最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ～魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです～

第四章：魔族領からの刺客

その６０：ガチで怒る義姉

　「ご家族に紹介していただけるなんて、嬉しいです……」

　「いい気分になっているところ悪いけど、なんか空気が重いわよ？」

　ルーンベルの言う通り、ファムを勇者と紹介したところでユースリアの顔が赤くなり、イザールの顔が青くなっていた。

　「ちょっと来なさい……！！」

　「ザガム様、詳しく聞かせていただきますぞ！？」

　「なんだ、さっきから」

　俺は再びユースリアとイザールに運ばれて別室へ。

　「はい、座る！」

　「落ち着かないな」

　「誰のせいよ！？　というか私をぶっ飛ばせた理由が分かったわありがとう！」

　「落ち着け」

　正座させられた俺がため息を吐くと、ユースリアが俺の頭をはたいて激高し、続いてイザールが冷や汗をかきながら質問を投げて来た。

　「その……ザガム様は冥王ですぞ？　勇者の嫁は些かまずいのでは、と……」

　「大魔王を倒すための手段だ。鍛えればモノになるかもしれんと思っている。なに、用が無くなって不利益があれば始末するから安心しろ」

　「この馬鹿！」

　「うぐ……なにをする」

　計画を離した瞬間、今度は拳で顎を下から抉られるように殴られ、抗議の声を上げるとユースリアが今までに見たことがないくらいの怒りで言う。

　「勇者は置いといて……あんた、あの可愛い子を用が済んだらポイするっていうの？」

　「そうだな、恐らく人間の領地を奪う段階になれば牙をむくだろう。その前に倒さねばならない。大魔王を倒せる相手だ、闇討ちも辞さない」

　「……あんたのことがめちゃくちゃ好きだって顔に書いているけど、それでも？」

　「好意を持たれているのはなんとなくわかるが、障害になるなら排除も――」

　「人でなしか！！」

　「痛いじゃないか」

　流石に【王】ともなれば攻撃力が高いので、さっきからボコボコ殴られていれば俺でも痛い。だが、その手は止まることなく叩きつけられていた。

　「感情が薄いとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ！　ザガム、ファムちゃんがもし他の誰かに殺されたらどう思うの？」

　「どう思うかだと？」

　「そうよ。まあ、あんたのことだから気にしないんでしょうけど」

　俺が殺しても誰かが殺しても同じこと……そう思った瞬間、ファムの笑顔が頭に浮かぶ。

　「……それは、殺したやつを殺すかもしれないな」

　「え？　そ、そこは、そう思うの？　なんでよ、用が無くなったら殺すんでしょ……？」

　何故……何故だ？

　勇者は居ない方が魔族にとってはいいことだ。利用できるだけ利用するのは魔族ならあり得ること。

　その瞬間――

　「……！？」

　また、目の前で女性が死ぬ光景が呼び起されて頭痛が走る。

　死ぬ……ファムがか？

　（ザガムさん！）

　ファムの満面の笑みが浮かぶ。

　それは……

　「それは……嫌だからか」

　「……ザガム様」

　最近の生活はあの騒がしい娘と共にあった。恐らく俺の中でそれは楽しかったのかもしれない。

　逆に言えば、どうしてこうあっさりと殺そうと考えたのか？　

　ああ、言われて気づくのもどうかしているが、俺はファムが死ぬのは嫌だと思っているよ……う、だ。くっ……頭が、痛い……

　その直後、扉がノックされて向こう側から声が聞こえてくる。

　「あ、あの、すみません入ってもいいですか？」

　「ええ、どうぞ」

　ファムが沈んだ顔で入ってくる。

　ユースリアの前に立つと、スカートのすそをぎゅっと握ってから口を開いた。

　「……喧嘩しているみたいだったから気になったんですけど、私がお嫁さん候補なのは良くないですか？　それだったら勇者として頑張るだけにします……だから喧嘩しないでください……」

　そういうファムを見てなんとなく心苦しく感じる。声をかけようかと考えたが、その前にユースリアがファムを抱きしめていた。

　「可愛い……！！　違うのよファムちゃん！！　この唐変木がつまらないこと言うからお説教してたの！　きっとこの悪魔の手から守ってあげるわ」

　「おい、ファムが勇者だからと――」

　「ザガム様、ここはユースリア様のおっしゃる通りかと……勇者様が嫁とは驚きましたが、この健気な様子はザガム様を好いている一人の娘。このイザール、祝福をしましょう！」

　おかしい、味方が居ないだと……？

　勇者が嫁はまずいとか言いながら二人とも俺を悪者してきた。すると、ファムが目じりに涙を浮かべたままパッと笑顔でユースリアを抱き返す。

　「あ、そうだったんですか！　良かったぁ。私、ザガムさんのためならなんでもでできるくらい好きなんで、ご家族にダメって言われたらどうしようって思ってました」

　「うんうん、健気ねえ。ザガム、ファムちゃんを不幸にしたら許さないわよ？　可愛い妹が欲しかったのよねえ。ファムちゃん、もう少しこの朴念仁に話があるからとなりで待ってて？

　「分かりました！　ふふ、認めてもらっちゃった」

　「……」

　そう言って俺に鋭い目を向けたユースリアはファムを外へ出し、ため息を吐いてから向き直った。

　「はあ……可愛い。じゃなくて、勇者と冥王のカップルってちょっと驚いたけど、普通にいい子ね」

　「まだカップルじゃないぞ」

　「でも殺されたくないんでしょ？　それとも、大魔王様を倒されないよう今のうちに私が絞め殺してもいいかしら？」

　「それは……困る。手段が減る」

　「でも魔族は長寿だし、次の勇者を待ってもいいんじゃない？」

　……確かに。だが、俺は答える。

　「俺はあいつを鍛えると言った。それを覆すわけにはいかない」

　「ふうん。ま、とりあえずそれでいいか。まあ、魔族と人間が結婚した例はあるし、冥王と勇者ってのも面白いかもね。あんたの性格が治るかもしれないし」

　「そうですな……ザガム様はお強いし、部下には優しいですが、急に冷酷になられたり、興味がないものは切り捨てる傾向にありますからなあ。まあ子供が出来れば変わるともいいますし」

　「案外、勇者と冥王の子が大魔王様を倒すかもね！」

　好き勝手なことを言いながらはしゃぐ二人に俺は渋い顔をしてその様子を見ていた。そこでイザールが手を打って俺に向く。

　「おお、そうでした。では、ここを拠点にするということでわたくしめはここに引っ越してきましょう」

　「まて、どうしてそうなる」

　「冥王様が戻られないなら屋敷は次の【王】のものになります。使用人は引き続き使ってもらえるでしょうが、ザガム様だから仕えていたということもあります。どうか許可をいただけないでしょうか」

　「……人間の町で過ごすのは結構難しいぞ……」

　「慣れよ。私は帰るけど、たまに様子を見に来るから。ファムちゃんが泣いてたら許さないからね？」

　「むう」

　場所がばれている以上押しかけてくる可能性は高い。

　しかし、イザール以外の者が来るとは思えないので許可した。ファムとルーンベルに話すと、部屋も多いし良いのではとのことだった。

　そして――