その67:動き出す者達
「たいへんたいへんたいへんたいへんよ!」
「……変態?」
「その口、塞ぐわよベルちゃん?」
「ひぃ!?」
自領地に戻ったはずのユースリアがリビングに入ってくるなり大声で叫び、茶化したルーンベルが後頭部を掴まれる。
ユースリアが慌てることはそう多くないので、なにか緊急事態があったとみるべきか? とりあえずルーンベルの頭がとんでもないことになる前に声をかける。
「どうしたんだユースリア? 予定より早いんじゃないか?」
「それが……って、なんか人が多いわね」
「客だ」
「昨日引っ越したお祝いをしてくれたんですよ」
「へえ、ザガムにお客さんねえ」
ユースリアはマイラやニコラを見て目を丸くして驚く。
確かに俺は友人と言える人物は【天王】のマルクスくらいなのでそう思われても仕方がない。
「……誰? すっごい美人だけど……」
「ああ、ザガムさんのお姉さんですよ」
「姉……!? ザガムがイケメンなのは家系なのかしら……」
「あら、ありがとう。って、それよりファムちゃんザガムを借りるわね! 家族会議があるの!」
「もちろん大丈夫ですよ! お客様は妻の私が相手をするので」
「妻じゃないだ――」
「いいから、行くわよ! イザールも!」
「かしこまりました」
俺はファムの言葉を訂正しようとしたが、それより早くユースリアが襟首を掴んで引きずっていったのでそれは叶わなかった。
そのままイザールと共に俺の部屋に入ると、神妙な顔で俺に言う。
「……先日、【王】の緊急会議があったのよ」
「ふむ、緊急とは珍しいな。内容はなんだった? 俺の【王】剥奪あたりか?」
「さすがに勘がいいわね。もう少し後だと思ったけど、その通り。正式にザガムは【王】じゃなくなったわ」
「おお……些か早いと思うのですが……」
イザールがショックを受けた顔で呟くと、ユースリアはそのことについて続けてくれた。
「緊急に至った原因は恐らく新しい【王】が見つかったからよ。会議の時に紹介されたわ」
「なんと……」
「まあ、空きを作ると見栄えが悪いし、メギストスならそれくらいはするだろう。俺より強そうだったか?」
もし俺と同じくらいの強さがあれば、メギストス討伐が非常に苦しくなる。
他の【王】もタイマンで戦えば勝てるが、【樹王】メモリーなどは集団戦に強く、状態異常をまき散らすといった個別に強力な行動があるので、決して弱いわけではない。なのでどの程度かは知っておきたいところなのだ。
「戦っているところは見ていないから詳細は不明ね。双子の男の子と女の子の魔族で称号は【霊王】。二人で一人ってところね」
「ほう……」
「子供、ですか」
「ええ。それでもメギストス様が選んだと言っていたから、実力はあるんじゃない?」
「まあそうだろうな。だが、今の俺には関係ないだろう。【王】の座はいずれ剥奪されていただろうしな」
ファムを助けた段階で帰っていればこうはならなかったと思うが、俺はファムを鍛えると決めたからこれは必要経費だと考えている。
それにこれは好都合といえばそうだと思う。
「俺を見限ったならやりようもある。別に魔族領から追放されたわけじゃないから、適当な家を借りて暮らしてもいいのだからな。それに現状、確実に俺を倒せるやつはいない、あいつの城を攻めるのはどうとでもなる」
「そりゃあんたの実力は知っているから、それはそうだけど」
「ユースリア様の懸念は分かりますが、ザガム様が【王】を降ろされたとしても命を狙っている訳はありますまい?」
「まあ……」
イザールがそういうと困惑した顔で腕を組むユースリア。
「イザールの言う通り【王】が代わっただけだ。今後もやることは変わらない。別に【王】の座に執着している訳でもないしな」
「ザガムがそういうならいいけど。とりあえずそういうことだから、魔族領に戻る時は気をつけなさいよ」
「分かった」
情報について感謝し、呆れた顔で笑うユースリアと共に再びリビングへ戻る。
「戻ったぞ」
「おかえりなさい、なにか心配事でも?」
「ううん、ファムちゃんが心配するようなことはないわ。メリーナ、私にもお茶をもらえる?」
「はい、ユースリア様ぁ!」
「それではわたくしめは仕事に戻ります」
「ああ、ご苦労だった。俺も体を動かしてくるか、ミーヤなら暇しているだろ」
「あ、私も!」
「ファムはマイラ達と話をしていろ、今日の訓練は休みでいい」
「はーい」
何故かルーンベルが返事をし、俺は肩を竦めてから庭へと向かった。
それにしても【霊王】か、言葉は立派でヤバイ感じがするが、どんなものだろうな。会うことはないだろうが。
◆ ◇ ◆
「ふかふかベッドー!」
「ああ、頑張って【王】になった甲斐があるね。それでも使用人がアンデッドばかりってのは少し寂しいかな」
「うーん、いつも通りだし言うことを聞くからいいんじゃない? それよりイルミス、ザガムさんはどうやって探すの? 行方不明みたいじゃん」
「慌てるなよキルミス。話によると、【天王】のマルクスさんと、【海王】ユースリアさんは友人らしいから居場所を知らないか聞いてみよう」
「そうなんだー! んふふ、知らない間に友達を売っちゃう……楽しそー!」
【霊王】となった女の子キルミスと、兄であるイルミスは元ザガムの屋敷へと引っ越していた。しかし使用人は誰もおらず、得意のアンデッド生成で賑やかしていたりする。
そこへ、寝室を叩く音がした。
「……なんだい?」
招き入れると、アンデッドコボルトが入って来て身振り手振りで状況を説明。
イルミスはふんふんと頷いた後、目を細めてベッドから飛び降りた。
「どうしたの?」
「お客様だ、それも特大のVIPさ」
「VIP?」
オウム返しに尋ねるキルミスに、不敵な笑いをしながらイルミスは手を差し出す。
「大魔王様が訪問してきたよ」




