その126:迎撃の後に
「ブライネル王国の者達を根絶やしにしろ!!」
「お、おおおおお!」
先手を取ったメモリーさんに一瞬怯むも、帝国の兵士達は後方で指揮するおじさんに促されて戦闘開始となったのだけど――
圧倒的。
ひたすら圧倒的という以外の言葉が見つからない。
「あ、が……」
「ひ、ひぃぃ!? 草が絡みついてくる!?」
「枝が腕に!? くそ……おい、取ってくれ……え!?」
「こ、こいつ腹から樹が……!? あ、ああああああ!?」
先頭に立った重装兵さん達。
自慢の鎧は役に立たず、どこから入り込んだのか内側から木が生えたりなどして倒れていく。
メモリーさんが足を鳴らすと地面から草が絡みつき、木が急激に成長して腕や足を鎧お構いなしに貫いていく。
もちろん逃れる人も居るけど、本来狙っていた計画を崩されたからか動きはぎこちない。
「な、なんだこれは……!? 魔法か? ええい、やつらは門から全員はいっておらん! 押せ! 殺せ!」
「させるか! メモリーさんの魔法で拘束されたやつから叩け! 魔法兵は弓兵を中心に狙え! ……ぐ!?」
「無理すんな、俺が先に立つ! ボルカニックストーム!」
「炎が……!? ぎゃぁぁぁぁ!?」
弓がガントレットに刺さり呻く副団長さんに、ヴァルカンさんが首根っこを引いて下げると右手から炎の渦を吐き出し、相手の兵士達が燃え上がる。
「おのれ……なんだあの大男は……! あいつを囲め! 弓兵は後ろにいる女を集中的に狙えよ」
「ハッ!!」
「いけない! メモリーさん!」
私は目の前に居た剣士を切り伏せ、ルーンベルさんとメモリーさんの援護に向かう。
「守りますよ!」
「あら、ありがとファムちゃん♪」
「その技、無防備にならないの?」
ルーンベルさんが倒れた兵士さんの回復をしながら尋ねると、メモリーさんはにたりと笑って口を開く。
「あー、大丈夫よ。この町はもう『掌握』したわー」
「掌握?」
「そう、【樹――」
「あ」
「なんです?」
急にルーンベルさんが私の耳を塞いできた。
なんだか得意気に話しているんだけど全然聞こえない。
「――という感じで、町を掌握したのよー」
「全然わかりませんでした!? もう、ルーンベルさんなにするんですか」
「ごめん、虫が居て」
「それはそれで怖いですけど……っと、全然敵が来ませんね」
私がそう言うと、ルーンベルさんが説明してくれる。
どうやらメモリーさんは魔力で木々を操ることができるそうで、この町全体の草木に魔力を通して町の全景を把握できてしまっているらしい。
その証拠に、屋根や後方に控えていた兵士達が次々と落ちてくる。
「すごいですね! ということはもう、勝ったも同然じゃないですか!」
「……ううん、あくまでも町の中だけなのよねー。恐らくこの中に居るのは1000人程度。残りはまだ別の場所で待機しているみたいね」
「そういえば5000人くらいいるって言ってましたっけ?」
ヴァルカンさんを筆頭に、崩れた敵陣を確実に突破していくブライネル王国の兵士達。いよいよ、矢と魔法が飛んで来なくなったところで敵の指揮官が大声を上げた。
「おのれ……撤退だ! 町は放棄する! 覚えておれよ……!!」
「撤退! てったーい!」
兵士が笛を鳴らし、逆側の門へ一斉に移動を始めた。
しかし、逃がすまいと私達は追撃を開始。
もちろんいち早く動いたのはヴァルカンさんだ。
「ふん、逃がすと思ってんのか!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「構うな! 逃げろ! 策はまだある!」
「待ちなさい! <ホーリーアロー>!」
「<ギガフリーズ>!!」
「<ギガファイア>!」
ルーンベルさんの魔法を相手の魔法使いが相殺し、こちらに向かってギガクラスの魔法を連発してくる。
