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その137:大魔王メギストスのこと


 「メギストス。神霊の園では世話になったな」

 「そういわれると心苦しいけどね? 無事でなによりだよ」

 

 俺の皮肉に笑うメギストスをぶん殴ってやろうかと思ったが、ファムが先に口を開いた。


 「ユースリアさん!」

 「久しぶりファムちゃん。大変だったようね」

 「この人がザガムさんを殺しかけたり、帝国が攻めてきて大変でした」

 「はっはっは」


 ユースリアの問いにファムがメギストスを指さしながら言うと、ヤツは高らかに笑う。そこでファムが話を続ける。


 「そういえばユースリアさんも【王】だったんですね」

 「ええ。【海王】ユースリア、ザガムの姉っていうのはあんまり間違ってないけど」

 「そうなんですね! やっぱり魔族でもお友達になれますよザガムさん」

 「さて、それはこいつ次第だが……話というのはなんだ?」


 俺はファム達にも座るよう促しながら尋ねると、メギストスはゆっくり頷いてから、懐かしむような目で話し始めた。


 「……そうだね、なにから話すべきか。いよいよこの時が来たと言うべきか。ザガムは自身が勇者の血を引いていると知ったね?」

 「ああ」

 「そう、お前は150年前に現れた勇者ユランの息子。そのことは私、メモリー、ロックワイルドの三人だけが知っている。古参の【王】だけが」


 笑顔で手を振るメモリーと、久しぶりに見た【土王】ロックワイルドが腕を組んだまま俺に目を向けてくる。

 

 「……150年前か。冥界で見た夢の中で母のことを知った。最後は母が死ぬところと、その弟がクロウラーを封印して俺を託されたところで意識は途切れた。どうして俺は魔族領にいたか、知っているか? あのフェルという弟はどこへ行った?」


 すでにあの弟とやらも老いて亡くなっているだろう。

 俺を拾った状況が分からんが、もしかしたらメギストスがなにかを知っているかもしれないと聞いてみる。


 すると――


 「……僕だよ。僕がユラン姉さんの弟、フェル。フェルディナントだ」

 「……!?」

 「「「え!?」」」


 流石の俺達も表情を硬くして目を見張る。

 そしてメギストスの表情はいつもとは違い、寂し気な表情で俺達を見ていると、ファムが続ける。


 「フェルディナント……って、神霊の園で名乗っていた名前、ですね。ということはあれは嘘ではなく……」

 「そう、本名さ」

 「でも、勇者は150年前に死んだ。あなたが人間なら生きているはずはないでしょう? それに大魔王と名乗っているのが分からないわ」


 ルーンベルが訝しむように聞く。

 それはここに居る全員が疑問に思っていることだろう。


 「一つずつ順を追って話そうか。僕達は150年前、魔族領を牛耳っていた大魔王クロウラーの討伐を全世界から期待されて旅立った。

 当時の魔族領は今みたいに穏やかじゃなくてね、それこそ人間が足を踏み入れたらどうなるのか分かったものじゃない。それでも姉さん……勇者ユランは強く、賢かった」


 そこからの話は冒険譚とも言うべき話。

 母とフェルディナント、それと二人の仲間四人で旅を続け、大魔王城……今、俺達が居るここへと辿り着いた。


 配下の魔物、ゼゼリックとヴァラキオンたちを倒し、大魔王クロウラーに戦いを挑むまでは良かったのだが――


 「ヤツの力は強大だった。僕と二人の仲間は瀕死となり、姉さんの魔法で逃げることができた。だけど、姉さんは捕まり、慰み者となってしまった、んだ……」

 「そんな……それで、殺されたんですか?」


 そうか……そういうことか……! 今、俺の存在と記憶が繋がった。


 「殺された。不可抗力ではあったが俺を庇い、目の前で死んだ。そして……俺の父親は大魔王クロウラー。そうだな?」

 「え!?」

 「は!?」

 

