その142:増長
――大魔王城――
『む、ゼゼリックの反応が消えた……?』
『なんと、あやつめ……ひとりで十分と意気揚々出て行った割に情けない』
『向こうも総力戦というわけか。ヴァラキオンとゼゼリックを失ったのは痛いが、【黒武王】は6人いる。全員でかかれ』
『ハッ!』
『俺の邪魔をする奴らが居るとはな。150年前に思い知らせてやったことを……思い出させてやろう。ここまで辿り着くことができればな。くくく……』
◆ ◇ ◆
「ヴァルカンさんとワイルドロックさん凄いですねー」
「地上戦はあいつらに任せておけばいい。空は俺達で制圧するぞ」
上陸が進む中、少しずつ敵対勢力を蹴散らしていく我らが魔族軍。
ヴァルカンがゼゼリックとやらをあっという間に倒し、高揚しているのが要因だ。
正直な話、ゼゼリック程度の相手がいきがってもこちらの【王】の実力と比べて戦力はかなり低い。相性の差くらいで不利がつくくらいだろう。
「くくく、悲鳴を上げる暇もなく消え去るがいい……!」
「ぴぎゃぁん!」
「ノリノリねー、イスラ」
「まあ、魔法生物なら気兼ねなく攻撃できますしね」
火球と魔法で地上を蹂躙するイスラを見て苦笑するルーンベルとファム。
そこへ上空からマルクスが降りてきて俺の横に並ぶ。
「お前と肩を並べて戦う日が来るとはな」
「まあ、なんだかんだで平和だったということだ」
「……メギストス、いや、フェルディナント様にお前を討伐しろと言われなかったのが助かったぜ」
「もしそうなら、どうするつもりだった?」
「どうかな? ザガムの味方になっていたかもしれんな。友人として」
マルクスがくちばしの端を吊り上げて笑う。
こいつもヴァルカンと同じで昔からの付き合いだ、本当にそうしていたかもしれない。
「さて、さっきのヤツがやられてから、やっこさん火が付いたらしいな」
「え?」
「そのようだ。ファム、ルーンベル下がっていろ」
マルクスが大魔王城があると思われる方角に目を向けると、そこから大量の飛行部隊が迫ってくるのが見えた。
「有象無象がいくらきたところでな……! ‟デッドリーゲイル”」
「おおー、カッコいいです!」
「負けていられんな<ブラックフレア>!」
「ザガムは悪のボスみたいね」
「……」
ルーンベルが苦笑しながらホーリーアローを連発する。
なんともいえないので、目を細めて彼女を見ていると、恐ろしいスピードで飛来してくるなにかの気配を感じた。
「<ギガファイア>! ……岩の塊だと?」
「ザガムさん、来ますよ! たぁあああ!」
「ファム!」
さらに飛んできたのは魔法生物とは違い、ゼゼリックのようにクロウラーの配下と思わしき魔族。
青い髪を逆立てた線の細い男がファムに斬りかかっていた。
フォローに入ろうとした瞬間、別の魔族が声を上げながら突っ込んでくる。
『女の心配をしている場合かね!』
「うるさい!」
『へぶっ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?』
よくわからんが隙だらけだったので裏拳でぶん殴ってやると、そのまま地上へと落下を始めたので、俺は黒竜の背から降りてファムの下へ。
そんな中、後ろからルーンベルの声が聞こえてくる。
「うわあ、一撃で墜落……」
「まあ、ザガムだしな。では、貴様の相手は俺がやるとしようか」
『……まとめてこい、面倒だ』
少し振り返ると、マルクスの前にも陰気な男が立っていた。
まあ、マルクスに任せておけば問題はないだろう。ルーンベルも居るしな。
さて、俺はファムの援護に入るとしよう……!
『くははは! 女が俺に勝てると思うなよ!』
「勝ちますよ! 私は勇者なんですから! ライジングエッジ!」
『ほう……!』
なんとファムが技を繰り出していた。
恐らく母が伝えたのだろうが、鋭い一撃は調子に乗っていた魔族を黙らせるには十分な威力だった。
「好機か。オルよ、その敵を叩け」
「グルゥ?」
「こうだ、蚊を叩くみたいに」
「グルゥ」
「あ」
『な!?』
ファムが口を開けた瞬間、黒竜のオルが魔族をバチンと挟み、物凄い音が鳴った。
「グルゥ♪」
「やりましたねオルちゃん……ああ!?」
「む」
討ち取ったと思った矢先、オルの両手が内側から力任せに開かれた。
『くく……こんなもんで、この蒼色のヒャッピアンを倒せると思うなよ?』
「凄い根性ですね」
「やせ我慢だろう。もう少し力を入れてやれ」
「グル」
オルがこくりと頷きさらに力をくわえると、ヒャッピアンとやらも負けずに対抗。なかなかの力を持っているようだ。
「グルゥ……!」
『へっ、そろそろ脱出しててめぇら二人とも……あん? なんだ?』
オルの表情からこれ以上の力は出ないと推測でき、もうすぐ襲い掛かってくるかと身構える俺達。だがその時、スッとイスラが目の前に現れた。
「では、これならどうですかね?」
『な、なんだてめ……へっ、へっくしょ――』
「ああ!?」
イスラは長い棒に羽ペンをくくりつけたものをヒャッピアンの鼻に近づけた。
程なくしてくしゃみをしたヤツは、また豪快な音とともに挟まれる。
なんと嫌らしい攻撃だろうか。
「……死にましたかね?」
「いや、まだだ! イスラ、離れろ」
俺が叫んだ直後、オルの手から激流がほとばしり甲に穴が空いた。たまらず手を引いたところに、肩で息をするヒャッピアンの姿があった。
『ふざけやがって……! ぶっ殺してやらぁ!』
「ふざけてなどいない。こちらを侮っていたのはお前だろう? それで勝手に消耗した。それだけの話。どいてくれるなら命までは取らんが、どうする?」
『……てめぇはキシュマテを叩き落とした野郎か。その余裕、てめぇがザガム様か?』
「ああ。俺のクズな父親を殺しに来た」
『あの方には勝てねえぞ、大人しく軍門に下った方が――』
「それをするくらいなら死を選ぶぞ、俺は」
『ぐあ!? は、速い!』
一瞬で接近して腹に拳を叩き込むと、苦悶の表情で体を折り曲げる。
そのまま回し蹴りで吹き飛ばすが、すんでのところでガードをしたようだ。
『クロウラー様の息子だとか関係ねえ……殺す!』
「できるものなら」
徹底抗戦の意思を見せて来たので、俺はブラッドロウを抜いて迎え撃つことにした。