メモリーさんが止めると思ったけど、その気はないらしく、
「ヴァルカン、深追いは禁物よー。……ちょっと泳がせた方がいいかも?」
「どういうこった? ……チッ、逃げ足だけは早えな」
追撃戦になるかと思われたが、メモリーさんはむしろ追うなと止めてきた。
そうこうしている内に敵は撤退し周囲が静かになると、兵士達が歓声をあげる。
「……うおおお! まずは勝ったぞ!!」
「「「おおおおおおおお!!」」」
「ヴァルカン殿、メモリー殿、ご協力ありがとうございました。お二人のおかげでほとんど負傷者を出さずに追い返すことができました。しかし、泳がせるとは? このまま追撃でいいのではないでしょうか?」
「まあー、落ち着いて。相手が5000なら、今ので少しは倒せたわ。このまま行ってもいいけど、待ち伏せされている可能性が高い。策を練った方がいいわ」
「なるほど……」
「確かに、一度態勢を立て直すことも必要か……」
それなりに地位のある人たちが集まって頷く中、ヴァルカンさんとルーンベルさんが口を開く。
「差しあたって思いつくのはこいつらは足止めってところかしらね?」
「だな。ワイバーンが城に攻撃をアタックするのが本命と見たぜ。あっちは上手く行くといいがな」
「ワイバーン一頭に、イスラさんとメリーナさんだけですしね」
「メリーナが居るからそこは大丈夫だと思うにゃ。とりあえず私、斥候をしてこうようかにゃ? 気配を消すのは得意だけど?」
ミーヤさんが肩に大剣を担いで笑うけど、メモリーさんはもっと別のことを考えていた。
「それもいいけど、こっちの軍勢を戻した方がいいかしらねー? 町を迂回して、前の町に送り込むくらいはしそうじゃない?」
「あ、それはあるかもですね! 私、戻ってもいいですよ」
確かに町を突っ切らなければならないような場所じゃないので、ルーンベルさんと戻るかと思い口を開くが、メモリーさんはまだ考えているようだ。
そこへ兵士の皆さんが敬礼をして私達へ言う。
「すみません、攻めないのであれば我々は町の人達の状況を確認します。なにかやることがあれば声をかけてください。一応、二日なにも無ければこちらから攻め入ることも考えています」
「オッケー」
――町の状況はそれほど問題となるような状況ではなく、良かったと思う。
ただ、攻め入られた時に抵抗した数人が殺されているのだそう。
抵抗を止めて、私達を招き入れるために協力するということで軟禁状態になったけど結果は今の通りというわけ。
「……なんで戦うんだろう。仲良くできればいいのに……」
「そうね……。ヒズリーン帝国は元々いい噂を聞かないところだし、こんなものかも」
「そうなんですね……。あ、皆さんのお手伝いをしないと――」
それを聞いて落ち込む私。
気を取り直して頬を張った後、お手伝いできることが無いか確認しようと思ったところで――
『まあ、醜い闘争をするのが人間ですからね? それは歴史が証明しています。家畜程度の生き物が生意気だとは思いませんかね?』
「……!?」
「避けろ嬢ちゃん!」
「……!!」
耳元で知らない男の声が聞こえた瞬間、ヴァルカンさんが私目掛けて拳を振るう。
直後、私の身体がふわりと浮いた。
「……どこから来たのかしら?」
「気配は感じなかったぞ? 何者だてめぇ」
『クク、君達は同族か? しかし、大したことは無さそうだ。人間相手にいきってもらっては困るな?』
「は、放してください!」
『それはできません。若い女性を集めなければなりませんので。そちらのシスターにも同行願いましょうかね』
そう言った男は、見るからに魔族だと思える長い耳を動かしながら私達にそう告げた。ホントに何者なんだろ……? とりあえず脱出しなくっちゃ!