくとまたどこかへ行きそうだしな。ファム、見張っていてくれ」

 「はーい!」

 「それはありがたいわね」


 取り急ぎ宿を取った俺達は、イザール達と再び外へ。


 「ベルの目的地の一つだが、ここに居ると思うか?」

 「そうですねぇ……微妙なラインだと思いますわぁ。でも、足取りを追えればいつかは辿り着きますし、ここに居ないならベル様としては好都合かも」

 「ですにゃ。手分けして情報収集といきますにゃ」

 「そうだな。一時間後に一度合流だ、頼むぞ」


 俺の合図でそれぞれ四方へ散っていく。

 

 「さて、と。話が聞けそうなのはやはり酒場かギルド……カードを持っている俺が適任のギルドからいくか」


 ここに来るまでいくつか街を経由し、商店でルーンベルの物品を売りに出したという痕跡は無かったので時間が惜しいのでこういうことは速さが肝心。

 適当に人から話を聞き、場所を確認してギルドへと赴いた。


 「すまない、少し尋ねたい」

 「ん? 見ない顔だな、依頼かい?」


 受付に居る口の周りに髭を生やした体格のいい男に話しかける。

 他の町と違い、随分強そうな受付だと思いながら青い服の女について尋ねてみた。


 「おお、多分その子なら見たことがあるぞ。嬢ちゃんの割に一人で冒険者をやっているって驚いたもんだ」

 「本当か? 俺はそいつを追っているんだが、どこへ行ったか知らないか?」

 「兄ちゃん、恋人かい? まだこの町に居るはずだぜ、宿とかまでは知らないし教えられないが」

 「移動していないのか、それは助かる。今日は依頼に出ていたりしないか?」


 ここが終着なら都合がいい、ついでに『神霊の園』とやらについても処理できる。それとファムの時のようにすれ違う可能性を考慮して尋ねておいた。


 「今日は出ていない……よな、確か?」

 「ええ、こちらには見えていませんね」

 「そうか、では町を探してみるとしよう」

 「おう、またな。頑張れよ!」


 なにを頑張るのか分からないが、俺は片手を上げてギルドを立ち去る。

 目立つ服装ならすぐに見つかるはず。

 イザール達もいるし、期待が出来そうだ。


 ◆ ◇ ◆


 「見つかるといいですね」

 「そうね……あの像に入っている資料は私以外役に立たないと思うけど、『神霊の園』を糾弾するのには絶対取り返したいのよ」

 「そこまで酷いんですね……」

 「まあね。じゃなきゃ逃げ出したりしないわ」


 ルーンベルさんははにかむように笑い、肩を竦めてベッドに寝転がる。

 私も勇者になってからしばらくは辛い目に合っていたので気持ちは良く分かるつもりだ。

 

 冗談めかしているけど、目の下にクマもあるし疲労の色が濃いんですよね……

 あまり外に出られないけど、宿の下にあったカフェに行くくらいなら大丈夫かな?


 「ベルさん、ベルさん、ザガムさん達が帰ってくるまで時間がかかりそうですし、下でお茶でもしません? 美味しそうな焼き菓子の匂いもしましたし!」

 「あー、お茶かあ……」

 「気分転換になりますよ、きっと! 青い服の人はザガムさん達にお任せです!」


 私がルーンベルさんの手を引いて起こすと、苦笑しながら立ち上がってくれた。


 「よし、ファムのお願いなら仕方ないわね! 行きましょうか。サングラスをつけて!」

 「ふふ、そうですね」


 私達は部屋を出て階下のカフェを目指す。

 そして通路に差し掛かったところで――


 「ふんふふーん♪ 明日からわたしは小金持ち~もしかしたら女王かも~♪」


 ――全身を青い服で固めた女の子がご機嫌な様子で歩いてきた。


 「……あ!? ベルさんあれ!! あの子!」

 「まさか!? ねえ、そこの青い服の子!」


 恐らく、多分、間違いなくそうであろう人に、ルーンベルさんが声をかけ、前を塞ぐ。すると女の子が訝し気な顔で後ずさる。


 「ん? なんですかあなた方は?」

 「ちょっとあんたに話があるんだけど、時間取れない?」

 「……!? まさかすでに組織の手がここに!? 逃げるが勝ち!」

 「あ、なんで逃げるのよ! 待ちなさい!」

 「追いかけましょう!」


 青い服の女の子、意外と小柄でしたね。

 逃がしませんよ……!!

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