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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第四章:魔族領からの刺客

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その67:動き出す者達

 「たいへんたいへんたいへんたいへんよ!」

 「……変態?」

 「その口、塞ぐわよベルちゃん?」

 「ひぃ!?」


 自領地に戻ったはずのユースリアがリビングに入ってくるなり大声で叫び、茶化したルーンベルが後頭部を掴まれる。

 ユースリアが慌てることはそう多くないので、なにか緊急事態があったとみるべきか? とりあえずルーンベルの頭がとんでもないことになる前に声をかける。


 「どうしたんだユースリア? 予定より早いんじゃないか?」

 「それが……って、なんか人が多いわね」

 「客だ」

 「昨日引っ越したお祝いをしてくれたんですよ」

 「へえ、ザガムにお客さんねえ」


 ユースリアはマイラやニコラを見て目を丸くして驚く。

 確かに俺は友人と言える人物は【天王】のマルクスくらいなのでそう思われても仕方がない。


 「……誰? すっごい美人だけど……」

 「ああ、ザガムさんのお姉さんですよ」

 「姉……!? ザガムがイケメンなのは家系なのかしら……」

 「あら、ありがとう。って、それよりファムちゃんザガムを借りるわね! 家族会議があるの!」

 「もちろん大丈夫ですよ! お客様は妻の私が相手をするので」

 「妻じゃないだ――」

 「いいから、行くわよ! イザールも!」

 「かしこまりました」


 俺はファムの言葉を訂正しようとしたが、それより早くユースリアが襟首を掴んで引きずっていったのでそれは叶わなかった。

 そのままイザールと共に俺の部屋に入ると、神妙な顔で俺に言う。


 「……先日、【王】の緊急会議があったのよ」

 「ふむ、緊急とは珍しいな。内容はなんだった? 俺の【王】剥奪あたりか?」

 「さすがに勘がいいわね。もう少し後だと思ったけど、その通り。正式にザガムは【王】じゃなくなったわ」

 「おお……些か早いと思うのですが……」


 イザールがショックを受けた顔で呟くと、ユースリアはそのことについて続けてくれた。


 「緊急に至った原因は恐らく新しい【王】が見つかったからよ。会議の時に紹介されたわ」

 「なんと……」

 「まあ、空きを作ると見栄えが悪いし、メギストスならそれくらいはするだろう。俺より強そうだったか?」


 もし俺と同じくらいの強さがあれば、メギストス討伐が非常に苦しくなる。

 他の【王】もタイマンで戦えば勝てるが、【樹王】メモリーなどは集団戦に強く、状態異常をまき散らすといった個別に強力な行動があるので、決して弱いわけではない。なのでどの程度かは知っておきたいところなのだ。

 

 「戦っているところは見ていないから詳細は不明ね。双子の男の子と女の子の魔族で称号は【霊王】。二人で一人ってところね」

 「ほう……」

 「子供、ですか」

 「ええ。それでもメギストス様が選んだと言っていたから、実力はあるんじゃない?」

 「まあそうだろうな。だが、今の俺には関係ないだろう。【王】の座はいずれ剥奪されていただろうしな」


 ファムを助けた段階で帰っていればこうはならなかったと思うが、俺はファムを鍛えると決めたからこれは必要経費だと考えている。

 それにこれは好都合といえばそうだと思う。


 「俺を見限ったならやりようもある。別に魔族領から追放されたわけじゃないから、適当な家を借りて暮らしてもいいのだからな。それに現状、確実に俺を倒せるやつはいない、あいつの城を攻めるのはどうとでもなる」

 「そりゃあんたの実力は知っているから、それはそうだけど」

 「ユースリア様の懸念は分かりますが、ザガム様が【王】を降ろされたとしても命を狙っている訳はありますまい?」

 「まあ……」


 イザールがそういうと困惑した顔で腕を組むユースリア。

 

 「イザールの言う通り【王】が代わっただけだ。今後もやることは変わらない。別に【王】の座に執着している訳でもないしな」

 「ザガムがそういうならいいけど。とりあえずそういうことだから、魔族領に戻る時は気をつけなさいよ」

 「分かった」


 情報について感謝し、呆れた顔で笑うユースリアと共に再びリビングへ戻る。

 

 「戻ったぞ」

 「おかえりなさい、なにか心配事でも?」

 「ううん、ファムちゃんが心配するようなことはないわ。メリーナ、私にもお茶をもらえる?」

 「はい、ユースリア様ぁ!」

 「それではわたくしめは仕事に戻ります」

 「ああ、ご苦労だった。俺も体を動かしてくるか、ミーヤなら暇しているだろ」

 「あ、私も!」

 「ファムはマイラ達と話をしていろ、今日の訓練は休みでいい」

 「はーい」


 何故かルーンベルが返事をし、俺は肩を竦めてから庭へと向かった。


 それにしても【霊王】か、言葉は立派でヤバイ感じがするが、どんなものだろうな。会うことはないだろうが。


 ◆ ◇ ◆


 「ふかふかベッドー!」

 「ああ、頑張って【王】になった甲斐があるね。それでも使用人がアンデッドばかりってのは少し寂しいかな」

 「うーん、いつも通りだし言うことを聞くからいいんじゃない? それよりイルミス、ザガムさんはどうやって探すの? 行方不明みたいじゃん」

 「慌てるなよキルミス。話によると、【天王】のマルクスさんと、【海王】ユースリアさんは友人らしいから居場所を知らないか聞いてみよう」

 「そうなんだー! んふふ、知らない間に友達を売っちゃう……楽しそー!」


 【霊王】となった女の子キルミスと、兄であるイルミスは元ザガムの屋敷へと引っ越していた。しかし使用人は誰もおらず、得意のアンデッド生成で賑やかしていたりする。

 そこへ、寝室を叩く音がした。


 「……なんだい?」


 招き入れると、アンデッドコボルトが入って来て身振り手振りで状況を説明。

 イルミスはふんふんと頷いた後、目を細めてベッドから飛び降りた。


 「どうしたの?」

 「お客様だ、それも特大のVIPさ」

 「VIP?」


 オウム返しに尋ねるキルミスに、不敵な笑いをしながらイルミスは手を差し出す。


 「大魔王様が訪問してきたよ」

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