その90:ランクアップと青い服の女
「うへえ……これ、全部あんた達が……?」
「正確には俺の部――」
「こちらにおわすザガム様がリーダーで、我々は少々手伝っただけでございます」
「お、おお……さぞ強いのでしょうな。ギルドカードなどはお持ちで?」
「これだ」
「……」
俺とカードを見比べて驚愕の表情を浮かべるギルドの男。
その後ろに控えている冒険者達も困惑顔だ。
――野盗たちを捕えた後、俺が先行して近くの町へ赴き運ぶのを手伝うよう依頼した。皆、半信半疑だったが移送用の車輪付きの檻や荷台を数台引いて来てもらった次第である。
「うお……極悪犯罪人のトボレーだこいつ……」
「マジか、Bランク位の強さはあるって話だぞ……」
「それEランク冒険者が?」
「静かに! ……と、とりあえず移送しましょう。ギルドに必ずお立ちよりください」
その言葉に頷き、俺達は移動を開始した。
◆ ◇ ◆
――ギルドマスター執務室――
「お揃いですかな。私がこのモーリスの町のギルドマスター、オックスです」
「ザガムだ。こっちが勇者のファムで、聖女見習いのルーンベル。後は使用人だな」
「使用人、ですか? いえ、詮索は必要ありませんな。ともかく、あの大規模な野盗達を駆逐してくださりありがとうございます」
「気にしなくていい。こちらも仲間を助けるためだったからな」
「はは、仲間のお嬢さんも無事で良かったです。……こちらは少ないですが、 報酬になります」
「わ、お金?」
オックスが差し出したのは札束で、結構な金額になると推測される。
「野盗一人につき1万ルピ。56人おりましたが、トボレーが含まれていましたので60万ルピとなっています」
「いいのか?」
「もちろん。今後は街道が正常化したことを伝達してこの町も活発になるでしょうし、すぐに取り戻せます」
「遠慮なく」
「助けられた側なのにルーンベルさんが持っていくんですか!?」
「冗談よ」
目が本気だったような気もするがとりあえず金はイザールに預けて話を続ける。
折角なので青い服の女の情報でも知らないか聞いてみるとしよう。
「……青い服で三角帽子……うーん私には、ギルドに寄っていれば誰かが知っているかもしれません。少々お待ちを」
オックスは腰を上げて部屋から出ていき、部屋は俺達だけに。
「それにしても本当に良かったですね」
「そうねぇ♪ それでザガム様、このまま神聖国へ行くんですかぁ?」
「ああ、予測だと青い服の女はかなり先に行っているはず。見つかり次第、ルーンベルの目的を果たすぞ」
「いいの?」
「もちろん! 変な施設を潰したらルーンベルさん、安心ですもんね?」
「そりゃそうだけど……」
まだ巻き込みたくないと考えているのか、目を泳がせるルーンベル。
彼女に視線を合わせて、告げてやる。
「乗り掛かった舟、というやつだな。俺ひとりでも十分だが、ここにいる全員でやれば国一つくらいなんとでもなる。あまり目立ちたくはないが、憂いは断っておきたい。また無茶をされても困るしな」
「……うん、ありがとう。そうと決まればあの司祭をボッコボコにしないとね」
「その意気ですよ! 像に入っている証拠が無くてもいけるんじゃありません?」
「念のため持っておくべきだろう。ルーンベルの言うように国が黙認している可能性もある」
言わないが、ルーンベルが言っていた他国に救いを求めるというのは難しい。むしろ、助けた国が『神霊の園』という施設をそのまま使うことも考えられるからだ。
なので出来るだけ国内のみで解決を図るべきだろう。
ルーンベルの友人達というのも助ける必要があるので、武力だけの制圧は得策ではないかもしれないな。
「お待たせしました、お話ですが――」
そんなことを考えているとオックスが戻り、青い服の女が向かった先を聞くことができた。
「後はこれを」
「ん? ……Bランク? 俺はEランクだぞ? 試験も受けていない」
「いえ、流石にあれだけの野盗を締め上げてEランクというのは釣り合いません。功績を得た者に相応のランクを与えないと、他から不信感が出てきますので」
「いいなあ、ザガムさん。せっかくお揃いになったのにぬかされちゃいました! でも、本当に強いしいいと思いますよ?」
「ふむ」
「そうね、別にEランクに拘る必要もないでしょ」
……両脇に居るファムとルーンベルに諭され、渋々更新されたギルドカードを手に取る。Eランクで良かったのだがな……
◆ ◇ ◆
「ふう、今日も美味しい食事とベッドにありつけましたか。旅の醍醐味は食事と風景、たまらんですなあ……」
と、青いとんがり帽子を机に置きながら光悦とした表情で夕食で食べたステーキを思い出す魔法使い風の女。
「そういえばどっかの町でカバンを買ってから中身を見ていませんでしたね。<シークレットガーデン>」
魔法使いが呟くと収納魔法が展開され中から薄汚れたカバンを取り出す。
それはルーンベルがヴェリナントに奪われたカバンで、中身は手つかずだった。
「10万は痛かったですが、この像はなかなかの調度品。素材も銀ですし、悪くない買い物でしたね。他には……下着ですか、また大きいサイズのブラですね……悪よ滅びろ!」
自身の平らな胸を見た後、大きなブラジャーを引き裂き満足気な表情で次の物色に移る。
「うーん、像以外は日用品ばかりですねえ。この指輪は高く売れそう。……聖典? 神聖国の方の荷物ですか、これ。え、するとこの指輪は聖女の――」
その時、像をテーブルから落ち、派手な音を立てた。
「うああああ!? わ、わたしの像さんが二つに割れた!? あああ10万もしたのに……。って、あれ?」
見れば像は確かに割れているが、元々二つに分かれるようなギミックになっていることに気づいた彼女は恐る恐る手に取って見る。
「ホッ……壊れたわけじゃなさそうですねえ。おや、中になにか? 紙の束……ほほう『神霊の園』とやらにそんな裏が。これはお金を毟り取れるかもしれませんねえ……行きますか、グェラ神聖国――」




