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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第三章:堕落した聖女

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その49:ヴァンパイアと老婆

 「さあて、あの野郎を追いつくためにさっさとやるわよ。直接戦闘は任せたわ」

 『ぐぁぁぁぁ!!』

 「ふん。それは構わないが、あのレイスの数なんとかなるか? 抜けた方が早い気がするぞ」

 

 背中合わせになっているルーンベルに提案を投げかけると、


 「馬鹿言わないでよ、こいつらを放置したら冒険者に向かう可能性があるでしょ?  蹴散らしておくわよ」


 呆れた声でそう返され、意外と冷静に周囲を見ていると思う。

 俺としては別に人間がどうなっても構わないのだが、こいつが見ているところで見捨てると後がうるさいか。ファムも不貞腐れるかもしれない。

 

 「うう……」

 「ああう……」

 「そして冒険者に動けるものは居ない、か」

 「そっちに期待は無理よ。さって、この数はチマチマしていても仕方が無いから一気に浄化する。援護よろしく!」

 「レイスはどうにもならんぞ」

 「構わないわ、詠唱中は近づけないしね」


 そう言うといつの間に描いたのか分からない魔法陣が青白く光り出し、左手の上にある書物が自動的にページをめくり出す。


 「【死してなお現世に留まる魂よ、善も悪もなくあるべき世界へ我が還そう。行いと償いは全て一つになり巡りゆく――】」

 「これは……」


 メギストスの授業で聞いたことがある、これは【聖言】という司祭などが使う言葉と魔法の融合技だ。

 しかし、これは今の聖典とやらでは使われておらず、旧時代の魔法だと言っていた気がする。

 俺はヴァンパイア達を片手間に蹴散らしながら遺物とまで称されるその光景を目にして少し驚いていた。


 「【――迷いし者達よかの地へとあれ】<アセンション>!」

 

 ルーンベルの魔法が完成した瞬間、昼間かと見間違うほどの光が魔法陣を中心に広がっていき、村を包み込むように広がっていく。

 

 『アアァァァァァ……!?』

 『グォォォォ……』

 『あ、りが、とう……』


 ぼやけた影だったレイスから人の形に戻り、見かけたことのある村人たちが穏やかな顔で姿が掻き消えていく。

 さらに余波は相当あったのか、ヴァンパイア達も光を浴びて灰になって崩れ去った。


 「凄いな、俺が必要とは思えなかったぞ」

 「はあ……はあ……この魔法、今の私だとこれだけに集中しないといけないし、魔力もかなり持っていかれるから、殆んど無防備なの。だから周りに誰かがいないと使えない大技よ」

 「ん? では何故、村に来た時に使わなかった」

 「ま、色々あって見られたくない魔法なのよ」

 「なるほど【聖言】はやはり聖女見習いが使う訳にはいかないのか」


 そう言うと膝に手を当てて息を整えるルーンベルがきょとんとした顔で俺を見た。

 

 「あんた、【聖言】を知っているの……? 何者よ、今じゃ「外法典」扱い。知っている人が居なくも無いけど、お爺ちゃんお婆ちゃんクラスよ?」

 「昔ちょっとな。とりあえず妨害は居なくなった、これでファムを追える。礼は帰ってからさせてもらうぞ」

 「ちょっと待ちなさい、私も行くわよ! あいつには聞きたいこともあるし」

 「疲弊した体で魔族とやり合うのはきついぞ?」

 「あんただってEランクでしょうが、一人より二人! 目と耳と鼻を削ぎ落してやるわ!」


 物騒なことを言うルーンベルはフラフラしながら歩き出した。来るなと言っても来そうだし、礼をせねばならんので死なれても困るな。


 「急ぐぞ、喋るなよ」

 「は? え? あひゃん!?」


 俺はルーンベルを抱えると、そのままノータイムで村の外を目指す。俺が本気で走れば簡単に追いつけるだろう。


 「は、速っ……。あいつの居場所分かる? 大丈夫なの?」

 「大丈夫だ、ファムの場所が分かるから問題ない」

 「分かるんだ……ご馳走様……」

 

 何を食べていたのかわからんが、疲れた顔でため息を吐くルーンベルに首を傾げつつ意外と遠くにあるファムの気配を辿る――



 ◆ ◇ ◆


 村から数キロ離れた場所……

 そこにある洞窟の中でアムレートとダリーニャが並びファムを見下ろしていた。


 『くく……冒険者は私の能力アップのため沈黙させておいたが、勇者が手に入ればあのような雑魚にもう用はない。ダリーニャよ、よくやってくれた』

 「……」


 ザガムとファムを招いていた老婆、ダリーニャがエプロンの裾を握りアムレートの言葉に俯く。


 『お前の薬草知識は自慢していいぞ、少しずつ毒が回るような食事など誰も気づくまい。さて、早速――』


 アムレートが膝をついてファムの鎧を外して服を破り始めると、背後で俯いていたダリーニャが静かに口を開く。


 「その子はそんなに重要なのですか……?」

 『そうだ。勇者の魔力を吸収することで魔族の力は増大するとされている。かの大魔王様も何人目かの勇者を殺して食らったという。【王】になるほどの力があればお前が若返らせることができるかもしれんし、娘を蘇らせられるかもしれない。かの【冥王】には魂を操る力があるそうだからな』

 「……私は」

 

 ダリーニャが呟く。

 アムレートはそんな彼女に目を向けてから片目を瞑り、訝しむ。なにか口にしようとしたが、それを遮るように喋る。


 「私は命惜しさにあなたに加担しました……だけど、やはりそれは間違いだと、気づきました……いえ、気づかされました。たとえ私の娘が蘇ったとしても、その子を犠牲にしたことを知れば、きっと私を許さないでしょう……!」

 『お前は……!』


 ダリーニャがエプロンのポケットから取り出したのは冒険者の落としたダガーだった。しゃがみ込んでいるアムレートへと振り下ろす。


 だが――


 「ああ……!?」

 『馬鹿が……! 大人しく従っていれば死なずに済んだものを……。仕方がない、死ね……!』

 「……っ!」


 爪を伸ばすアムレートを見たダリーニャはぎゅっと目を瞑り覚悟を決めるが、その手は彼女には届かなかった。

 爪が触れる直後、暗闇から飛んできた石にへし折られたからだ。そしてそこには、


 『貴様等!? どうしてここが……!』

 「それを知ったところでどうする。ここがお前の墓場となるのだからな」

 「あばばばば……地面が空が……おぇぇぇぇ……」


 ザガムとルーンベルが到着していた。

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