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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第三章:堕落した聖女

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その48:黒幕と【王】


 激昂しながら走って来たルーンベルに声をかけると、訝し気な顔で俺を睨みながら口を開く。


 「無事だったかって……あんたの思惑が外れて困っているんじゃないの?」

 「なにを言っている?」

 「だって冒険者が全滅している中あんただけぴんぴんしてるし、犯人でしょ?」

 「お前だってぴんぴんしているじゃないか。それに犯人じゃないぞ」

 「ああ、もう! ああいえばこういう!」

 

 何故か地団駄を踏むルーンベルに首を傾げていると、彼女に向かって魔法が飛んでくるのが見えたので即座に動いて抱きかかえる。


 「ひゃあん!? くっ……ここまでか……このままこのイケメンに捕まってここでは語れないようなことをされるのね!」

 「よく見ろ、お前に魔法が飛んできていたんだ」


 何故か抵抗しないルーンベルをよそに、俺は魔法が放たれた方に目を細めて声を出すと、暗闇からスッと姿を現す人間。


 「チッ、元気な人間が残ったのか……一体どうして」

 「あ! アムレート、司祭!」

 「お前か、ファムをどこへやった?」

 「それを教えると思うか?」

 

 アムレートは柔和な笑顔を消して邪悪な笑みを浮かべて魔力を収束させていく。直後、村人が俺達を取り囲む。


 「よっと。村人の目、正気じゃないわね」

 「いや、正気どころじゃない。……こいつらは全員死んでいる、ゾンビというやつだ」

 「え!? ゾンビにてはキレイじゃない!? 私が知っているのはもっとこう腐っているでしょ?」

 「そうでもない、魔族の中には生きているように殺せる種族がいる」

 「ほう……知っているのか、私を」

 「ああ、貴様はヴァンパイアだな?」


 俺が腕を組んだままそう言うと、アムレートは顔の皮膚をはぎ取り正体を現す。青白い顔に二本の犬歯に少し尖った耳はまぎれもなくヴァンパイアだ。

 アムレートは笑いを止めて今度は俺に対し目を細めて口を開く。


 「……なにかを探っていると思っていたが、冒険者の中でも腕利きのようだな」

 「いや、Eランクだ」

 「最低ランクだと……どういうことだ? ふん、まあいい。いつから気づいていた?」

 「最初からよ!」


 ルーンベルが得意気にファムより大きい胸を張るが、俺は眉を顰めて言ってやる。


 「知っていたならスパイクに教えてやれば良かったんだがな?」

 「最初からは嘘よ!」


 何故得意気にと思っていると、話を続ける。


 「……ゴーストの中に村人の顔があると思ったのは二日目あたりだったのよ、食事を村人から貰わなかったのはたまたまだけど。あ、卑猥な意味じゃないわよ」

 「……? よく分からんがお前も気づいていたということか。聖女見習いというのもやるものだ。そう、ゴーストの中に数人、村の人間の姿があったから顔を見ていたんだ」

 「なかなか見ているものだな、人間も。魔物と組み合わせて襲っていたが、気づいている奴がいるとは思わなかった」


 そこで再びルーンベルが指を突き付けてから訝しむように尋ねる。


 「それで、魔族のあんたがなんでこの村で司祭をやってるのよ? まあ、だいたい分かるけど」

 「私の目的は力をつけることだ。それには人間から魔力を回収するのが一番手っ取り早いからな」

 「国でも乗っ取ろうっての? 人間を舐めて貰っちゃ困るわよ、ここでこの人達が死んでも私は生き残っている……国を挙げて抹殺するわ」

 「殺すな。スパイク達はまだ死んでいない」

 「え、そうなの?」

 「馬鹿め、この村から逃がすと思うか? また別の町で少しずつ力を蓄えていくだけだ。勇者の魔力はさぞや美味で強固なものだろうしな」


 ……こいつ、知っていたのか。

 確かに吸収型の魔物ならそういうことも可能だろう。しかしまだ成長途中のファムを吸収しても大した力にはならないはず。

 そう胸中で考えていると、アムレートは口元を歪めてから、驚愕の言葉を口にした。


 「今、魔族領では【王】の枠が空いているらしい。私は力をつけてその椅子を狙っている」

 「……!」

 「魔族の王って……六王? 一人足りないなんて聞いたことないけど?」


 嫁探しの書置きをしたがそう上手くはいかないか。メギストスは俺を除名処分にしたようだな。

 俺の目的までは判明していないようだが、俺がなにかをするために飛び出したことには感づいたか?


 「つい最近のことらしいよ。魔族間の情報は伝達が早いのだが、今から死んでいくお前達にはつまらない話だろう。では、私はこれで……若き勇者をいただかねばならないのでね」

 「む、ファム。それに――」

 「……」


 俺達が世話になった老婆がファムを抱えて姿を見せ、最初から狙っていたのかと胸中で舌打ちをする。


 「動くなよ? この娘がちょっと早く死ぬことになるぞ」


 そう言いながら、抱きかかえたファムの首筋を舐めながら笑うと一歩下がる。


 「待ちなさいこのロリコン! ヴァンパイアならこのルーンベルが灰にしてやるわ」

 「うるさい女だ、見た目は悪くないが性格が最悪すぎる」

 「ロリコンとはなんだ?」

 「えっとね……」

 「言わんでいい! ……死ね!」


 アムレートが怒りの表情を露わにしながら指を鳴らすと、ゾンビ……この場合はヴァンパイアの眷属とレイスと化した霊が一斉に襲い掛かってきた。


 「待ちなさい! ファムちゃんは置いて行きなさいよ! ザガムだっけ、追うわよ!」

 「無論だ、少しでも隙があれば救出できる。俺はヴァンパイアの使徒を蹴散らす、お前はレイスをお願いできるか?」

 「承知したわ。あの子が処女奪われて性奴隷にされるまえにね! というかEランクだけどヴァンパイアの相手はきつくない?」

 「いちいち卑猥なことを言わなくていい。まあ、問題ない」

 『グゲラ……!?』


 ルーンベルに噛みつこうとしたヴァンパイアに拳を叩き込んで吹き飛ばし、余波で数体が巻き込まれる。


 「こういうことだ。時間が惜しい、一気に行くぞ」

 「……ひゅう、やるぅ。オッケー、そっちは任せたわ。レイスは私が――」


 そう言い切ったルーンベルはぺろりと舌を出しながら不敵に笑い、いつの間にか手にしていた書物を広げて文言を唱え始めた。

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