その85:王の器
「お前は実に巧妙なテクニックを使っている。だが、俺とイザールの眼は誤魔化せなかったようだな」
「へ、へへ……負けそうだからって言いがかりをつけてくるのかい? な、なら勝負は止め――」
「ふん」
「ぎぁぁぁ!?」
俺の前から離れようとするヴェリナントの腕を捩じり上げてやる。
すると――
「あ!? カ、カードが零れ落ちて来たぞ!」
「……ということだ」
「ぐ……くそ……」
「なるほど、イカサマをしていたというのは本当らしいね。だけど、どうやって見破ったんだい?」
エイターが不思議な顔で俺に聞いてきたので、ヴェリナントの袖をまくって話を続ける。
「まずはどういうことのなのかを話すが、このカードを蓄えて置けるホルダーがスーツの内袖と手首側の袖にある。左腕にもだ。これにエースと10~13のカードを四種類仕込んでいてな」
「……」
黙り込むヴェリナントは歯噛みをしながら俺を睨みつける。
こいつのイカサマの正体は単純なものでカードのすり替えだ。
ただ、それは巧妙で手札を見てから必要なカードを引き出すのだが、先述の通りカードの枚数自体は少ない。
なので、降りたりカードが合わない場合は負けることもある。
それでも3カード以上の役は見込めるので有用な手と言えるだろう。
最後にカードを回収する時、伏せて戻すのだが、もう一度元のカードに入れ替えたのでイカサマがバレないようにしていたというわけだ。
そしてこいつはルーンベルと俺がカードの手札を見せた後にすり替えることもやっていた。
ルーンベルが数字を並べ替える癖を利用したこともあるだろう。
俺が種明かしの説明をすると、ルーンベルが口に手を当てて戦慄する。
「嘘……私、そんな癖あるの?」
「あるぞ。なんとか伝えたかったが、今回はそれを逆手に取らせてもらった」
「それじゃこいつがたまにミスっていたのは?」
「それはわたくしめがこれを彼の交換しようとしたカードとすり替えていたからでございますよ」
「え!?」
驚いたのはヴェリナント。
奴が交換しようとしたカードをイザールが物凄い速度で飛ばし、変えようとしたカードを押しやって違うカードを掴ませるのだと、得意気にカードを指ではじいてディーラーの手へ。
驚く一同だが、ここでヴェリナントが口を開いた。
「だ、だけど、なんのカードか分からないんじゃ……」
「そこはランダムだな。お前がストレート以上でしか勝っていないことに注目して、6から9を差し込むようにしていたんだ。落ちたカードの束に複数枚入っているはず。被ればそこでイカサマの」
「そ、そこまで見破っていたとは……。だが、俺は訓練の末かなりの速度で交換できるようになっていた、それを上回るか……」
「上には上が居る。イザールは速さなら相当だ。俺もそれなりにはいけるが」
そう言ってイザールにカードを高速で飛ばしてみせる。
場にどよめきが起こると、エイターが収集するため手を叩いて俺に声をかけてきた。
「オッケー、それではザガム殿。こいつを拘束して連れて行く、ルーンベルさんの借金もヴェリナントから徴収して帳消しだ」
「荷物も返してもらわないとね」
「いや、まだだ」
俺はヴェリナントのホルダーを外し、カードを全て捨て去り席に座らせる。
「な、なんだ……?」
「ラスト勝負だ。お前がいかに狭小な存在か分からせてやる。俺とルーンベルはチップは全部かける。お前が賭けるのはその罪。負ければその腕をもらおう」
「な、なんだと……」
「勝てば金は払うし、ルーンベルをやろう」
「ちょ、ちょっと!?」
「お前は俺のだ、抗議は聞かない。どうだ、やるか?」
顔面蒼白で俺を見上げるヴェリナントを見て尋ねると、
「へ、へへ……なにを言いだすかと思えば……俺ぁイカサマが無くてもこの賭博場のキングだ。きちんとやってもてめぇみてえな素人に負けはしねえよ」
「そうか。なら受けるということでいいな。続行だ」
「ザガム、なに考えているの?」
「いいから席につけ。こいつに現実と言うものを教えてやる。それともお前はあいつに負けるとでもいうのか?」
「……いいわ、乗った」
真剣な顔をするルーンベルも座り、先ほどと同じ位置へ。
イカサマは使えない。
俺も使わない。
完全な実力勝負だ。
配られたカードを見て俺は――
「フッ」
ほくそ笑んだ。
「なにがおかしい? ……二枚ドローだ」
「どうぞ」
「……よし、俺はこれでいい」
「私も二枚よ。って、ザガムなにカードを伏せているのよ?」
「俺はこのままだ」
「は? くくく……あまりに酷くて勝負を捨てたか?」
「そう思うなら思えばいい。いいのか? その手で」
◆ ◇ ◆
なんなんだこの男は……?
不敵に笑うザガムと呼ばれた男を見て俺は冷や汗をかく。
カードは見た。だがこいつはチェンジしなかった。
よほどいい手か、クソ手だからブラフという可能性もあるが、先ほどの自信ありげなセリフの後でこの態度がとれるだろうか?
俺の手札はスリーカード。
これでも十分だが、後一枚来ればフルハウスになる手だ。
ルーンベルは癖を直そうとしながらも表情が固い。
俺と同じスリーカードくらいだろう。
「どうした、オープンするか?」
男が急かす。
しかしこいつは素人で、アホな手札を出すこともあった。
そんなヤツが今、この瞬間だけ配られたカードで勝負する理由は――
「ふむ、スリーカードくらいか? それで俺には勝てんぞ?」
……!?
こいつ、どうして俺のカードを……!? 後ろに……人は居ない。
何か暗号を通してもいないし、あのジジイも離れた場所に居る。
なにか魔法か? いや、魔法が使えないようこの建物には魔力検知フィールドが張ってある……
「どうした? 勝負するか?」
「くそ……! 一枚だ、寄越せ!」
「どうぞ」
……!
来た、フルハウス……!! やはり俺はキングだ!
「よし……勝負だ――」
◆ ◇ ◆
ヴェリナントが嫌な笑みを浮かべて勝負を仕掛けて来る。
どうやら最後に交換したものでかなり良い手札になったらしい。
「では、オープンを」
「なら俺からだ!! フルハウス、これでどうだ!!」
ディーラーの声でここぞとばかりに手札を晒すヴェリナント。
確かに宣言通りのフルハウス。
「くっ、私と同じか……」
「チッ、ドローか」
舌打ちをする二人。
そこでヴェリナントが俺に言う。
「てめぇはなんだ? 早く見せろ」
「ふん、慌てるな」
俺は真顔でカードを開く。
そこには――
「き、騎士のロイヤルストレートフラッシュ、だとぉぉ!? 馬鹿な!?」
「う、嘘でしょ……」
さすがのルーンベルも驚きを隠せず呟いていた。
「……貴様は自分を王だと言っていたな? 真の【王】は運すらも味方する。貴様はその素質は無かった、ということだ」
「馬鹿な……馬鹿な……イ、イカサマだ……イカサマに違いねえ……調べさせろ!」
「構わんが、もしなにも無い場合、腕だけではなく命をもらい受けるがいいな?」
「う、ぐ……」
俺の気迫に押されて呻くヴェリナントに近づいていく。
そして――
「執行だ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
俺はヴェリナントの腕を曲がってはいけない方向に曲げてへし折ってやった。




