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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第四章:魔族領からの刺客

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その71:訪問者×2


 今日の依頼結果は上々だった。

 ファムはミーヤとの訓練や、打ち込みのおかげで踏み込み速度が段違いに早く、スィートビーとジャイアントアントを同時に受けたのだが、やつらに対してカウンターではなく自分から斬りかかり、見事一人で五匹のスィートビーの討伐ができたのだ。

 

 他の冒険者にはたかが五匹だと思われるが、今までの戦歴を考えると相当なレベルに達していると思っていい。

 そう考えるとイザール達が屋敷に来たのは僥倖だったか。オリハルコンの柱もユースリアが持ってきてくれたので俺の訓練にもなるしな。

  

 ちなみにルーンベルも口ではぶつぶつ文句を言うが、Cランクという基本的な強さはあるので、ファムが戦う依頼程度なら足手まといにはならないのも悪くない。


 まあ、そういうわけで概ねいつも通りの日常風景なのだが――

 

 「……まだ消えないか」

 「あの魔法陣なんなんですかね? みんな気にしなくなったけど、やっぱり気になりますか?」

 「あれだけの規模を維持し続けていることが異質だからな」

 「エーテルエリアでしょ? 正直、私は気味が悪いったらないわね」

 「やめふぇくらはいよぅ」

 「ほう」


 ルーンベルがあっちむいてほいで惨敗したファムの頬をこね回しながら核心をついた言葉を発したので感嘆の声をあげる。

 頭が悪そうなルーンベルだが、こいつは色々と謎が多く、今みたいに意外なことを言うことがある。


 「今、不遜なことを考えた?」

 「なんのことだ?」

 「いひゃいでふ!?」

 「そろそろ止めてやれ」

 

 ともあれ、あの魔法陣に全力を出す気にもならないし、目的も不明なのでソファに座りなおす。


 「さて、明日はなにをするか」


 ファムの訓練に時間を当てるか、今晩ルックネスと一緒にハンバーグのレシピを買いに出かけて、明日は休むか? そんなことを考えているとファムが手を上げた。


 「はい! マイラさんが的を使いたいって言ってたからお迎えするつもりです。ついでに私に魔法を教えてくれるそうです」

 「なるほど。なら明日は訓練と行くか」


 すると俺の背後に回ったルーンベルが目を細めて笑みを浮かべながら口を開く。



 「ねえ、賭博場に行かない?」

 「明日はファムが訓練だ。俺達が一緒じゃないとダメだからな」

 「デートがてら行きましょうよー」

 「デート! ダメですよ抜けハゲは!」

 「抜け駆けでしょ……各方面から怒られるわよ……」


 なら今晩ルックネスと出るか?

 そんな調子でリビングでくつろいでいる俺達の下へ、メリーナが入って来て頭を下げる。


 「失礼しますザガム様ぁ。エイターと名乗る方がいらっしゃいましたがご存じでしょうかぁ?」

 「エイター? 確か騎士団長ではなかったか」

 「そうですね、私を庇ってくれていた人です!」

 「挨拶に来てくれたのだろうか、通していいぞ」

 「かしこまりましたぁ♪」


 メリーナが軽い足取りでその場を立ち去ると、程なくして私服姿のエイターが笑顔とともに登場する。

 

 「やあ、こんばんはザガム殿。ファムさんとルーンベルさんも」

 「こんばんは、エイターさん。お久しぶりです」

 「あら、私を知っているの?」

 「ええ、ヴァンパイア討伐で一役買った人材ですから、覚えはいいですよ」

 「それならお金を……! って、あの時のは借金に消えたんだった……」


 しくしくめそめそと泣き崩れるルーンベルはスルーして話を進めるとしよう。


 「夜に訪問とは珍しいな。国王はいいのか?」

 「私が居なくても、優秀な騎士と兵士は多いからね。とはいえ、ザガム殿一人に全滅させられたから大きなことは言えないけど」

 「まあ、相手が悪かったということだ」

 「そう思っておくよ。さて、こういうのがあるけどどうだい?」


 エイターが袋から瓶を取り出して笑う。

 どうやら酒のようだ。

 そこで泣き崩れていたルーンベルが顔を上げて酒瓶に詰め寄った。


 「こ、これは、北の大地にある国『ノースライト』で作られるお酒‟ヴァイラット”!!」

 「そう、それの70年物だよ」

 「70……!? これ一本で30万ルピはする代物――」

 

 言うが早いかルーンベルは酒瓶をひったくってリビングの出口に向かう。


 「あ!?」

 「いけませんよぉ、ルーンベルさん♪」

 「ぐは!?」


 だが、悲しいかな。

 案内してくれたメリーナが待ち構えているので、酒瓶を取り返し顔面を鷲掴みにして吊るしたまま俺のところへ運んできた。

 

 「どうぞぉ」

 「助かる。グラスを人数分頼めるか」

 「もちろんですぅ」

 

 メリーナは酒瓶をエイターに返しながら軽い足取りでリビングを出て行き、それを見ながらエイターが言う。


 「……メイドさんも強いんだな、ザガム殿の屋敷は」

 「ウチは大魔王を倒そうという家だからな。またついて来てくれると集まったのだ」

 「そういえばイザールさんも強いんですか?」

 「ああ。今度手合わせしてみるといい」


 ファムの頭に手を乗せながら答え、再びエイターへ。


 「それで用件はなんだ? ただ飲みに来たわけではあるまい」

 「話が早くてありがたいよ。あの魔法陣のことだ、こちらでも調査をしているけどさっぱり不明。目には見えているけど、そこにはないって感じらしいね。なにか知らないかと思って」

 「ふむ」


 さて、なぜ俺にそんなことを聞いてくるのか真意が読めないな。

 とりあえず下手なことを俺が言うより、ルーンベルにまかせるか。

 

 「ルーンベル」

 「? なに?」


 俺はルーンベルに目配せをしてエイターに説明を促すよう指をさすが、


 「イケメンを誘惑しろ? うーん、騎士団長よりザガムの方がお金持ってそうだし……」

 「違う」

 「あああああああ!? あの魔法陣はエーテルエリアにあるみたいだから手は出せないぃぃぃぃ!?」

 「エーテルエリア……聞いたことがある、この世とあの世の狭間の世界だとか?」

 「まあ遠からず、というところだな。ああ、グラスが来たぞ」

 「ごめんなさいお手伝いすれば良かったですね」

 「いいんですよファム様♪ さ、お待たせしま――」


 メリーナが笑顔でグラスを置こうとしたところで、窓の外がピンク色の光が差し込んできた。


 「すっごい眩しかったですね……!? なんだろ」

 「なんだ?」


 俺はファムと窓に駆け寄ると、魔法陣の周りに黒い染みが見えた。


 「……? なんだろう、段々大きく……」

 「正体を見せたか。エイター、すぐに城に戻れ。敵だ」

 「なんですって?」

 「急げ、手遅れになるぞ。……アンデッドが降りてくるぞ」


 ファムが黒い染みだと言ったモノは、グールやスケルトンといったアンデッド達だった。敵は魔族で間違いないが、何者だ……?

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