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その127:魔族と魔族


 「なんだてめぇ……? 同族だと? お前みたいなやつ、見たことねえぞ」

 「……」

 『ふむ、もはや我らのことを知る者は居ないのか』

 「別に珍しいことではないでしょー? 魔族なんていくらでもいるんだし?」

 

 と、メモリーさんが口にしてやっぱり魔族だと確信し、さっきの発言に抗議する。


 「同族って誰のことですか! あなたと同じ人は居ませんよ!」

 「あー、ファムちゃん、ちょっと静かにしててねー」

 「えー!?」


 何故かメモリーさんに窘められて頬を膨らます私。

 すると、魔族が笑いながら口を開く。


 『まあ、150年も経てばやむ無しか……私の名は『ゼゼリック』。緋色のゼゼリック……聞いたことが無いかね?』

 「……!? そりゃあ――」

 

 ヴァルカンさんの顔色が変わり、口を開こうとしたところでメモリーさんが割り込んだ。


 「知らないわねー。とりあえずファムちゃんを返してもらいましょうか」

 「メモリー、おめえ……」

 「黙りなさいヴァルカン。あいつは敵、それ以上でもそれ以下でもないわ。ベル、無理はしないでいいからファムの保護を優先してもらえる? ミーヤはズタボロになるかもしれないけど、死なないように手は尽くすから」

 「了解ですにゃー……」

 

 怖い顔になったメモリーさんが指示を出し、ミーヤさんが青い顔で横へ回り込んだ。三人はこの魔族の正体を知っている、のかな?

 

 「あれが魔族なら、私も手伝いできるわ。ファム、もうちょっと待ってなさい」

 「ありがとうございます! でも、私も頑張って……! んー!」

 『余計なことはするな。しかし、大魔王様も運がいい、またしても勇者が女とはお喜びになる』

 「え? 大魔王?」

 「……嬢ちゃんを放しな!」


 ゼゼリックが話していたところにヴァルカンさんが一足で目の前に立っていた。

 炎をまとった拳が顔面を狙うが、紙一重で避けるゼゼリック。

 私、全然見えなかったのに……


 いやいや、それよりさっきの言葉が気になってしまい考える。

 今、大魔王様と言いましたが、あの人……メギストスさんが私を狙っているってことですかね?

 でも、それだったら『神霊の園』で連れて行けばよかったのに?

 それとあの時、ヴァラキオンという魔族を殺したのは大魔王じゃなかったっけ?


 「チッ、ちょろちょろと……!」

 『まあまあの強さですが、その程度なら昔はごろごろ居ましたよ?』

 「隙あり、にゃ!」

 『おっと、女性を殴るのはあまりしたくないんですがね』

 「いたいにゃ!?」

 

 ヴァルカンさんとミーヤさんの同時攻撃を受け流し、さらにメモリーさんが放つ足元の草や枝は届く前に塵と化す。

 そこで魔法を撃ち続けるルーンベルさんが怪訝そうな顔で言う。

 

 「……蔦や草、燃えている?」

 「ちょっと、相性が悪いわねー……」

 『草木を操る手腕は先ほど見せてもらったからな、私の『緋色』は火や炎、熱といったことに関する力だ。特定の場所に熱を帯びさせれば燃やすことは容易いな!』

 「ぐぅ……!?」

 「ヴァルカンさん!」


 さっきからヴァルカンさんとミーアさんの動きが鈍い。

 恐らく、私が抱えられているから全力で打ち込めないんだと思う。


 「この……! 放してください!」

 『そうはいきませんな。大魔王様の奥方になられる方なので、このまま一緒に来てもらいましょう』

 「はあ!? 私の夫はザガムさんだけです!」


 というかあの人、そんなことを考えていたんだ!?

 私は全力で力を出し、ゼゼリックの腕を握りしめる。


 『ぐあ!? な、なんという力……!? ゆ、勇者の力は今回も顕在か……!』

 「大魔王のお嫁さんなんて嫌ですからぁぁぁぁぁ!」

 「お、いいぞ嬢ちゃん! くらえヒートナックル!」

 『ぐうう!?』

 「外れた! とぅ!」


 私が暴れた直後ヴァルカンさんの左の脇腹に一撃が入り、拘束が緩んだ瞬間ゼゼリックの右脇腹へ剣の柄を叩き込んでから転がるようにその場を離れた。


 「ふう!」

 『逃がすか……!』

 「そこで私の登場よ。さらに詠唱は済んでいる! <アセンション>!」


 私を庇うように立ったルーンベルさんが古い本を片手に指をサッと動かし魔法を唱えると、ゼゼリックの足元に魔法陣が浮かび、光が包み込む。


 『これ……は、聖言!? 貴様は聖女……!』

 「っぽいだけだけどね? にしても、これでその程度とは驚いたわ」

 「ルーンベルさん!」

 「立ってファム。ここからが本番よ。色々聞きたいことが多いけど、まずはボコってからね」


 さらに、ルーンベルさんは腰からロッドを抜いて伸ばす。

 

 「それは?」

 「聖女様に授かったのよ。性格はアレだけど、あの人の力は本物だからね」

 

 あのえっちな聖女様を思い出して苦笑する私達。

 でも気になることは――


 「なんであの魔族に乗っ取られてたんでしょうね」

 「こいつもだけど、あのヴァラキオンって魔族も相当強い力があるってことよ」

 「でも、大魔王に一発で倒されたんですよね?」


 私が剣を抜いてそう言うと、ゼゼリックが目を見開いて怒声を上げる。


 『大魔王だと! どこの誰が名乗っている! 大魔王はただ一人、我が主クロウラー様だ!』

 「……誰です? 大魔王はメギストスって言ってましたよ」

 『それこそ誰だ!? しかし、ヴァラキオンを消滅させたことに関与しているようだな……女を連れて行く前に聞かせてもらうことができたようだな。む……!?』


 そう言いながら魔族の本性を現すゼゼリック。

 ドラゴンのような羽に三白眼。赤い髪が腰まで延びて、前傾姿勢を取った。

 だけどそのすぐあとにヴァルカンさんが重い拳を突き出す。

 あまりにも重いのか、踏み込んだ地面はめり込み、受けたゼゼリックは大きく後ろに吹き飛んだ。


 「嬢ちゃんがいねえなら全力だ。帝国とやらに加担している件と大魔王様について話してもらうぜ?」

 『上等……私も全力で行かせてもらうよ?』

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