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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第四章:魔族領からの刺客

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その62:ファムの力


 「そういえば一応スパイクさんに住人が増えたことを言っておいた方が良くないですか?」

 「む、そうか。確かにプレゼントされたものとはいえ、知らずに来訪してきたら驚くな」

 「そういう気遣いはできるのにねえ」


 ルーンベルが呆れながら笑いながら俺の背中をバシバシと叩いてくる。

 程なくしてギルドに到着すると、久しぶりにクーリが……揉み手で擦り寄って来た。


 「ザ~ガ~ムさ~ん♪ 聞きましたよ、なにやらゴースト討伐で活躍してお屋敷を手に入れたらしいですねえ……?」

 「近づくな、苦手だと言ったろう」

 「またまた~、ファムちゃんにルーンベルさんを仲間に加えたスケコマシの癖に! そこにもう一人、わたしを加えてもらえませんかね!?」

 「断る。スパイクはどこだ?」

 「もうちょっと考えてくださいよ!? スカートをチラ見せした分のお礼は欲しいです!」

 「パンツを見せるな。興味ない」

 「色仕掛けは無理よ。諦めなさい」

 「うう……」


 崩れ落ちるクーリをルーンベルが隅っこに置きに行ってくれ、静かになった。きちんと役に立っているな。

 そんなやり取りをしていると、遠巻きに見ていた人間達がひそひそと話しているのが聞こえてきた。


 「国王様に覚えがいいらしいぞあいつ……」

 「屋敷をくれるくらいだもんな……Eランクとか言っているけど、どこかの貴族って話だ」

 「道楽か? でも最初は金を持っていなかったみたいだが……」

 「でもルーンベルを買ったみたいだぜ? 金はもっているんじゃないか……?」


 ふむ、いかんな……目立っている。

 まあ、今後は普通の依頼をこなしていくのと修行メインになるので問題ないだろう。

 クーリは役立たずになったのでスパイクについて他の誰かに聞くかと思っていると、


 「なんか騒がしいと思ったらザガムたちか、どうした?」

 

 尋ね人は向こうからやって来てくれたようだ。

 

 「依頼を受けに来たのだが、少しスパイクに話しておきたいことがあってな」

 「ここじゃ難しいか?」

 「少し離れれば」


 俺の言葉にスパイクが頷き、顎で壁際に行けと指示してきたので俺達はそれに続く。


 「で? 屋敷のことか?」

 「そうだな……姉に俺の場所がバレてな、元々いた使用人が押し掛けてきた」

 「なに……!?」


 酷く驚くスパイクに、ファムが慌てて両手を拳にして弁解をする。


 「あ、でもみんないい人達ですよ!! メイドさんも執事さんも」

 「そうねコックの料理は本当に美味しいし」

 「そ、そうなの……か?」


 二人の意見にスパイクが訝しむが、あいつらがいいやつなのは間違いないのでファムとルーンベルには後で美味しいもので買ってやろうと思う。


 「まあ、あの家はお前達にプレゼントされたものだから人が増えるのは構わないが……いいのか? ほら、夜の、な?」

 「ぐっすり寝ているが?」

 「ゆ、ゆっくり寝てますね!」

 「ああ、そう……すごいなお前……可愛い子が二人居て手を出さないのか……ま、そういうことだから気にしなくていい。今度酒でも持って祝いでもしよう、知り合いがいれば集めておけよ」

 「ふむ、ザガート達でも呼ぶか」

 「ああ、結構仲がいいよな。じゃあ、依頼頼むぜ」


 スパイクは疲れた顔をしてこの場を去って行った。ギルドマスターというのはやはりまとめ役。【王】と同じで疲れるのだろうな。


 「さて、それじゃ依頼を受けるとするか」

 「はーい!」


 ファムの元気な声と共に、俺達は依頼を受ける。

 何気にルーンベルのランクはCで、平均がぐっとあがった今日の修行相手は狼……レッドアイに決まった。


 ◆ ◇ ◆



 <ギルドマスター室>

 

 「……使用人が増えた、か。咄嗟に祝いを申し出たがバレていないだろうな? ザガムが冥王なら魔族だと思う。仲間をふやして王都を占領するつもりか?」

 

 スパイクは口の前で両手を組み、冷や汗を流す。

 ファムとの仲を進展させるつもりだったが、まさか仲間を呼ぶとは思わなかったと胸中で悩む。


 「まあ、いい。祝いの席でどんな奴らが来たか確認すればいいしな。冥王より強くは無いだろうが、ザガムを怒らせるわけにはいかんしな。……さっさと予定を立てておくか……」


 ◆ ◇ ◆


 「グァァァァ!」

 「ガウゥルルル!!」

 「ひゃあ!?」

 「レッドアイは連携を取ってくるから、挟まれないように動くんだ。ユースリアを押し返したあの力を見せてみろ」

 「そ、そう言われてもー!」


 それでも今のファムが一人で二匹を相手に捌けているのはちょっとした進歩なので特に叱る必要は無い。

 ジャイアントアント、スィートビーといった昆虫系と違い、脳の働きが活発な動物系の方が強いのは明白なのだから。

 しかし不満があるとすれば、ユースリアを吹き飛ばしたあの力を使ってもらいたいところだ。


 「ほっ……! やっ!」

 「キャン!? ガウ!」

 「やぁん!」


 攻撃は当たるが致命傷まではいかないか。うまく凌いでいるが、まだファムが不利だな。


 「一、二……五撃はいったか。まあまあ悪くないな、そろそろ助けに入るぞ」

 「その前に……ザガム、あの使用人たちってやっぱり?」

 「ん? ああ、お前になら言えるか。魔族だぞ、人型だけを厳選して引き入れた」

 「へえ、人間と変わらないわね。あのヴァンパイアもそうだったけど」


 ルーンベルが感心しているところに尋ねてみる。


 「なにか気になることでもあるのか?」

 「ないわ。むしろ魔族なのに普通の人間と同じだなーって」

 「ふむ、そんなものだろう?」

 「どうかしら……魔族は悪い生き物だってあそこでは叩き込まれ……」

 「あそこ?」

 「あ、ううん……なんでもないわ。そ、それより試したいことがあるんだけど!」


 なにかを言いかけたルーンベルが焦りながら手を振り、そんなことを言う。


 「なんだ?」

 「ファムちゃんのことなんだけど、ちょっと気づいたことがあって。耳を貸して……」

 「?」


 ルーンベルとは頭二つ分くらい身長差があるので屈むと、急にルーンベルが首に腕を絡ませて抱き着いて来た。


 「ファム~♪ ザガムとキスしようかなって思うんだけど!」

 「え!? だ、ダメーー!! 邪魔しないで!」

 「ギャワン!?」

 「きゃいーん!」

 「……!」


 その瞬間、襲い掛かるレッドアイ二匹をただの裏拳で殴りつけ、木に叩きつけた。

 この前と同じく物凄い力を感じ――


 「ぐふ……!?」

 「油断できないですね……!!」


 ――る間もなくルーンベルが崩れ落ちた。

 一体どういうことだ……? 

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