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最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~  作者: 八神 凪
第二章:勇者

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その21:ファム


 「ひっく……ぐす……」

 「……」


 とりあえず移動してソファに座らせると、途端にファムは大泣きを始めて俺は立ち去る機会を失い泣き止むのを待っていた。

 本人としては泣きたくないのだろう、歯を食いしばって耐えているが本能的に心が折れてしまったのかもしれない。


 それにしても、だ。


 歴代でも弱い勇者が居なかったわけじゃない。女の勇者も幾度となく現れたこともあると聞いている。

 ただ、歴代でも弱い勇者の数はあまり多くなかったらしいので今回のファムは相当ハズレということになる。

 なのでガッカリはしたが今回は俺の運が無かったと諦めるしかない。


 そう考えたところでようやくファムが泣き止み口を開く。


 「ふぐ……ご、ごめんなさいザガムさん……依頼、行っていいですから……」

 「……」

 

 そういってくれるのは物凄く助かるが、このまま放置していいものかどうか。

 ユースリアには『女の子には優しくしなさい』と言われているが、俺は女性が苦手なので、今も少し落ち着かない。しかしここで放置すれば後でユースリアにバレた時物凄く怒られるだろう。


 「がっかりしましたよね……私、勇者なのに魔物一匹倒したことがないんですよ……」

 「お前は最初から強かったわけじゃなかったんだな」


 俺が適当な返事を返すと、ファムは小さく頷いてから言葉を続ける。声はかすれているが少しは落ち着いたようだ。


 「はい……神託を受ける前はここから遠い場所の田舎にある村に住んでいました。戦いなんて全然したこともありません。なのにある日突然、どこからか声が聞こえ、私は勇者に任命された、と言われました。それでいつの間にか胸元に勇者の印が出てて……」

 「おい、年頃の娘がそんなところを見せるんじゃない」

 「あ、そ、そうですね……」


 ちょうど左胸の上、鎖骨の下に少しだけなにかの『刻印』のようなものが見えたが、それ以外のものも見えそうになったので俺は視線を反らす。

 ファムは今頃気づいたのか恥ずかしそうに胸元を隠して身を縮こませる。その様子を見て、俺は疑問に思ったことを口にする。


 「……そういえばあのBランク冒険者はともかく、オーラムもお前に対して随分な言動をしていたな。ただの村娘がいきなり戦えるはずもない、それを弱いだの言いがかりをつけているのはどうしてだ?」

 「それは……恐らく国王様のせい……かもしれません」


 歯切れ悪く周囲を気にしながら小声で話すファムに、俺は少し顔を前に出して聞き返す。


 「国王の、とはどういうことだ」

 「私が勇者としての神託を受けた後、三日ほど経ったころでしょうか。国王様の兵隊さんが村に来たんです。そのまま謁見をするように言われて旅立ちました。すぐにこの王都に到着した私は国王様の御前で戦いを強いられ――」


 そこで顔を歪めて言葉が詰まるのを見て、どうやら負けたということのようだ。


 「……負けたんです。すると国王様は『勇者がこんな雑魚では話にならん』と吐き捨て、大魔王を倒すため城を出て行けと……」

 「……」

 「その時に銅の剣と50ルピを渡されたんですけど、これじゃ村に帰ることもできず、仕方なく冒険者として依頼をしてお金を稼ごうとしたら、勇者だからと簡単な依頼はさせてもらえないとギルドの人が……。多分、国王様がそう言えと指示しているのだと思います。たまに申し訳なさそうにする人もいるので……って、どうしたんですか!? 険しいとかそういうものを越えた顔をしていますけど!?」


 そこで俺はソファから立ち上がる。

 勢いあまってテーブルを転がしてしまったので、ファムが驚き、周囲の人間も何事かと視線を向けてくる。


 が、そんなことはどうでもいい。


 「行くぞ」


 俺はファムの手を掴んで立ち上がらせると、そのまま引きずるように歩いていギルドを後にする。

 

 「は? え!? ちょ、ちょっとどこに行くんですか!?」

 「決まっている、城だ」

 「えええええええ!?」


 狼狽えるファムは無視して大通りを突き進む。

 久しぶりに……怒りを覚える出来事だと思いながら――




 ◆ ◇ ◆



 「ねぇん、メギストス様ぁ。どうして冥王を探させないのぉ? 居場所、本当は知っているんでしょ?」

 「ん? ……まあね、私を誰だと思っているんだい?」

 「んー、めちゃ強いおっさん♪」

 「ははは、言ってくれるね。そういうところも好きさ」

 「はぐらかした? メギストス様、あれだけ突っかかられて命も狙われているのに彼を殺さないのはぁ、やっぱり義理でも息子だからぁ?」


 サキュバスにそう言われてメギストスは肩を竦めてため息を吐くと、ベッドから出て窓の外を見ながら小さく呟く。


 「息子だからとかそういう感情はないんだ、これがね。ただ、あそこまで強くなったのは賞賛すべきだし、折角面白いおもちゃが出来たんだ、簡単に壊したら面白くないだろう?」


 振り向いたその顔はぞっとするような笑みで、思わずサキュバスは布団を手繰り寄せてから頷く。


 「……そうねぇ」

 「ザガムは人間と触れ合う機会が無かったから様子見ってところだ。人間に対してどう思うのか? なにをどう選ぶのか、私はそれが知りたくて放置しているのだよ」

 「そ、そうですかぁ……あ、きょ、今日はこれで帰りますねぇ!」


 目を細めて笑うメギストスに怯え、サキュバスはそそくさと部屋を出ていき、特に追いかけるということもせず、もう一度窓に目を向け、青く輝く月に向かって語るように話す。


 「ザガム、お前の目的はだいたいわかる。が、あえて踊ってもらう。……ああ、せめて嫁を連れて帰って欲しいものだな、からかって遊べるし。くく……くはははは! ……あがっ!? あ、顎が……誰か!? アーシャちゃん待ってぇぇぇ!」


 メギストスはザガムを追いかけない。

 何もかも、自分の手のひらの上だと言わんばかりに――

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