その65:宴の席で
「メリーナお姉さん美人ですね!」
「あらぁ、コギーちゃんは素直で嬉しいですねぇ。男を魅了する術を教えてあげたくなっちゃう♪」
「ごくり……メリーナさんマジで美人だよな……」
「もう! ザガート、デレデレしないの!」
「まあ、女の私達でもちょっと見ちゃうわよね」
「ニコラまで!」
「メリーナ、いい子だもんねえ」
宴が始まり、配膳に回ったメリーナはやはり人気だった。
サキュバスだから男には好かれるのは間違いないのだが、実は女性にも気に入られることも多い。
メリーナはメギストスのところに出入りしている姉サキュバスと違い、エッチなことは苦手でおっとりしている。どこに行ってもサキュバスという種族がついてまわり、身体を要求されることにうんざりしていたところ俺が拾ったというわけだ。
「ワシももう少し若かったらのう。しかし、料理も絶品じゃな」
「亡くなった奥さんに怒られますよ? 料理はそうですね、この焼き加減とソースが絶妙なステーキ……美味しいですわ」
「喜んでいただけて光栄です」
メリーナとクレフが赤ら顔でよく分からないことを言いながら、レティと料理を楽しんでいるとウチのコックが顔を出して来た。
「喜んでいただけて光栄です」
「「え!?」」
「わあ、カッコいいお兄さん!」
「ありがとうございます、可愛らしいお嬢さん。私はコックのルックネスと申します、今回のお食事をご用意させていただきました」
コックのルックネス。
竜人というハーフ種族は珍しく、小さい頃は苦労していた。
父ドラゴンは人間に倒され、人間の母と貧しい生活をしていた特殊な経歴を持つ。
頑張って働き、母親と美味しいものを食べた時に料理に目覚め、母親が亡くなってからは料理人として活動しているのである。
ちなみに母親と共に父親の復讐は済んでいるとか言っていたな。
人間の領地にある山に棲みつくドラゴンはたまに居る。ルックネスの父は普通に生活していたのだが、素材目当ての不当な討伐をする輩だったそうだ。
そして――
「い、イケメン……! あの彼女は居ますか!? ザガムさんからお給料どれくらいもらってます!?」
「あ、クーリ、抜け駆け!?」
「ニコラ! あんたはザガートがいるでしょ!」
「だってまだあいつ一人を選ばないんだもん!」
「あらあら、ニコラさんったら」
母親が美人だったのか、コックらしくないイケメンでもある。
「ですって、ザガート? どうするのー?」
「……お、美味しいなこのサラダ!!」
ザガートは何故か不敵な笑いをするマイラに詰め寄られていた。なんとなくメギストスを彷彿とさせるな。
それはともかくルックネス料理の腕は高いので、その内ハンバーグを会得してもらいたいものだと考えている。
「ザガムさん涎が出てますよ」
「む、すまないファム」
「ルックネスさんのお料理美味しいですものね!」
口元にナプキンを持ってきてくれたファムに礼を言う。ルックネスの料理は小さいころからずっと食べているから今更――
「……?」
「どうしたの? ロック鳥のもも肉美味しいわよ?」
「よくそんな大きいの持って食べれますね、ルーンベルさん」
「いや、なんでもない。ほら、コギーが呼んでいるぞ」
「具合悪かったら言ってくださいね?」
「ほうね、看病はしてあげるから。もぐもぐ……」
俺は二人の背中を見ながら酒を口にして、先ほどの違和感を思い返そうとする。
確かに小さいころから食べているが……そんなに昔だったか? 最近だったような……俺は150年――
「ザガム、ザガム!」
「ん? なんだ、スパイクか」
「なんだは酷いな、色々食材とか酒、持ってきたろう? それより、だ」
「顔を赤らめるな、怖いぞ」
「うるさいな!? ……その、メリーナさんは結婚していたり、彼氏がいたりするか聞きたくてな?」
「本人に聞けばいいだろう」
頬を掻きながらそんなことを言うスパイクに目を細めて返すが、
「聞けるか!? ……お前はいいよな、ファムちゃんにルーンベル、外の娘も
可愛かったし、メリーナさんレベルの美人とも暮らしているし……」
「メリーナとミーヤは使用人だぞ?」
「それだよ! お前、Eランク冒険者が使用人なんて雇ってるんだよ……聞けばメリーナさん達は口をそろえて『ザガム様に助けられた』って言うしよ」
「まあ、ウチは金があったからな。……親父はちゃらんぽらんだったが」
「貴族か……? というか珍しいな。嫌いか親父さん」
「? どうしてそう思った」
唐突に妙なことを聞いてくるスパイクを訝しむと、
「いやあ、声色で機嫌が悪い気がしたんが違ったか?」
「……まあ、間違ってはいないな」
メギストスは倒す相手だからな。
それにしても声色が、か。冷静に務めているつもりだが、最近騒がしいから緩んでいるのかもしれない。
「おっと話が逸れたが、メリーナさんの――」
「わたしがどうかしましたかぁ?」
「うおお!? い、いえ、なんでもありませんよ!」
「メリーナ、この男がお前のことを……」
「やめろぉ!?」
「あらぁ?」
スパイクが俺の口を塞ぎ、メリーナが口に手を当てて驚く。
だが、
「いけませんよぅ、スパイクさん。ザガム様に粗相をしては……」
「はい?」
メリーナの笑顔が増した。
この顔は……確か怒っているんじゃなかったか?
「いいんだメリーナ。スパイクは客だからな」
「……そうおっしゃるならぁ。ルックネスさん、お料理を運びましょうねぇ」
「そうですね、お話してみたいのはやまやまですが、これにて」
「ああ、ルックネス様!」
とりあえず窘めておき、元の気配に戻るイリーナ。
俺は嘆息して他の人間の様子を見ると、それなりに楽しそうにやっていた。
「あっち向いてホイ。うふふ、私の勝ちですね」
「レティお姉ちゃん強いねー! イザールお爺さんも」
「速さには自信がありまして」
「ば、ばかな……!? こんなおっとりした子とおじいさんに負けるなんて……!」
「が、頑張りましょうルーンベルさん!」
「酒をもっとくれー!」
「酒に逃げる気、ザガート!!」
……騒がしいのも、まあ、たまにはいいだろう。
◆ ◇ ◆
――ザガムたちが宴を行っているそのころ……
「んふふ、【王】だねえ、キルミス」
「そうだね、イルミス。これからどうする?」
「んー、二人で一人って扱いで【王】だからもっと箔が欲しいかな? 逃げた【冥王】を探して倒しちゃう、なんてどうかな?」
「あ。面白そう! ナンバー2とか言ってもそんなに強くないんでしょ?」
「【炎王】がそんなこと言ってたよね……さ、どこに居るかサーチしようか――」




