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その138:目指すは打倒、大魔王


 「落ち着きましたか?」

 「ん、すまないな。もう大丈夫だ」

 「ザガムは子供のころから泣くことなんてなかったから新鮮でいい……あ、痛!? パパになんてことをするんだい!?」

 「うるさい」

 

 母のこと、クロウラーのこと。そして、憎みながらも俺を引き取り育ててくれた叔父……色々な想いが頭を、胸中を巡り、俺はしばらく泣いた。

 大魔王の息子であれば、危険度を考えると処分されてもおかしくはないはずだが、自分たちの体を魔族に変えてまで守ってくれていたことが嬉しかった。


 「で、では、大魔王様は元人間ですかい!? しかし、そこまで強くなれるとは……」

 「まあ、僕は大賢者と呼ばれるくらいには強かったからね。クロウラーの足元にも及ばなかったけど、ご先祖様ならもしかしたら倒せていたかもしれない。千年以上前のアーヴィング家はそれこそ世界最強だったらしいから」

 「そうなんですね、じゃあザガム=アーヴィングが本名?」

 

 ファムが唇に指を当ててそう言うと、フェルは頷く。

 この珍しい黒髪もその時から受け継いでいるらしい。


 「大賢者と呼ばれた初代は神をも倒したとか? まあ、よくある伝説だけど、実際ウチの家系は強者が多いんだ。それで姉さんが勇者となったためクロウラーは倒せると思ったんだけど」

 「逆に返り討ちに、ということですね。それにしてももっと早く打ち明けても良かったのではありませんか?」


 マルクスが少し不満げに漏らすと、ロックワイルドが代わりに口を開く。


 「ザガムにそれを話すのは時期を考えていたからな。少なくとも、感情を取りもどすまではと思っていた。

 感情が無いままであれば、クロウラーの操り人形にされる可能性もあるのだ」

 「最初出会った時は不愛想だったもんねあんた」

 「……」


 ルーンベルが意地悪く笑いながら俺に言う。

 確かに、いま思えば人間を支配するとか恥ずかしいことを言っていたなと。

 どこかで大魔王の血がそうさせていたということにしておこう。


 「ま、僕達のことはこんなところだけど他に聞きたいことはあるかな?」

 「はい」

 「ユースリアか、どうぞ」

 「結局メギストス様はこの魔族領をどうされるおつもりですか? この後、恐らくクロウラーの討伐をすると思うのですが」


 俺の方をチラリと見ながらユースリアが手を上げた。

 姉や母代わりとして面倒を見てくれた記憶は残っていて、冥王になる前の生活基盤は彼女の持ってくる海産物だったなと思い起こす。


 「僕やメモリー、ロックワイルドの悲願はクロウラーを倒すことのみ。それさえ達成できれば君たちの誰かに大魔王の座を譲ってもいい。余生がどれくらいあるのか知らないけど、ひっそりと過ごすよ。ザガムでもいいけど」

 「いや……もはや、事実を知った今、その椅子に用は無い。ヴァルカンでもなればいい」

 「なんで俺なんだよ!?」

 「拘ってそうですもんねえ。コギーちゃん、大きくなったら美人になりますよーきっと」

 「なんであのガキが出てくんだよ!?」


 イスラがからかう中、ユースリアは続ける。


 「メギストス様の意向、承知しました。……でも、まさか本当に甥っ子とは思いませんでした」

 「悪いねえ、ザガムの姉役をずっとしてもらっていて。僕ら三人は『知っているが故』に接し方が難しいんだ。育てるなら、何も知らない方がいいかと思って」

 「いいですけど。ザガムは大人しい子でしたし。私が愚痴をこぼしていると、花を持ってきてくれる優しい一面もありました。無言でしたけど」

 「やめろ」

 「うーん、可愛がられていたんですねえ」


 ファムが生暖かい目で俺を見るのでこめかみを抑えてやった。

 とりあえず、真実はいいとして今後の話に移らなければならないと席に戻ってからフェルへ尋ねることにした。


 「フェル、これからのことだが――」

 「パパでいいのに」

 「――やはりクロウラーを倒すのか?」

 「冷たい……!? まあ、そうなるね。ザガムは冥界で姉さんに会ってきたようだし、戦力的には申し分ない。これでクロウラーと五分ってところかな? ああ、【王】達に戦いは強制しない。魔族領で極北へ行くメンツは募集するけど」


 その後『これは150年前の復讐だ』と笑いながら告げる。

 数が居れば有利になるが、私怨でもあるためあまり巻き込みたくないという意向が汲み取れる。

 

 フェルと俺、メモリーにロックワイルド。それにファム達が居ればおおむねなんとかなるだろう。

 ただ、俺でも勝てないフェルをあっさりと倒すクロウラーの強さが未知数なのが博打ではあるか。


 「俺は行くぜ。ザガムに負けっぱなしで、死なれたら困る。それにあの町の連中もまた死にたくはねえだろ」

 「友人として、見過ごすわけにはいくまい」


 俺が戦力について考えていると、ヴァルカンとマルクスが不敵に笑い、参戦を表明。


 「もちろん姉を置いて行かないわよね? 結婚式、楽しみにしているんだから」

 「ザガム様、あたしも連れて行ってね♪」

 「行く気はしないけど、キルミスが行くなら仕方ないね」

 「お前達……」


 【王】は全員参加のようだ。まさか【霊王】の兄妹がついてくるとは思わなかったが。


 「よろしくね、キルミスちゃん!」

 「な、慣れなしくしないでよ! あんたはザガム様を巡るライバルなんだから!」

 「いや、もう嫁として認識されているからファムの圧勝だと思うけど……」

 「ええ!?」

 「ありがとうみんな。僕みたいな大魔王についてきてくれてさ。それじゃ……」

 「ごくり……」


 軍団員を集めるのかと思い言葉を待つ。

 しかし、フェルは笑いながらとんでもないことを口にする。


 「今日のところはお祝いといこう! 実は今日、ザガムの誕生日なんだよねえ」

 「あら、そうなの?」

 「そうだよルーンベルさん! というわけで、今日は騒ごう! ルックレスが面白い料理を覚えて来たらしいし」


 その言葉に全員が椅子からずり落ちる。

 まあ、時間は必要だしな……もう少し訓練をしておくかと思った矢先――


 「あ……」

 「ん? どうしたファム」

 「あの、私に憑いてきた女性が話したいってジェスチャーを。え? 体、を、イン? ふあ!?」


 ファムの体がビクンと跳ねた後、がくりと項垂れ、俺は慌てて肩をゆする。

 すると、顔を上げてにっこりと微笑み、抱き着いてきた。


 『ザガム!』

 「お、な、なんだ……!?」

 『お母さんよ!』

 「なにを言っているんだ……?」


 ファムがおかしくなった。

 そう思ったが、どうやら違うようで――

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