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その140:一致団結VS恐怖政治


 「さあ、今日はザガムの誕生日だ、みんな盛り上げてくれ! そして真に倒すべき敵の打倒のため協力して欲しい!」

 「「ぶっ!?」」

 「おい、大丈夫かルーンベル、イスラ」

 

 魔族を集めた宴の席でフェルが募集を始め、二人が酒を吹いた。

 俺とファムで拭くものを渡していると、ルーンベルがせき込みながら口を開く。


 「げほ……いやいや、この席で全員に言っちゃう!?」

 「たくさん集まっているし、面倒が無くていいだろう?」

 「ああ……親戚だってわかりますねえ……」


 イスラが呆れたようにそう言い、俺は首を傾げる。

 そんなフェルの言葉を皮切りに宴は開始され、会場となった大魔王城の庭と周辺は大騒ぎとなった。


 「ザガム様、自分探しの旅楽しかったですか!?」

 「嫁を探しに行ったんだって、ほら美人ばっかり連れているだろ」

 

 「違うわ! 真の嫁はあたしなのよ!」

 「はいはい【霊王】のお嬢さんはもうちょっと成長してからだなあ」

 

 「ぬぁんですってぇ!? 来いアンデッド!」

 「はいはい、なんですか? 楽しい席なんだから勘弁してくださいよ」

 「飲んでんじゃないわよ! ……って、お酒漏れてんじゃない」

 「スケルトンですし」


 「【炎王】良かったですね、ザガム様が帰って来て! ライバルが居ないって寂しそうでしたもんね」

 「……死ね!」

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 まあ、そんな感じで能天気な魔族達との宴は進む。

 

 そして段々と落ち着き始めたころ、庭に集まった魔族が綺麗に整列し、別に卓を囲んでいる俺達の前に立った。


 「我が魔王軍の精鋭は全員ここに居ます。150年前の遺物、大魔王クロウラー討伐のため極北へお供します」

 「……敵は強大だ。死ぬかもしれないよ?」

 「それでも、ですよ。俺達や親は今の大魔王、メギストス様に助けられた者ばかり。悲願は大魔王様だけではないということです」

 「皆さん……」

 「ああ、ファム様お気になさらず。死ぬつもりはありませんから! はははは!」


 魔族達が一斉に笑い、場が和む。

 全てを話したらしく、フェルが元人間であの戦いで先陣を切って戦ったことを知る年老いた魔族も居たらしい。


 メギストスという存在がどこから現れたのか? 急に現れ魔族達を引き連れてこの領地を作った……それは誰にも知る術がなかったが、今回、明らかにされたというわけだ。


 年老いた魔族が泣きながら感謝しているのを見て、魔族も人間も変わらないのだろうと思う。母も叔父も本当にお互いの種族を大切にしていたのだとも。


 俺は人間と魔族、それも大魔王の血をも引く者だが、案外魔族と人間のハーフなんて珍しくなくなるのかもしれないな。


 「絶対、勝たないとですね。私の中に入ったお母様もそう言っています」

 「……そうだな」

 「あんたが頼りなんだから、しっかりしなさいよ? サポートはやるからさ」

 「死にたくないので、是非お願いします」

 「お前、一人でそんなにハンバーグを……」


 ファムやルーンベル、ハンバーグを馬鹿みたいに皿へ乗せたイスラが俺を囲んで決起する。その様子に俺は笑みが零れた。


 「ザガムはようやく自分を取り戻したって感じかな。ただ、クロウラーは自分の後継にザガムを選んでいたらしいし、注意すべきは君達四人かもしれないね」

 「かもしれん。が、それほど俺達はやわでもない」


 ……終わったら本当に結婚するのか、俺は……?


