その39:不穏な空気
「終わったぞ」
「おかえりなさーい! ファムちゃんもお疲れ様です!」
「ありがとうございます! 報酬は現地で受け取ったので、報告だけです!」
「はい、完了っと。明日は早く来て魔物討伐の依頼を受けられるといいですねえ」
家屋の修復作業をこなしてクーリに報告する。
全力でやると簡単に修復できるため皆に合わせてゆっくりやっていたがまどろっこしいのでストレスが溜まってしまった。これを解消するには食事しかない。
「ファム、飯を食いに行くぞ。お前も行くんだったか?」
「あ、そうですね! クーリさんのお仕事はどうです?」
「あら、ちゃんと覚えててくれたんですね。お姉さん嬉しい! ……そうですね、帰りましょうか」
「いいんですか!?」
ファムが驚愕の声を上げるが、クーリは少しだけ真面目な顔でギルドを見渡しながら口を開いた。
「実を言うと、ほぼ依頼から帰ってきているんで受付はそれほど必要じゃないんですよ。珍しく依頼に失敗した人も多くて」
「失敗しているんですか? 私みたいに?」
「まあファムちゃんはアレでしたから仕方が無いとして、適正ランクを受けているのにです。達成率100とはいかないのが冒険者ですがね。それじゃ、オーラムおあとよろしく!」
「はいはい……まったく、押し付けてくるんだからさ」
オーラムが不貞腐れながら別パーティの相手を始めたところでクーリが作業着を脱いで俺達に並んだのでそのままギルドを後にする。
レストランへ向かう道すがら、ファムがクーリへ依頼の件を口にした。
「さっきの依頼失敗が多いって話ですけど、どんな依頼で起こっているんですか?」
「そんなに難しくない、薬草の採取とかここから北にある村に現れる魔物を退治してくれってものばかりなんです。でも、ゴーストに襲われて村に近づけなかったりするみたいなんです」
「ゴースト……」
「ええ、まあ以前から北の村付近は出やすいといわれているんですけど、ここ何日かは特に目撃が多いですね」
「……」
……北といえば俺達がデーモンサーモンを狩りに行った河原がちょうど北にあたる。あの辺に村があるというのは知らないが、その範囲に入っているみていいだろう。
「そういえば私達も見ましたよ。ザガムさんが追い払ってくれましたけど」
「ありゃ、あの河原も出るんですか……注意喚起をしないといけませんね。……というかどうやって追い払ったんです?」
「気にするな」
「気にしますよー、アレは僧侶的な力を持った人しか還せないですし、斬ることも不可能。火魔法は少し効果がありますけど、基本的に撤退一択ですもん」
「松明で少し脅した」
「それだけ!?」
「まあな。それより対策はないのか?」
俺は話題を変えるためクーリにそう尋ねると、彼女は肩を竦めて口を開く。
「いつもなら僧侶を連れているパーティや、ルーンベルさんに臨時パーティ加入依頼をお願いしてたんですけど、ルーンベルさん……ほら、奴隷になっちゃったから……」
「ああ」
あいつか、と俺は昼間に出会った自称聖女見習いを思い出す。確かに聖女見習いであればゴーストを追い払うくらいはできるだろうな。
そういえば俺がギルドに来てすぐくらいの時、羽振りよく酒を奢っていたのを見たな。
「あの人ルーンベルさんって言うんですね。私達が行った奴隷商人のお店に居ましたよ」
「賭博の借金はどうしようもないから私達でも助けられないの。誰かいい人が買ってくれるといいんだけど、一か月経っても売れなかったら奴隷紋を入れられて他国へ安く売られちゃうわ。ま、女の子の奴隷なんてだいたい、ね?」
「ひええ……」
「あまり脅すな。ファムは賭け事などしないだろうし、借金も作らん」
俺がそう言ってクーリを窘めると、両手を頭の後ろで組んでから口を尖らせる。
「ちぇー、守ってあげてる感出しますよねー。ラブラブじゃないですか^」
「えへー」
「だらしない顔をするな。それになんだ、そのブラブラというのは」
「なんか卑猥!?」
「うるさいぞ」
と、うるさい女を引き連れて行ったレストランはやはりうるさい食事となり、俺のストレスは解消されなかった。
……それにしてもゴーストにやられる、か。死者は居ないようだが、面倒だな。ファムの修行に響く、北の村とやらの近くへ行く依頼は避けるとしよう。
そう考え、とりあえず依頼は家屋が直るまでをそれで費やし、ファムの体力を上げる手助けとしようと翌日も依頼を受ける。
「……はあ。ねえ、わたしを買ってくれない? 処女は本当だし、好きにしていいわ。それに賭博場のイカサマを暴いたらお金は帰ってくるから」
休憩中、やはり外で正座をさせれていた聖女見習いが水を飲む俺達に声をかけてきた。その言葉にファムが怒りながら返す。
「え、えっちなのはダメです! それにザガムさんは私と結婚するんです!」
「言い切るな。俺は女性が苦手でな、そういうのは結婚してからと決めている」
「真面目か!? 聖女見習いの私が淫乱みたいじゃない!?」
「そうだな」
「取りつく島もないわね。このままだと確実に他国行きだから、せめてあんたみたいなイケメンに抱かれるならいいかなと思ったんだけどね」
「ルーンベルさん……」
「あ、名前知ってるのね」
「おーい、そろそろ始めるぞ」
「分かった」
「重いものは任せてください! それじゃルーンベルさん、また!」
「……ふん」
と、三日ほどそんな感じで依頼をこなして奴隷商人の店はキレイに修復できた。
そして久しぶりに魔物討伐の依頼をするためギルドを訪れると、クーリが渋い顔で俺達に言う。
「いやあ、まいったわ。ゴーストが蔓延しすぎて、依頼がちょっーと偏ってるんだけど、北の森の採集依頼、やる?」