 驚いて俺の顔を見るファムとイスラ。ルーンベルはなんとなく察していたのか、難しい顔で腕を組んでいた。

 メギストス、いや、本当に叔父だったらしいフェルディナントがゆっくり頷いた。


 「ご名答だよ、ザガム。お前は勇者の血と大魔王の血を受け継いだ……いわば忌み子とも呼べる存在だ」

 「ちょっと! そんな言い方は――」

 「いいんだファム。……フェルが未だ生きていることと関係もあるのだろう?」

 「……ああ。本来なら、姉さんを救出し、極北に逃げ込んでいた大魔王を配下ごと封印する手はずだった。

 だが、到着した時にはすでに遅く、姉さんは瀕死。ザガムはクロウラーが後継とすべく、記憶と感情を消され、ほとんど人形のようになったのだ」


 俺の記憶の最後の瞬間、クロウラーがなにかをしたのか、それとも徐々に、母に気づかれぬよう仕込んでいたのかは分からない。

 フェルが俺を連れ帰ってから数年は赤子と変わらず、食事も大変だったそうだ。


 「あの時、俺に憎しみの目を向けたのはやはりクロウラーの子だったからか?」

 「……覚えているのかい。ああ、正直な話、僕はあの場で殺すべきだとも考えたんだ。クロウラーの力は強大だ。さらに勇者と大魔王の血を引く息子が敵に回ったら、世界は終わる。ならば今のうちに、と」


 乾いた笑いで首を振るフェル。

 そこで、メモリーが俺に顔を向けた。


 「あまり責めないであげてねー。結局、ユランの息子だという事実は変わらないって、あんたを育てると決めたんだから」


 さらにロックワイルドが続ける。


 「うむ。お前は魔族の血を引いているため、寿命が長い。あの日、封印した日から50年経っても、お前は子供のままだった。そんなフェルディナントは……自らの体を魔族に変えた」

 「なんだと……。だから、死なないのか? ではメモリーとロックワイルドは……」

 「ええ。元・人間の勇者パーティの一員よー」

 

 古参、というのは誇張でもなんでもなく、仲間だったという。

 フェルはそんな二人に申し訳ない顔を向けながら、口を開いた。


 「いつか必ず封印は解ける。その時、ザガムがヤツに奪われないよう、きちんと自分の考えを通せるように、僕はお前を鍛えた。最後のピースは『自我』。

 ファムちゃんと共闘すると考えて旅立った時点で、おおよそ、人としてのザガムが帰って来たと判断したよ」

 「だから追ってこなかったのか?」

 「人間とのふれあい、そして同じ勇者と出会うことが出来れば、感情も戻ってくるのではと考えたんだよ。この魔族領では、力が全てなところがあるから、支え合って生きる意味を知るのは難しいからね」


 フェルが肩を竦めてそういうと、ファムが手を上げて尋ねた。

 

 「それじゃあ最初からザガムさんを殺す気は無かったんですね?」

 「そうだよ。偶然とはいえ、クロウラーの配下であるヴァラキオンを見た時のため冥界へ誘う手助けをしたって感じかな。実際、役に立っただろう」

 「確かに……あの時点で見据えていたわけか」


 「あいつが居るということは、クロウラーも復活間近だということだから。僕が大魔王として君臨しているのは、まあ、挑発みたいなもんでね、封印した張本人が魔族のトップならまずはこっちを狙ってくると判断したからでもある」

 「人間を魔族にする……どれほどの禁忌を犯したんですかねえ……」


 魔法使いのイスラは三人を見て冷や汗をかく。

 

 「やること自体はそれほど難しくないんだけどねー。素体となる魔族を用意すれば」

 「ああ、元になる魔族の特徴を引き継ぐんですかね……? それで角なんかも」

 「僕の角は糊でくっついているだけだよ。取ったら威厳が減るからね! はっはっは!」

 「酷い!?」


 フェルがぺりぺりと頭についている角を剥がしながら笑う。

 軽い調子だが、姉を奪われたこと。仇敵の息子でもある俺は憎かったに違いない。


 それでも、人間を止めてでも俺を育ててくれたのだ。


 「ザガムさん……」

 「すまない……俺のために……ありがとう。叔父さん」

 「……気にしないでいい。君は僕の唯一の肉親なんだからね。いやあ、大きくなったよ! ははははは!」

 

 俺は初めて大泣きしながら、涙を零しながら、自然と出た礼の言葉を告げ、フェル叔父さんと握手を交わしたのだった。

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