 ◆ ◇ ◆



 ――極北――


 『クロウラー様、お加減はいかがでしょう?』

 『ふむ、悪くない。完全復活とまではいかないが、久しく耐えていた人間を食らったおかげでこうして体を動かすことができる』

 『それはなにより……。それとゼゼリックが帰還しました。なにやら土産があるとのこと』

 『ほう』


 極北にある城で頬杖をつきながら目の前に膝をつく青い肌の魔族の言葉に興味を示すクロウラー。

 復活して10年ほど暗躍し、配下を放って力を蓄えていた彼が、帝国へ潜り込んだゼゼリックの土産が楽しみだとほくそ笑む。

 神霊の園から送られてい女は性行為と共に魔力を奪い、抜け殻となった者は配下に慰み者として放っていた。


 『……戻りました』

 『む、ゼゼリックよどうした、随分力が落ちているようだが?』

 『は……これから話すことと繋がっているのですが――』


 一応、人型を保ってはいるが、下半身を切り離したゼゼリックは半分以下の力しか残していなかった。あのまま戦っていればヴァルカンに倒されていたであろう。


 それはともかく、とザガムや勇者ファムのこと、ヴァラキオンのことといった知り得た情報を全て。


 『ふ、くく……ザガム! ついに見つかったか。アレは大魔王の俺と勇者であるユランの血を受け継いだハイブリッド。魔族を率いるには力だ、ヤツはそれだけの力を有するはず……必ず捕えるのだ。それと勇者とやらも女か、俺とザガムの子を産ませる道具にするかな』


 クロウラーが顎に手を当ててほくそ笑むと、ゼゼリックが頭を上げずに口を開く。


 『御意に。とりあえず私は帝国の人間どもを一人残らずここへ連れてきました。私も力を回復させるために力を頂きますが……後はいかようにでも』

 『助かるぞゼゼリック。ヴァラキオンが殺られて女が供給されなくなったからな。さて、極北で待つのも退屈だ、帝国とやらの椅子をもらうとするか』

 『そうですね、手配をしましょう。息子様は逃がしません』

 『人間どもの恐怖に浮かぶ顔を見るのが楽しみだな――』


 そこへ、伝令が駆け込んでくる。


 『会談中申し訳ございません! て、敵襲……! この極北に向かって大群が!』

 『なんだと……?』



 ◆ ◇ ◆



 「体調に不安は無いか?」

 「はい! 私達は黒竜さんでいいんですかね?」

 「残りは船で行くみたいだし、いいんじゃない? ユースリアさんが先導するなら転覆もないだろうし」


 ファムとルーンベルが黒竜の背に乗ってそんな話をしていた。

 すでに俺達は出発し、あと少しで極北とやらへと到着する予定となっている。

 ファムの装備は少しいい物へ変更し、ルーンベルとイスラも魔力を底上げする装飾品やローブをフェルが用意し、装いは変わっていた。

 倒すなら全力でやるべきだとの意見により即実行となったわけだ。 


 「イザールさん達も行くんですね」

 「ああ。俺の部下だ。それにあいつらの戦力は頼りになる。イザールはフェンリアーという狼族のエリート。ルックネスはドラゴン族でも屈指の実力者だ」

 「ウチのブレイブ君もなかなかですけどね」

 「ぴぎゃー!」


 魅了効果はもうないはずだが、ワイバーンを飼いならしているイスラに関心していると、目の前に氷で覆われた大地が見えてきた。


 「……あれか」

 「いよいよね。ん? なんか黒い影が……」

 「気づかれたか、楽にはいかないようだな」


 黒い影は敵。

 どうやら、奇襲とまではいかないようだ。

 

 「よし、黒竜で先制するぞ。ガイ、オル、マス、頼むぞ」

 「「「グォォォォン!!」」」

 「張り切ってます!」

 「ハンバーグが美味しかったんですよきっと」

 「いや、名前をつけてもらったからじゃない? ま、いいか! それじゃ大火球をおみまいしてやりなさい!」


 ルーンベルの乗った黒竜、ガイが先制攻撃を放ち、戦いが始まった――

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