その130:容赦なく
「おらぁ!!」
「ブレイブ君、回避ぃぃ!」
「ピギャァァァん!」
迫りくる黒竜の内、まずは先頭の火球と槍の攻撃を避けるわたし達。
でかいので当たりは強いですが、速度はそれほどでもないため難なく回避。
「フッ、ウチのブレイブ君の速さに――」
「イスラ様、前!」
「ん!?」
「そこに来ると思ったぜ! 食らいな!」
「ちょこざいな! <メガファイア>!」
「チッ、やるじゃねぇか……! だが!」
「ピギャ!?」
「グルフフフ……」
まだ回避行動から立て直していないブレイブ君の羽に黒竜の爪が直撃して大きくバランスを崩す。
「<ヒーリング>! んで、<メガウインド>!」
「うお!?」
「ありがとうございます、イスラ様♪ てぇい!」
「次が来てるぞ!! 撃ち抜いてやる!」
わたしは即座にブレイブ君の傷を癒し、背で戦っているメリーナさんの援護射撃を行う。
手綱を離すわけにはいかないので、命中率に難がありますね、やはり……!
んで、スパイクさんが矢を放つ先には、もう一頭が口を開けて迫っていた。
「ピギャァァァ!?」
「ブレイブ君の頭をかみ砕くつもりですかね!? <テンペスト>!」
間に合いますかね……!
わたしは『相手に向かって』ではなく真上に魔法を撃ちだしました。
直後、ブレイブ君の体はがくんと急降下をし、牙を逃れることに成功。そのまま炎の槍をどてっぱらへぶち込みます!
「くっ、魔法障壁! 硬いですねえ」
「やるな嬢ちゃん……! まさか初見で回避されるとは思わなかったぜ。おい、もう一度だ!」
黒竜に乗った騎士が忌々しいといった声色で舌打ちをし、再び上昇して一列に並ぶ。
なるほど、連携で相手を攻めてくるんですね。騎馬なら地面があるので対処しやすいですが、空だと制限は少ないから理には適っていますか。
「ギャァァァオオ!」
「小娘がメインか、せいっ!」
訓練を受けているだけあって、動きは正確。
ブレイブ君が落ち着く前に、別の騎士が襲ってくる。
「黒竜が態勢を整える間にワイバーン部隊襲ってくるってわけですね……! 痛っ!?」
「かすっただけか、魔法使いのくせに生意気な」
「<ギガアイス>……!」
「当たらねえよ!」
チッ、ちょろちょろと……!
スパイクさんも他のワイバーン部隊をけん制しているのでわたしが狙われたら自分で対処するしかありません。できれば大技をもう一発ぶちかましてやりたいのですが、魔力を高めるのに時間がかかるんですよねえ。
せめてメリーナさんが守ってくれればと思うんですが……
「なかなかやりますねぇ。ただ避けるだけということは時間かせぎですかぁ?」
「……気づいたか。一人抑えるだけでかなり違うからな。というかメイドのくせに攻撃はやたら鋭い」
……なるほど、魔族の彼女がしとめ切れていない理由はそこですか。
ならば、こうしましょうか。
「ブレイブ君、空に向かって飛びなさい!」
「ぎゃお? ……ぎゃおおおおおん!」
ぺちぺちと背中を叩いてやると、勢いよく上昇。
縦に飛ばせたのはもちろん理由がありまして……!
「うお!?」
「……! 今ですぅ!
騎士が大きく傾き、滑るように尻尾側へと落ちていく。
ロープを掴んで止まりましたが、意図に気づいたメリーナさんがロープを切断し、空へと投げ出されました。
「うおおおおい!?」
「あ、すみません。<スパイダーネット>! ブレイブ君、もういいですよ」
「ぎゃっぎゃ♪」
特に打ち合わせをしていなかったスパイクさんも落下しましたが、わたしは即座に粘性の糸を放出し救出すると、ブレイブ君を水平に戻し仕切り直しとなりました。
旋回しながら火球を避けつつ、二人と相談タイムですかね、これは。
「ありがとうございます、イスラ様」
「いえいえ、早く気づくべきでした。大丈夫ですか、スパイクさん」
「むちゃくちゃしやがって……!? しかし、これで少しすっきりしたな」
「ええ。で、あの黒竜はやはり魔法抵抗力が高くて魔法が通じません。なので奥の手を使います。その間わたしは無防備なので防衛をお願いしたいのですが」
「わかりましたぁ。とりあえず、本気で行きますねぇ。スパイクさん、これが私の本当の姿です……!」
メリーナさんがそういった瞬間、背中から蝙蝠のような羽が生え、爪が伸びてドレスアップしたかのように真っ赤になった。
「魔族、ですか」
「ええ♪ だからわたしを好きにならない方がいいと思いますよぅ?」
「それは――いや、今は迎撃を。イスラさん、頼みます」
スパイクさんは真面目な顔で矢をつがえ、メリーナさんが唇を舌で舐めながら頷くのを確認し、魔力を高める。
命の危険とか一切ないんですけど、発動までに時間がかかるのがネックなんですよね。
そんな中、ワイバーン部隊の攻撃を避けながら飛ぶブレイブ君の前に、ようやく追いついて回り込んきた三馬鹿が再び襲い掛かる。
「捉えたぜ! フォーメーションだ」
「よし、今度はぶつけてやるぜ」
「いくぜぇぇぇぇ!!」
「スパイクさん、ワイバーン部隊は任せましたよぅ」
さて、わたしは一言も発さずひたすらに魔力を高める。
壮絶な空中戦でそろそろブレイブ君の体力も落ち始めるころだと考えると、今から放つ魔法と、もう二手、三手程度でケリをつけたい。
実際、この三馬鹿のフォーメーションとやらはぱっと見アホっぽいけど実は結構悪くない。
というのも、例えば三方向から攻めた場合、地上とは違い上下に逃げることが出来るからこの三馬鹿のように、相手に合わせて詰めていく方が空中戦において有利を取れると思う次第。
「うらぁ! 引き裂け!」
「させませんよぅ!! <メガファイア>!」
「効かねえな! とった!」
「牽制にもなりませんか……!」
ギガ系の魔法でもあれを抜くのは厳しいけど、武器がレイピアのメリーナさんでは仕方がない。すれ違いざまに一頭目の黒竜の攻撃を避けるも、すぐに騎士の槍が迫る。
「メリーナさん、危ない!」
「チッ!?」
「やぁ!」
「ぐ……次を頼むぜキリック!!」
槍を振りかぶる前に、スパイクさんの矢が騎士に向かい、手を引いた。
その際、メリーナさんの一撃が肩にヒットしてバランスを崩す。
「任せとけ……! 嬢ちゃん、その首もらうぜ!」
「させませんよぅ! きゃあ!?」
「ドラゴンと遊んでろ! 動きを止めた、ジョウイ今だ!!」
「ぴぎゃぁ!?」
二頭目はブレイブ君の翼を掴み、飛行できないようにしてきた。逃げた方向で待ち構えられていたのだけど、それはメリーナさんも読んでいた。
しかし、三頭目がすかさず側面に回り込み、わたしを狙ってきた。
「くっ、イスラ様……!」
「おおおおお!!」
少し魔力の溜めが足りませんが、致し方ありませんか……!
引き付けているならこの二頭ならいけるはず!
「さあ、お仕置きの時間ですよ! 轟け! <サンダーストーム>!!」
わたしが両手を左右に広げた瞬間、ほとばしる雷撃が敵を包み込んだ!