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その9:冥王は依頼を受領する


 「えっと……ケガは無いみたいだけどどうしたのかしら……」

 「アレイヤが行けと言っていたので来ただけだ。しかし、ケガが無いのも怪しいか……すまない、包帯を適当に捲いてもらえないか?」

 「ええー……」


 手当を受けるフリをしておくのも重要だと左手に包帯を捲いてもらい、何度か握っているとアレイヤとライが近づいてくるのが見えたので俺から声をかける。


 「他になにをすればいい」

 「手当は終わったみたいね、適正検査はこれで終わりよ」

 「あ、あの」

 「……」


 手当をしてくれた女性がなにか言おうとしたので俺は振り返り、余計なことを言うなと圧をかける。

 

 「どうしたの?」

 「ああああああ、な、なんでもありません!?」

 「おいおい、大丈夫か!?」


 尻もちをついた女性をライが助け起こしながら俺に向きなおり、口元に笑みを浮かべた後に口を開く。


 「まだ粗削りだが、打たれ強さと筋はいいから何度か実戦を経験すればDランクはすぐだと思う。ギルドは腕のいい冒険者が居れば助かるからな、頑張ってくれ」

 「ああ」

 「それじゃ受付に戻りましょうか」


 訓練場を立ち去るらしいので、ライに手を上げてこの場を後にすると、俺は歩きながらアレイヤの背中に質問を投げかける。


 「これで依頼とやらを受けることができるだろうか? 早く金を稼ぎたい」

 「ええ、適正なやつを見繕ってあげるわ」


 受付に回りながら微笑むアレイヤは書類の束のようなものを出して目を通し始めたので、手持ち無沙汰になる。

 このまま待っても良かったが、とりあえず本来の目的である勇者のことを聞いてみるとしようか。


 「作業しながらでいい、聞いてくれ」

 「なにー?」

 「勇者が現れたと耳にしたんだが、本当なのか? もし本当であればどこに居るか教えて欲しいんだ」


 するとアレイヤの動きがピタリと止まり、顔を上げて俺に言う。


 「勇者のことを聞いてどうするの?」

 「……大魔王を倒せるほどの強さだ、両親の仇を取ってもらえないかとな」

 「仇、か……。やったのは魔族? 復讐したい気持ちはわかるけど、勇者も暇じゃないと思うわよ。噂じゃブライネル王国に現れて、少し前に王様に会ったらしいってことくらいね」

 「なるほど、ブライネル王国だな」


 壁に貼ってある地図に目をやり、地名と町名から現在位置を確認。

 人間の居る地域に来るのは初めてだが、世界地図は不本意ながらメギストスやイザールとの勉強で教わったことがあるため地図を見ればだいたいの位置は把握している。


 「ならザガムは王都に行くの?」

 「勇者が居るならそうなるな」

 「そっか……できればこの町で活動して欲しかったけど、敵討ちなら引き止められないわね。なんだかんだで貴方優秀そうだし」

 「そう言われて悪い気はしない。が、日銭を稼いだら旅に出る」


 『あっさりしてるわね』とアレイヤが肩を竦めて笑うが、少し冷めたような笑い方だなと気になり尋ねてみる。


 「アレイヤにも討ちたい敵がいるのか?」

 「……敵は討ったわ、間接的にだけどね。村を襲ってきた魔族にやられたんだけど、冒険者が倒してくれたのよ。それから冒険者のサポートができるこの仕事を選んだってわけ。だから、敵討ちってんならそれは止められないなって」

 「……」


 魔族か……大魔王の目が届かない人間の領地に居る魔族なら襲うことは有り得なくはない。

 特にゴブリンやオーク、オーガといった種族は魔族とは言っても『キング』や『ロード』という位を持つ者以外はそこまで賢くないため魔物と殆んど変わらないのだ。

 魔族と魔物の違いはそこまで無く、言葉が話せるかどうかが一番重要になる。

 俺のような人型も居ればマルセルのように羽が生えている者もいるし、ユースリアも海に戻れば下半身は海の生き物に変化できるらしい。

 判断基準としてはやはり見た目より知能だと思う。

 

 それにしてもアレイヤが魔族に爺さんを殺されていたとはな。

 俺もイザールになにかあれば、大魔王相手でも殺しにいくだろう。それを他の人間の手を借りたとはいえ成し遂げたのは褒めるべきだ。

 

 「そんじゃ、王都に行くまで旅をするなら何日か稼がないとね。とりあえずこれなんてどう?」

 「ふむ」


 先ほど見せた寂し気な顔から一転して、笑顔になりアレイヤが俺に渡した紙を見ると――


 「ジャイアントアントの討伐か」

 「そう、あまり強くないんだけど最近数が増えてきたのよ。ちょうど西門から出た森にいっぱい出るらしいから駆逐して欲しいわ。一匹当たり百五十ルピだから分かりやすいでしょ?」

 「そうだな、これを受けるとしよう」

 「決まりね! それじゃ、この依頼はザガムが受領、と。カードを貸して」

 

 俺がギルドカードを渡すと、アレイヤが紙の隅にカードを押し当て、直後その部分に焼き印のようなものがついた。


 「これで貴方以外終了できないし、なりすましで取られることもないわ。それじゃ、頑張ってね♪」

 「分かった、西門だな」

 

 明るく手を振って見送ってくれるアレイヤに片手を上げて応えギルドを後にし、早速西門へと向かう。


 「……ギルドは勉強になるな、まずは俺の領で試しに作ってみるか? 魔物退治などに報奨を出せば確かにやる気になる。戦力を図るのも競争心を煽れていいかもしれん」


 ……それでも疑問は残る。

 大魔王メギストスはどうして人間と冷戦状態に入ったのか……?

 俺が人間を隷属したいのは魔族だけの領地が人間の領地に比べて狭く、強者である俺達にあれだけしかないのは納得がいかないからだ。もっと広くなればもっと発展するはずと俺は魔族の将来を考えている。


 「……やはり鍵は勇者か」


 会うためには金が要るかと、ジャイアントアント討伐のため西門へ行く。


 「依頼ですか? 帰って来た時にこのカードを提示していただければ入町料は必要ありませんので、無くさないようお願いします」

 「ああ、また払いたくないしな」


 金を今から稼ぎにいくしなと胸中で呟きながら、俺は門を出て森へと歩き出した――

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