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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第四章:魔族領からの刺客

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その79:嫁候補二人とザガムの感情


 「戻ったぞ」

 「おかえり。遅かったわね」

 「起きてたのか、メリーナ達は?」


 リビングへ戻るとルーンベルがエイターからもらった酒瓶を片手に、自分でグラスに注ぎながら俺を出迎えてくれた。

 俺の問いに答えず、ルーンベルはもう一つのグラスに酒を注ぎ、俺に座るよう微笑みながら指でテーブルを叩く。


 「……貰おう」

 

 椅子に座って一口飲むと、苦みの中にほんのり甘さがあり、疲れた体に染み渡る。

 いい酒だ、確かに高いとこいつが言っていただけのことはあるな。

 俺がそう思っていると、ルーンベルは頬んだまま口を開く。


 「メリーナは念のためファムの看病、ミーヤは待ってたんだけど私が起きているから先に休むように言ったの」

 「そうか。お前も寝て良かったんだが」

 「んー、一応ほら嫁候補としては旦那を待つのも仕事じゃない♪」

 「まだそんな冗談を言っているのか」

 「どうかしら? ……で、本題だけど今日の子供二人。あれってかなり強力な魔族だったんじゃない?」


 空になったグラスを持ち上げながら俺に目を向ける。

 ……酔っているからか、開けた胸元といい妙に上気した頬がやけに扇情的だ。

 

 「……っ」

 「どうしたの?」

 「いや、なんでもない。発作だ」

 「発作……って、女の子が苦手なやつ?」

 「そうだ。今、お前を見ていたら動悸が激しくなった、今までは大丈夫だったんだがな」

 「それって――」

 「まあ、それはいい。で、俺の正体を知っているから言うが、あいつらは俺の後釜で【霊王】というらしい。まあ【王】というやつだな」

 

 俺は視線を逸らしながらグラスに口をつける。

 するとルーンベルは真顔で俺の隣に近づいてきて俺の顔を見る。近い。


 「でも、あんたはあっさり撃退。全力も出さず尻たたきで? ザガム、あんたどれくらい強いのよ……」

 「肩書は大魔王メギストスの次だったな。ちなみに【冥王】になってからメギストス以外に負けたことは無い。あの二人はまあまあだったが、現状の【王】の中で戦ったらまだ最下位だな」

 「実質最強じゃない。……ねえ、ザガム」

 「む」


 ルーンベルはいきなり俺の膝に腰かけると、両腕を首に回してきて上目遣いで俺を見ながら小さな口を開く。


 「私、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 「……金は働いた分だけで、ギャンブルは俺達とだけだぞ。後、発作が酷くなる、離れろ」

 「ち、違うわよ!? もし聞いてくれたら、あんたに忠誠を誓うわ。私を好きにしていいわ」

 「酔っているのか?」

 「……かも? でも、今日ので確信した。私を助けてくれるのはあんただけかもって」

 「助ける?」

 「うん。もし助けてくれるなら……エッチなことを前払いしても、いいわ。婚前交渉はしないみたいだけど、今の世の中そんな人は珍しいわよ? ね、どう?」

 「……」


 そう言ってくっついてくるルーンベル。

 妙なことを言う。俺が強ければこいつの願い事が達成できるというのだろうか?

 

 それにユースリアから聞いたことがあるが、女は自分の体を大事にするものだと。

 なのにそれを交換条件に出すことに違和感がある。


 「ん?」


 自分から抱き着いて来たルーンベルだが、よく見れば震えていた。

 もしかしたら経験がないのかもしれない。

 俺も発作が起きていて余裕はないが、なんとなくルーンベルの背中を軽く叩いてやる。


 「ん……」

 「なにを気負っているのか知らないが、自分は大切にした方がいいぞ。俺もファムも、できることなら手伝ってやる」

 「それって……」

 「フッ、お前は俺達の奴隷だ、それくらいはしてやるに決まっているだろう」

 「ああああああああ!?」


 俺がそう言ってやると叫びながら俺の膝の上で暴れ始めた。


 「くっ……なんかすごく頼りになるけど、屈辱……!! ていうかあんたそんな顔で笑うんだっけ!? ちょっとときめいたけどセリフが酷すぎんのよ!?」

 「?」

 「はいはい、私が意味分からないことを言ってわるうございましたね!?」

 「まあ、奴隷は冗談だ」

 「タチ悪い……」

 「で、お前の頼みたいことというのは?」

 「うん、それは――」

 

 ルーンベルが口を開こうとした直後、


 「おかえりなさい、ザガムさん! ……って、ああ!? ルーンベルさんなにをやってるんですか!」


 パジャマ姿のファムがリビングに入って来て、半泣きでルーンベルを俺の膝から離す。


 「いたた……ちょっと誘惑していただけじゃない」

 「確信犯でした!? もう、ルーンベルさんは私の後だって話し合いで決めたじゃないですか」

 「ごめんごめん♪」


 なにかが決まっているらしい。

 俺はため息を吐きながらグラスをテーブルに置いて、

 

 「なにを勝手に決めているんだ……? ふう、まあいい。それでルーンベル、頼み事はなんだ?」

 「んー、とりあえず今はいいわ。言質が取れただけでも」

 「なんです?」

 「俺にもよく分からん。いいのか?」

 「ええ、頼みごとをする前に調べ物と賭博場に用事があるのよね。なんでもするって言ったんだから今度は頼むわよ♪」

 「なんでもとは言ってないが……ふむ」


 こいつが賭博場に固執する理由が俺達に言う頼み事に関係があるのだろうか?

 

 「ならその時が来たら言ってくれ。ファム、身体はどうだ?」

 「あ、大丈夫です! ザガムさんが回復してくれたおかげですっかり元気です! ……あれが魔族で倒したい大魔王の手下ですよね? きちんと倒せるように鍛えます!」

 「っ……ああ」


 笑顔で拳を握るファムを見て俺は不意に胸がどくんと揺れる。

 こいつは俺の嘘を信じている……それが知られた時、この笑顔がどうなるのだろうか……?


 「お風呂にしますか? 私、入れてきますよ! 火魔法を結構使えるようになってきましたし!」

 「いや、今日はもう寝る。起きるのは昼過ぎになりそうだがな」

 「そうですか? でも……ふあ……眠たいですね、寝ましょうか。ルーンベルさんも」

 「そうね、ほろ酔い気分で寝るのもいいかも。それじゃ……三人で寝ましょうか♪」

 「おい、やめろ、くっつくな」

 「あ、逃げた! あはは、待ってくださいよザガムさん!」


 腕を組んでくるルーンベルを振り払い早足で追いかけてくる二人に、俺は呆れながらも少しだけ、楽しいと感じている自分がいた。

 

 ……楽しい? 俺が? そんなことを思ったのは初めてな、気が、す、る――


 心とは裏腹に、俺の頭は頭痛を起こしていた。

 結局押し切られるまま三人で狭いベッドで寝ることになり、ファムに対しても発作が起きるようになってしまったようで、色々と余裕がないまま眠りについた。

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